岸近くでは鉛色の帯状に凍り始めた沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.1)
(アルツハイマーになった妻)

初日の出を見に来た人の声が騒々しくなってきたころ、直ぐ後ろで「マイナス3度になった」と若い人たちの話し声。オレンジとブルーに染まる水面、岸近くでは鉛色の帯状に凍り始めた沼。210101.jpg

対岸の一点が輝き、一瞬のどよめきの後の静寂。初日が登り始めたらスマホを掲げる若者のグループに背中を押される。210101a.jpg

早々に人混みから抜け出せば、スマホやタブレットを掲げる人の列。210101b.jpg

『青い空。気持ちいいね』 (2021.1.1)
昨日の妻との面会、玄関前で面会票を記入し、Oさんに「天気がよくなって落ち込みは直りましたか? 気圧が急変したり気温変化の大きいときは落ち込むようです」「そのようですね」「寒くないようにコートでも着せて来て下さい」とお願いした。駐車場へ行くとコートを着て窓辺に来た妻、ガラス窓を開けてもらい、「遠いところ来てくれてありがとう」「直ぐ近くだよ。Aさんの家の所から坂を登ったところ」「それなら近いね。誰と一緒に住んでる?」「一人だよ」「じゃあ、子どもは私一人だけ?」「私を誰だか分かる?」「顔は直ぐ分かるが、名前は・・・詮。お父さん」「お父さんじゃない、私はあんたの夫」「だって、いつもお父さんて呼んでるじゃない」「私はAとLのお父さん。二人の子どもがお父さんって呼ぶのをあんたも真似してお父さんって呼んでた。あんたのお父さんは岩滑の幹さん、お母さんはさか江さん。あんたは私の奥さん」「ごちゃごちゃして訳が分からない。私には子どもがいた?」「AとLの二人」「あなたには別に子どもがいたの?」「AとLの二人は私とあんたの子ども」「どんどん忘れて分からないことばかりだ。忘れちゃうのは病気?」「病気だから忘れるが、忘れたっていい。今のことは分かって話ししているが、時間が経つと忘れるだけ。過去のことは忘れてもいい。いつも今を大事にして楽しく過ごせばいい」「そうだね。その方が辛くない」「天気がよくなったから落ち込んだ気分も直ったね」「見てご覧よ、青い空。気持ちいいね。写真撮ったら」「写真撮ったら画面全部が青一色だね」「アハハ、そうだね」「外にいると寒そうでかわいそう。今日は大晦日?」「そう、明日は元旦。今年1月にここに来て1年たった。元気になってくれて嬉しいよ。今度は1月3日に面会に来る」「明後日?」「しがさって」「そうだね。来てね、待ってるよ。お父さん」「私はあんたの夫だよ」「ハイ旦那さま、だけど直ぐ忘れちゃう。寒いから気をつけて帰ってね」と手を振って見送ってくれた。210101c.jpg210101d.jpg

地平線が橙色に染まっても波立つ沼はブルー

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.31)
(アルツハイマーになった妻)

快晴の朝、地平線が橙色に染まっても波立つ沼はブルー。201231.jpg

出た途端眩しい太陽、目もカメラもギブアップするほどに。201231a.jpg

眩しさを避けて斜面林越しに見ても眩しい太陽。201231b.jpg

『死にたいと思う』 (2020.12.31)
昨日午後の妻との電話、応答したOさんから「今朝から調子が悪く落ち込んでいる。昼ご飯も食べず、手が震える感じ。体調面の問題はないが、声がけを続けます」と連絡があり、妻と代わる。「もしもし」「は~い」「あなたは誰?」「公子の夫の詮」「どこにいる?」「Aさんの家の所から坂を登ったところ」「我孫子じゃない。何で私は生きる気力がなくなった? 死にたいと思う。もう生きられるとは限らない」「天気が崩れるときは落ち込むね」「死に到ることはない?」「ない。お昼も食べてないのね。食べたら治る」「死にたい気持ちになったのはなぜ? どうしたら直る? 死なせてくれたら楽になる」「あんたが死んだら私が辛い。少し食べたら治る」「私は人生お仕舞いにしてもいい」「そんなのダメ」「私は生き延びられる?」「何か食べたら直る」「寒い。死にたいのに寒いってがくがくしている」「それは生きたいって身体が言ってるんだ」「生き返った感じになってきた。今は寒いだけ。お父さんと話して楽になった。どこにいる?」「Aさんの家から坂を登ったところ」「下った所じゃない」「どこにいるつもり?」「岩滑にいると思った」「段の坂を下ってと言う意味? ここは我孫子」「我孫子だった。手賀沼の上の家だね、坂を下るとAさんの家だ。~死んだはずだよ お富さん♪生きていたとは・・・~」「ちょっと元気が出てきたね」「今は寒いだけ。生きたいって言うこと?」「そう」「何で私は死んでもいいと思った?」「知らない。夢を見たのかな。嬉しい話がある。昨日Hから電話があった」「誰のこと?」「Lの長男。大学合格祝いを送ったら、お爺ちゃんお婆ちゃんにありがとうって電話くれたよ」「受かって嬉しいよ。いい話を聞いてよかった」「明日は面会に行くよ」「頭の切り替えをして待ってる。電話ありがとう。明日来てね」で電話は保留になった。少し時間をおいて呼ぶとOさん応答「いま部屋に来ています。寒いのは窓が開いていました。今はニコニコしています」と状況を教えてくれた。201231c.jpg
(モチの木からヒヨドリたちが飛び去るまで待っているのか、こもれびを浴びてムクドリ二羽。)

厚い雲から吹き出すように広がる薄雲

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.30)
(アルツハイマーになった妻)

高台に着いたときは青空に金星。暗い沼をやっと撮れるころになったら、厚い雲から吹き出すように広がる薄雲。201230.jpg

いつまでも暗い沼、背を丸め眠っているようなネコの木。森かずおさんが最後に手賀沼で撮ろうとしていたネコの木、「どう撮るの?」と聞いたら「現像が上がった後のお楽しみ」と言って止まってしまった時間。以来ずっと眺めているがまだ見つからない。201230a.jpg

ラジオ体操が終わっても日の出の気配がない朝。201230b.jpg


『元気でいなくちゃ』 (2020.12.30)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「聞こえた、聞こえた。嬉しい人の声が聞こえた。二人とも私みたいにごてーんとしていては困るから、元気でいなくちゃ。家にいるのね、何してる?」「掃除、洗濯、食事の用意、年末だから庭の草取りや落ち葉の掃除、いっぱいあってやることには困らない」「ここにいるとそんなことやらなくていい。おしゃべりすることが仕事、おしゃべりが元気の素。子どもたちはどこで何にしている?」「Aは八王子、Lは横浜。AはO社に勤め、Lも横浜の不動産会社、Lの長男Hが大学の推薦入学に合格した」「嬉しいね、お祝いを贈って」「私とあんた連名でもう送った」「サンキュー。話を聞いただけで嬉しいよ、大学生になるっていつの間にか大きくなった。AとLは幾つになった?」「二人とも50前後」「会っていないから、可愛いころの顔しか知らない」「あんたがここに入ったとき手伝いに来てくれた。あんたの鏡台も二人が運んできた」「そんな昔のこと忘れた」「今年の1月のことだよ」「私は他人が忘れることには文句を言うが、自分が忘れることはいいことにしている。アハハ。私は何歳になった、50くらいかな、あれ、80だった?」「80になったばかり」「80じゃもうじき死ぬ歳だね。人生の終焉が近づいても寂しいことではない。つらいことではあるが、そうでないと順番があって次々と後に続く人が困るよね。人の助けになることはやるが、やり過ぎると死ぬからそんなにはやらない」「やり過ぎる程いっぱいやった。ボランティアもたくさんやったし、自分の楽しみのお茶も趣味を越える程やったし、海外旅行にも行った。何でも中途半端に出来ないから忙しかったね」「それだけ出来たのは幸せな夫婦でいたからだね。お互いにさよならするまで元気でいられる訳じゃない。どっちかが送る人、送られる人になる。それで良しとするしかない。こんなこと話す歳になったのね」「 時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った・・・電話終わりました」201230c.jpg
(沼にも、帰り道にも鳥の姿がない朝。後を追うように鳴きながら飛んできて、電線にとまってくれたヒヨドリ。)

やっと見え始めた近くの斜面林

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.29)
(アルツハイマーになった妻)

何も見えななかった濃霧の朝、やっと見え始めた近くの斜面林。201229.jpg

霧が引き始めぼんやりと現れたネコの木。201229a.jpg

対岸の丘の上に登り始めた日の出、沼を渡って日の出を隠すように押し寄せてくる霧の塊。201229b.jpg

空と沼を染めて昇る太陽、上空の薄雲の上には青空も。201229c.jpg


『元気な声でうれしいよ』 (2020.12.29)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「元気な声でうれしいよ。どこにいる?」「家」「どこ?」「駐車場の左の道を行って広い道の右に曲がり、市役所入り口の先の十字路を左に曲がる。Aさんの家の所から坂を登る」「分かった。お父さんが言うのを聞いて、目をつぶって見る景色を、あれだ、これだと思って分かった。お父さんと話すの久ぶり・・・だった?」「昨日面会した」「どこで?」「あんたは大きな部屋の手賀沼側の窓、私は駐車場」「窓の下に来るのが面会?」「コロナの伝染病があんたたち中にいる人に感染しないよう守っているんだ」「誰かに聞いて頭の中あったが消えていた。頭の中の景色もどんどん消えた。今度一緒に歩こうね」「コロナが収まったらね」「道はよく分かるつもりだったが分からなくなった。今は廊下に繋がっているところだけ。外に出られなくて嫌だが病気になるよりはまし、前は分かっていたのに、今はこの建物の外は見えてこない。手賀沼を歩いて、どこの坂を登るか分からなくなった。家を見ても誰の家だか分からなくなった。手賀沼がどこまであるか私の頭の範囲ではなくなった。駐車場に入ってくる車が見えるが、どこから右に出るか分からない「左の道から入って、同じ道に出て行く」「右に出るかと思ったが、右には藪がある。でも、その向こうに家が見える」「藪の向こうは急斜面で、その下に道がある。あんたと散歩した道だ」「私の頭じゃここと繋がらない。なんで私はここにいる?」「ここにいれば食事、洗濯、入浴、体操など全部面倒見てくれる。病院に行かなくても訪問診療の先生が来てくれる。家にいたら私一人じゃそんなに介護出来ない」「人を雇えばいい」「だからグループホーム寿に入って面倒見てもらってる。今年3月に、子どもたちも来てあんたと昼間を過ごす会を計画したがコロナでダメになった。コロナが収まったら昼間家に帰る会をやるからね。時間だ。CDを鳴らして」「・・・鳴った」「電話機返してきて」「・・・電話終わりました」201229d.jpg
(斜面林の向こうの眩しすぎる太陽、沼に映って二つの太陽)

広場でラジオ体操が始まっても未だ暗い曇天の沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.28)
(アルツハイマーになった妻)

広場でラジオ体操が始まっても未だ暗い曇天の沼。201228.jpg

斜面林を透かしてみても曇天の沼は曇天の沼。201228a.jpg

モチの木から飛び出て、相棒を待つのか電線にとまったヒヨドリ。ひと声鳴いてモチの木から飛び出してきたもう一羽、縺れ合うように一緒に飛んで林に消える。201228b.jpg

『会いたかったよ』 (2020.12.28)
昨日の妻との面会、玄関前で面会票を記入し裏の駐車場に行けば、窓辺に来て窓を開けようとしていた妻。職員さんが来て窓を開けてくれると「会いたかったよ」と泣き出す。「泣くのをやめて立ってよ、写真を撮るから」「泣き顔を撮るの?」と言って立った姿は、カーディガンの下は薄いセーター、見るからに寒そう。「寒くない?」「寒い」「上に何か来ておいで」と言うと職員さんがコートを持ってきて着せてくれる。「お父さんはどこにいる?」「高野山の家」「誰と住んでいる?」「一人」「お母さんは元気?」「17年前に死んだ」「奥さんと一緒じゃないの?」「奥さんはあんただよ」「えっ、私が奥さん?」「そう」「呼びに来てくれた人がお父さんが来たと言ったからお父さんと思った」「子どものAとLがお父さんって私を呼ぶから、あんたも真似してお父さんって言っていて、今でもお父さんて言うからだ。あんたのお父さんは岩滑の幹さん」「元気?」「30年前に亡くなった」「母は?」「20年前に亡くなった」「私には子どもがいたの?」「二人いる。上がA、下がL」「私は名前も忘れたし顔も忘れた。何も親らしいことをしなかった」「可愛がって育てたし、孫が生まれたら手伝いに通った」「ここに不満はないが、退院して家に行きたい。何で私はここにいる?」「去年あんたは病気がち、病院へ連れて行ったり介護したり、私一人では出来なくなった。あんたと二人でここを見学して申し込んだ。今年1月に入れて、あんたは見違える程元気になった。コロナの伝染病が治まったら私たちの家に行って日中を過ごし夕方はここに戻ることも出来る」「コロナか。私は戦争だからと思った。戦争で家も壊され逃げて来たかと思った。私は戦争は嫌い。私は幾つ?」「80歳」「そんなに歳を取っていたのか」「寒いから終わりにしようか」「来てくれて嬉しいから泣いた。また来て」「31日に来る」「今は4月?」「12月」「もうすぐお正月か。元気になるように頑張る。また来てね」と手を振る妻、職員さんが窓を閉めてくれた。こっちを向いて泣いていた。201228c.jpg201228d.jpg

地上の灯が雲を染め沼に映って明るい沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.27)
(アルツハイマーになった妻)

地上の灯が雲を染め沼に映って明るい沼。201227.jpg

日の出の時刻を過ぎても日の出の気配はなく、雲の隙間を僅かに染めただけ。201227a.jpg

モチの実を食べていたムクドリ二羽をを追い出して、まだ残っている実を啄むヒヨドリ二羽。201227b.jpg


『腹を立てた人がいた』 (2020.12.27)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お父さん、みんなでお昼の後片付けをして、腹を立てた人がいた。自分のやり方が正しいと思って、自分のやり方でないと絶対にやらない人がいた。私のやり方が違うって腹を立てたので、人それぞれのやり方があるでしょうと言ったら食ってかかってきた。ああそうですか、ごめんなさいねって言って自分の分だけ片付けて部屋へ戻った。馬鹿と喧嘩しても仕方ない。あっさり引き下がってサッサと帰ってきた。その人に言っても仕方がない、言うだけ損。言えば自分にも危険が降りかかる。訳の分からない人が数人いる。そういう人には近づかないで関わりを持たない」「上出来だね」「喧嘩になるのは自分だけいい子になろうとするから。それを分かっていない。何で電話くれたの?」「毎日電話してる」「忘れた」「昨日は眠っていたのを起こされたから惚け惚け」「今日は何の用?」「あんたの元気な声を聞くため」「私の反応は?」「今日は元気で活発な声だ」「お父さんの声を聞いてお父さんだって分かるよ。私は幾つ?」「80」「お父さんは?」「82」「その年になると行き詰まったときに自分が正しいと主張しがち。大勢でいるときは自分からちょっと退くのがいい。いざこざの後、穏やかな気持ちになろうとしていたら、電話が来て飛びつく気持ちになった。穏やかでない人がいっぱいいるが、お父さんと話すとそれも忘れる。離れているのは困るな」「明日は面会に来る」「どこへ」「あんたは広い部屋の窓の内側、私は駐車場で面会」「それじゃ会話にならない。窓を開けないと」「いつも窓は開けてるよ」「その時は対話できてる?」「出来てる」「よかった。いつまでも生きてはいられないから仲良くしようね」「あんたと結婚してよかったと思う」「嬉しい。でも直ぐ忘れちゃう。一緒に死ぬことはないしね」「事故なら一緒だが、ほとんど別々だ」「時間だ、CD鳴らして」「鳴った」「明日は面会に来る」「お互いに元気だと確認するだけね。・・・電話終わりました」201227c.jpg
(モチの木にまた戻ってきたムクドリ二羽、まだ食べ続けているヒヨドリが立ち去るのを待って木の天辺。食べ尽くされた天辺にもう実は残っていない。)

風もなく地平線の空の色に染まる沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.26)
(アルツハイマーになった妻)

まだ星が残る快晴の夜明け、風もなく地平線の空の色に染まる沼。201226.jpg

出ると眩しい快晴の朝の日の出。201226a.jpg

対岸の丘から登る太陽、沼に映って伸びる光の帯。201226b.jpg


『懐かしい声だ』 (2020.12.26)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「懐かしい声だ。私はダメ。どこにいるの、私と最初に建てた家?」「そう」「行きたいって言ったら県外だって言われた」「どこにいるつもり?」「えーと、大勢いる。私たち収容されている。外を見ると西日が当たってる。そこから下へ降りると手賀沼、お父さんと橋を渡ってから戻ったら、お父さんは誰かと話をした。その時から行く場所が分からなくなった。東の方へ坂を登ったらあなたたちの家だと言われて、行ったら見たことのある家があって、知らない人が住んでいてがっかりした。坂を下りて私に与えられた部屋に行った。今思うとどこだか分からない。分からないことを貼り付け繋いでもダメか。まだ自分のいる場所が分からない。ここに文句はないがなぜここにいるか分からない」「あんたはグループホーム寿にいる。窓から駐車場が見える」「見える」「横の道を歩いて行くと広い道、右に曲がり坂を下ると市役所の入口。先には手賀沼の手前に交差点がある」「分かった。ここから近い。橋の手前を左に曲がり手賀沼沿いに歩くと左に大きな坂道、登り切ると私たちの家。もっと先へ行くと左の方に下の子を入れた小学校がある。下の子はL。上の子はA、中学に入った。中学の先に駅へ行く道があって、どこの橋だか分からないが橋を渡ったら分からなくなった」「お昼の後で眠った?」「分からない」「眠った後は夢か想像の話しばかりだ」「誰かと手賀沼の橋を渡って、喫茶コーナーでアイスを食べ、戻るとき私たちの家はあの高台だなと分かった」「お父さんはどこにいる?」「二人で作った家」「捕まったんじゃない?」「誰に?」「分からない。誰かが捕まえようとしている」「色々想像するね。今度の日曜日面会に行く。あんたは大きな部屋の窓の所、私は駐車場」「見下ろすところね。あそこで会うのは誰だか分からない。今度はお父さんだと教えてね」「時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った」「電話機返して」「・・・電話終わりました」201226c.jpg
(モチの木の天辺の実を食べ尽くし、中盤まで降りてきたヒヨドリたち。)

着陸を待ち旋回中の成田着便が一機下降を開始


撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.25)
(アルツハイマーになった妻)

日の出よりずっと南の対岸に赤く染まった隙間、着陸を待ち旋回中の成田着便が一機下降を開始。201225.jpg

地平線沿いに赤く色付いて伸びる細く長い雲間、やがて厚く黒い雲の下を照らして淡い朝焼け。上空の青空を覆い始めた薄雲。201225a.jpg

日の出の刻が近づけば鮮やかに染まる雲と沼。201225b.jpg

やがて薄雲の向こうに空と沼を染めて日の出。201225c.jpg

『私はダウンしている』 (2020.12.25)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お父さんの声だ。私はダウンしている。何だか元気がない。風邪かな、自分では分からない」「気分が悪い?」「とにかく寝転んだ。困っちゃった。困ったら口は動かないものだが、口は動いてる」「分からないことを考えても仕方ない、後で職員さんに話したら」「ああそうか、そういうことは気がつかなかった。頼りになるのはお父さんだけ、空を飛んできて」「今日は元気がないのか、昨日は出て行けと言われて柏の施設に行って、断られたから戻ったと夢か空想の話しをしていたが、グループホーム寿はいつまでもいていいからもう大丈夫だよね?」「お父さんに来てもらいたいから、手段を頭の中で考えたかもしれない。そう言えば私の言うことを聞いてくれるかと考えたと思う。男の人はお願いと言えば何でもやってくれるじゃない。周りに頼る人がいなければ結婚した人に頼るしかない。他人は他人だよ。口から言葉がボンボン出る内は大丈夫。女は言えば夫をこっちに来させられるかと思っているかもしれない。脅かせば、おおよしよしと医者に連れて行ってくれると思っている。父や母が死んで頼れなくなったら夫に頼るしかない。女だって、夫に何かあって頼られたときは馬鹿力が出るものだ。いざというときは嫁っこも頼りになる。他人だと外に用事が出来るとそっちへ行っちゃう。いざという時は、一番頼りになるのは夫婦の間だよ」「長い演説を聴かせてもらったね」「私は心底本当のことを言った。お互いに元気になって死ぬまで頑張ろうね。アハハ。どちらが先に死ぬか分からないものね」「あんたのスピーチが終わったらもう時間だ。CD鳴らして」「電源入れた、CDボタン押した、あれ、三角印のボタンだ・・・鳴った。・・・夫が繋がってます」「代わりました」「元気がいいから大丈夫と思うが、風邪かもしれなと言っていたので様子を見ておいて下さい」「分かりました。見ておきます」と職員さんに確認をお願いした。201225d.jpg
(対岸の丘から登る日の出、真っ赤な太陽を成田着便が下降しながら横切る。)

淡い朝焼けが沼に映って淡くピンクの沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.24)
(アルツハイマーになった妻)

淡い朝焼けが沼に映って淡くピンクの沼、風が吹き始めれば青白い水面が広がる。201224.jpg

西南の風が西南西に変わり、繋がれた小舟の周りはいつもと違う色模様。201224a.jpg

雲と沼を染め、雲の向こうを登る太陽。201224b.jpg


『やっと話せた』 (2020.12.24)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「やっと話せた。私、さっき事務所に行って、今日で終わりですかと訊いた。ないと思うとだけ言われた」「何処かへ出て行けとは誰も言わない。あんたがいる所はグループホーム寿という介護施設。ずっといていい」「出て行けとは言われなくても限度がある」「限度は決めてない」「ぼつぼつ出るのかなと考えた」「いつまでもいていい。前にも夢か空想で、出て行けと言われ一人で柏の方に行って困ったと言っていたね」「柏へ一人で歩いて行った。受け付けてくれないから帰ってきた」「夢か空想だったんだ」「だけど、天王台北口で一人で行けと言われて、高台に上がった。電車で行ったのか歩いたのか、誰かについて行ったのか一人だったのか分からない。今回は一人で行く気がして、行くことになったら困ると思った。私が病気になって、病院に入れなくてはならないので言われたのかと思った」「柏市立柏病院へ脳のMRI検査に行ったのは4年程前。私が連れて行った。天王台北口は、最初にデーサービスに行ったところ。平行してデイサービスあびこにも通った。その後、利根川沿いのロイヤルに通った」「土手のどっち側?」「右側」「何となく憶えている」「その近くの和楽園にはショートステイで泊まった。音楽のイベントがあるとき一泊で行ったり、私が疲れたときは一週間くらいずつ泊まった。あんたは1号室が好きだった」「思い出した。そこでは笑顔、好きだったよ」「去年はあんたを病院に連れて行ったり、食事や家の中のことで私も手が回らなくなった。あんたが施設に入りたいと言って、グループホーム寿を見学して申込み、今年1月入れた。いつまでいてもいい、安心して」「勝手に思ったんだね。私の心の叫びが辛い夢になったんだ。お父さん困らせてごめんね。自分のことが分からなくなった焦りがあったと思う」「ずっといていい。安心してね。時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った・・・嬉しいやら、辛いやら、寂しいやら・・・」201224c.jpg
(ヒヨドリが数羽入ったり出たり騒々しいモチの木。天辺の食べ易い実は食べ尽くされ、低い枝まで降りてきたヒヨドリ。)

風が吹いてオレンジとブルーの模様がせめぎ合い

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.23)
(アルツハイマーになった妻)

風が吹いてオレンジとブルーの模様がせめぎ合い。201223.jpg

日の出前の空の色に染まる水面、低く飛んで行ったカワウ2羽。201223a.jpg

快晴の空と沼を染めて日の出、「こんな日ばかりで、たまにはお湿りが欲しい」と隣に三脚を立てていた人。201223b.jpg

『あなたは誰と結婚した?』 (2020.12.23)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「今どこ?」「家」「手賀沼の方?」「そう」「手賀沼の西の方?」「高野山だよ」「じゃあ東じゃない。私は誰かに結婚するから西へ行けって言われた。病院の方へ行ったらもっと先の駅の方だと言われた」「変な夢を見たね」「夢か」「あなたは誰と結婚した?」「あんた」「えっ、私とあんたが結婚した?」「あんたは私の奥さん」「私は誰と誰の子?」「岩滑の中島幹さんとさか江さんの子」「あなたのお父さんとお母さんかと思った」「わたしの両親は今村恒治ときん。今村詮と中島公子が結婚して今村公子と名乗るようになった」「私は誰の子か分からなくなった。お父さんだから、あなたとあなたが結婚した人の子?」「私とあんたの子どもはAとL。二人が私をお父さんって呼ぶから、あんたも真似してお父さんって呼ぶのが癖になった。私はあんたの夫」「何で結婚したの?」「S先生の家に呼ばれて行ったらあんたとの見合いだった」「少し思い出した。S先生の家の座敷に案内された。S先生は高校の先生。私は卒業して佐倉小の教師をしていた」「私は就職して東京にいた」「それで私は東京にいたのか?」「結婚してあんたは東京に来た」「どこで結婚した?」「浜岡に農協会館が出来て第1号の結婚式だった」「岩滑にいたとき結婚式は池新田になったと聞いた」「新野にもいた?」「いた。堀之内で生まれて新野にもいて朝比奈へ引っ越した」「何で引っ越した?」「母が朝比奈中に勤務していて、父が朝比奈小に転任したから」「新野はおばさんがいたから?」「おばさんはあんたのお父さんの妹、関係ない」「浜岡の家は?」「朝比奈の家が山崩れで壊れたから引っ越した」「ごちゃごちゃしていて分からない。手賀沼の上に家を建てた。私は手賀沼を見るのが大好きだった」「今そこに私が住んでいる」「その家に来て下の子は近くの小学校に、上の子も近くの中学に入った」「夢を見て混乱したが、明日は直ってる。時間だ、電話機を返してきて」「・・・鳴った。・・・電話終わりました」201223c.jpg
(霜柱が立つ小径を踏みしめて、ケヤキの木の下を犬と散歩する人。)

快晴でもだんだん迫り出してくる地平線の雲

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.22)
(アルツハイマーになった妻)

快晴でもだんだん迫り出してくる地平線の雲。201222.jpg

コブハクチョウ三羽が岸部から出て対岸へ渡り始めたが、向きを変え戻り始めた一羽。岡発戸新田の方から出てきた一羽と互いに泳ぎ寄り、先に行った二羽を追って沼を渡る。めっきり数が減った手賀沼のコブハクチョウ。201222a.jpg

厚い雲の隙間に一瞬見えた日の出。201222b.jpg


『アルツハイマーだから?』 (2020.12.22)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「私は今ベッドの中で寝ていて訳が分からない。何なのお父さん」「私だって分かってるじゃない」「目をぱちぱちしている。何があったの?」「いつものように、あんたの元気な声を聞くための電話」「昨日電話したなんて知らない」「昨日は電話じゃなくて面会した」「どこで」「あんたは広い部屋の窓の前、私は駐車場にいて面会した」「そういうこともあったが昨日の事は全部忘れた」「全く憶えていないのは病気のせい」「アルツハイマーだから?」「そう」「何でアルツハイマーになる?」「頭から外へ出にくいゴミが溜まり過ぎたから」「身近な人にいる?」「あんたのお母さん、姉さんのSuさん」「何でゴミが溜まる?」「夜いつまでも寝ないで朝寝坊、朝の光に当たらないとなり易いと言うが、よく分からない」「当たってる。私はやることがあるといつまでも寝ないでやった。なっちゃったらダメだよね。私も勉強した」「あんたの部屋に認知症やアルツハイマーの特集号の雑誌や本があった。7年くらい前に私とAが物忘れ外来へ行こうと誘ったら、馬鹿にするなと怒って大変だった。自分では気にしていたのね」「憶えていないが、人から言われたら腹が立つじゃない。でも、自分で勉強してたって感心じゃないの。直らないけど遅くは出来る?」「アルツハイマーと分かってリバスタッチパッチを背中に貼っていたが、体質が変わって副作用が出たようだから今は使うのを止めている」「どういう副作用?」「あんたの場合は、目眩、吐き気、頭がガンガンする、だんだんひどくなって手足が痙攣したこともあった。その薬をやめて副作用のような症状はなくなった。この薬を使ってどれだけ効果があるかは分からない。だからやめてもいいと思った」「そうだね。悔しいけど、色んな病気があって、どれも死ぬ前の準備期間だと思えばいい」「時間だ。CD鳴らして」「・・・~春を愛する人は・・・」「返してきてから歌って」「分かった・・・」と歩く音がして電話は切れた。201222c.jpg
(日の出は薄雲の中、斜面林の向こうに赤く染まった雲と沼。)

風が吹いてオレンジ色の沼は見る見るブルーに

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.21)
(アルツハイマーになった妻)

風が吹いてオレンジ色の沼は見る見るブルーに。201221.jpg

快晴の朝はただ眩しいだけの日の出、風がやみオレンジ色の水面。201221a.jpg

水面に映って二つになった太陽、斜面林の向こうに輝く。201221b.jpg
『来てくれてありがとう』 (2020.12.21)
玄関前で面会票記入、駐車場へ移動するとガラス窓の向こうから何か言っていた妻、「来たよ」と言っても聞こえない。職員さんがガラス窓を開けてくれ、「久しぶりだね」と言ったら「来てくれてありがとう。嬉しい」と手ふき用タオルを目に当てて泣き出した。「元気だった?」「元気だよ」「どこにいた」「家」「見えないけど、そこの市役所の先から坂を上がったところ?」「そう」「私も家に行きたい。何で私はここにいるの?」「ここにいたら食事、洗濯、入浴、体操など全部職員さんがお世話してくれる。病院も訪問診療の先生が来て診てくれる。家に帰ったら私一人であんたの介護をしなきゃならない。私はもうそれだけの介護は出来なくなった」「そうだね、歳だもの。でも、私は元気だよ。どうしてここに入った?」「デイサービスでロイヤルに通っていたが、去年あんたは病気がちで、病院に連れて行ったり、介護や家の中のことで私は行き詰まった。あんたが施設に入りたいと言って、あんたと私がここを見学して申し込んだ」「私はそんなことを考えられたんだ」「満室で直ぐには入れなかったが今年1月から入れた」「外を歩かないから足が弱って立ち上がると足が震える。足が疲れたから座る」と、職員さんに支えられ椅子腰掛けた妻。「一緒に散歩したいが、ここは外へ出ちゃダメな規則なの」「1月、2月は毎日面会に来て、天気がよければ一緒に散歩した。コロナの伝染病が流行って、感染しないように建物の中の面会や外出をやめて、あんたたち年寄りを守ってくれている」「そうか、会ったり、一緒にいて話がしたいよ」「今は毎日電話してるし、日曜日は面会に来ている」「昨日のことは忘れる」「今度は一週間後に来るよ」「来てね」とやっと笑顔になった妻。「疲れたからもう部屋に戻る。見送るから先に帰って」と泣き顔になるのを堪えて手を振っていた。201221c.jpg201221d.jpg201221e.jpg
三回中止になり、久々の面会。先月、職員の家族がコロナ陽性になり、自主的にPCR検査を2回実施、職員と入居者全員陰性。家族が感染した職員が陽性になったため、保健所の指導により11日までの健康観察をして無事面会も再開した。すばやい対策と家族への連絡、的確な感染防止策など施設の対応に感謝している。

足早に沼を渡り日の出のころは消去った雲

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.20)
(アルツハイマーになった妻)

沼上空に出てきた雲、日の出のころが楽しみだと思ったが、足早に沼を渡り日の出のころは消え去った雲。201220.jpg

対岸の丘から日の出、もうちょっと来るのが遅ければ太陽を横切った成田着便。201220a.jpg

出れば眩し過ぎる太陽に辺りの景色は暗転、帰ろうと広場に差し掛かれば斜面林の向こうに目映い太陽。201220b.jpg

『ああ、会いたいよ』 (2020.12.20)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「詮さんお元気ですか。あはは。ご主人の詮さんからですって言われた。今どこにいる、この近くだよね」「そう」「ここから見えないが、下を歩くと市役所の先を手賀沼沿いに行って坂を登ったところだね。それで何の用?」「いつものように電話した」「いつも?」「毎日電話してる」「知らない。この部屋の電話へ?」「いま耳に当ててるのに」「この部屋にも電話がある」「それはラジオ。それでCDを聞いている」「知らないことばかりだ、ホイホイ。こういう電話が出来るのは幸せ。歩いて行けば直ぐ近くだけど歩いて行っちゃダメなのは病気が移るから?」「コロナの伝染病が流行っているから外出できない」「家は直ぐ近くじゃない。何でダメ?」「近くだって、途中で誰かに会ったら移される。ここには年寄りが住んでいて、年寄りが感染すると重症になるから面会禁止だし外出禁止。それは中にいるあんたたちを守るため」「私は幾つ?」「80になった」「そんなに年取ったのか、まだ50くらいいと思っていた。あなたどこにいる?」「私たちの家、Aさんの家の横から坂を登ったところ」「Aさんの家って?」「あんたどこにいるつもり?」「静岡の方の施設かと思っていた。手賀沼の直ぐ近くじゃない。子どもは二人いたね。どこで生まれた?」「Aは等々力、Lは片倉台団地で生まれた」「片倉台団地ってずいぶん昔住んだところだね」「子どもたちはもう50前後だよ」「だんだん思い出した。お父さんと家を建てた。そこに私も住んだ?」「去年まで一緒に住んだ」「何で今は私はいないの?」「去年あんたが病気がちで、私一人では介護しきれなかったから」「そうか、苦労掛けたね。私がお父さんの面倒見るつもりが逆になったのは辛いよ。ああ、会いたいよ」「明日面会に行く」「どこで?」「あんたは大きい部屋の窓のところ」「手賀沼側ね」「そう、私は駐車場。もう時間になった」「電話機返してくる」「先にCD鳴らして」「・・・鳴った・・・ごめんください」と職員を呼ぶ妻。201220c.jpg
(モチの木に何羽も集まったヒヨドリ、順番を待っているのか近くの木にもヒヨドリ一羽。)

ブルーに染まった水面に飲み込まれた小舟

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.19)
(アルツハイマーになった妻)

オレンジの水面を風が吹き抜け、ブルーに染まった水面に飲み込まれた小舟。201219.jpg

登れば眩しい晴天の日の出、岡発戸新田の突端から伸びてくる光の橋。201219a.jpg

モチの実が食べ頃かヒヨドリ数羽の鳴き声、十分食べたのか茂みの中から出てきたヒヨドリ。201219b.jpg


『お久しぶり、元気?』 (2020.12.19)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お久しぶり、元気?」「元気」「一週間前か、2~3日前にここへ来た。参加している人は年寄りばかり、適当に切り上げた方が利口と思う。歳を取ると声が出ない、それじゃコンクールに出る資格はない。目的はいい歌を聴いてもらうことだ。この場所は泊まってもいい場所。黙っていても来られる場所だが名前は分からない。今日明日に帰るのだと思う」「今どこにいるの」「自宅から手賀沼の縁に降りて柏の方へ行く。私、地図が頭の中でごちゃごちゃになっている」「今いるのはあんたの部屋、柏の方にコーラスをしに行っているのではない。今いるのはグループホーム寿という介護施設」「何で来た?」「去年まで私と一緒に自宅にいた。病気がちになって、あんたを病院に連れて行ったり、介護したり、家の中のことを私一人では出来なくなった。あんたは施設に入りたいと言って、Mさんが探してくれた施設を私と二人で見学して申し込んだ」「来たことを憶えている」「満室で、今年1月に入居できた」「それまでの間はどうした?」「デイサービスでロイヤルに通い、時々和楽園にショートステイで泊まった」「憶えていない。ここへ入ったことも分からない」「今年正月、AとLが来て、ここへ入居する仕度を一緒にしてくれた。二人が帰った後膵炎になって取手の病院に入院した。色んなことを忘れ、自分のいるところも分からなくなって、退院して直ぐここに入居した」「取手へ行った気がする。お父さんと市役所近くへ見に行った」「そこに申し込んだ」「そのことを私は認知していた?」「していた」「申し込んのがここ、グループホーム寿」「よかったね入れて」「ここでは食事、洗濯、入浴、体操などを職員さんが世話してくれ、平和台病院の先生が訪問診療で診てみてくれ元気になった」「私は元気で、トイレには一人で行ける」「膵炎も再発していないし元気だよ」「嬉しいよ」「時間になった。CD鳴らそう」「鳴ったから電話返してくる」と、廊下を歩く音。201219c.jpg
(温かい日差しにスズメたちが集まって日向ぼっこ。)

対岸の丘と空を映す沼に風が描くブルーの模様

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.18)
(アルツハイマーになった妻)

対岸の丘と空を映す沼に風が描くブルーの模様。201218.jpg

日の出前の地平線の色に染まった沼、岸辺から出て対岸へ向かうコブハクチョウ。201218a.jpg

出れば眩しく辺りを暗転させる快晴の日の出。201218b.jpg


『勤めがまだあるの?』 (2020.12.18)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「今どこ?」「家」「勤めがまだあるの?」「会社勤めは20年前に終わった」「それから今まで私はずっとここにいたの?」「去年までは私たちの家に一緒に住んでいた」「分からなくなった。気になってしようがないから事務所に訊きにいったがそのことには触れなかった。夜遅く外へ訊きに行ったが誰にも訊けなかった」「夢だよ。コロナの伝染病が流行っていて、今は外出禁止で外には出られないから」「お父さんは何してるの?」「家にいる」「会社を辞めたのね。私はそういうことを思い浮かべられない。お父さんに確認したかったが、私から電話はしなかった」「私は毎日電話している」「何を話した?」「一昨日は眠っていて起こされたから寝ぼけていていた。昨日は寝ていなかったのですっきり。駐車場の横の道を行って家までの道を正しく、すらすら言えた」「その道はちゃんと頭にある。今日は惚けているとは考えていない。お父さんと話しているとルンルンしてくる。窓から外を見て、何処かへ出掛けると途中で道が分からなくなる」「駐車場の横から広い道に出て、市役所入口の先の交差点を左に曲がる」「そこまで訊くとはっきり頭の中に意識がある。Aさんの家の横を登ると私たちの家。家に入らず北に行き、中間で左に曲がると下の子を入れた学校。別な道を通って広い道に出るが途中が分からない。外に出ることがなくなって分からなくなった。広い道を行って左に曲がると駅がある、駅に入らず右に行くと病院、もっと行くと分からなくなったが元の道に戻って無事家に着いていた。お父さんと話すと生きている証拠で楽しい。公子元気かと言ってくれるのを待って生きている」「泣かないって約束したよね」「そんなことポイっと忘れた」「ここから家への道を歩いて、家よりもっと遠くへ行くと分からなくなるから戻ってくる」「時間が過ぎた。CD鳴らして」「もう?」「他の人も使うから」「分かった・・・鳴った。電話返してくればいいのね」で切れた。201218c.jpg
(妻お気に入りの散歩道を家路に向かえば、葉が落ちた斜面林の向こうに目映い沼風景。)

波立つ水面は上空を映して暗い沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.17)
(アルツハイマーになった妻)

風が沼を渡る快晴の夜明け、波立つ水面は上空を映して暗い沼。201217.jpg

岡発戸新田の釣堀前に繋がれた小舟のシルエット。201217a.jpg

岸辺のねぐらから出てきたコブハクチョウ二羽。201217b.jpg


『眠ると惚けちゃう』 (2020.12.17)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「布団に入って眠る前だった。眠いよ」「眠らなくてよかった」「よかったよ、眠ると惚けちゃう」「昨日は眠ってるところを起こされてボケボケだった」「当たり前じゃん、子どもだってそうだよ。お父さん元気?」「元気。あんたは?」「眠いことを除けば元気。何で眠いと惚ける?」「目が覚めたばかりは頭のスイッチが入らないから」「直ぐ忘れるのは忙しいから? 私は変わってる?」「直ぐ忘れるのはアルツハイマーになったから」「そういう人多い?」「いっぱいいる。歳を取るとどんどん増える」「なんでそうなる?」「脳にアミロイドβっていうゴミが溜まるからだって」「普通の年寄りの忘れるのとは違う?」「昔のことより最近のことの方が忘れやすい。今あんたと話しているとあんたは何もおかしくない。でも、昨日電話したことは全部忘れてる」「都合の悪いことだけを忘れるのじゃないのか」「昨日は家までの道の地図が見えないと言った」「駐車場の横の道を行って、右へ曲がって坂を下ると市役所、もっと行って手賀沼の手前から東へ行って、Aさんの家の前の坂を登ると私たちの家」「今日は地図がするする出るね」「356に出て左に行くと我孫子駅の方、右に行くと信号を渡って消防署、たびやの前を通って駐車場のところを右に行くと家の方。真っ直ぐ行くと中学、その先に下へ降りる道があって、山側に行くと駅がある。駅に行かないで右に行くと病院、裏に駐車場がある。合ってる?」「合ってる」「地図が見えると道は分かる」「長い間自分で運転してたからね」「運転はいつやめた?」「四年近く前。アルツハイマーだと分かって、依田先生が背中に貼る薬を処方し、この薬を使ったら運転をやめてと言ったら直ぐやめた」「大きな事故を起こす前に言ってくれてよかった。自分のことは自分じゃ分からない。人から言われたら聞くことが大事だ」「時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った。電話機返してくる。・・・終わりました」201217c.jpg

(快晴の朝、対岸の丘に眩しい日の出。)

林の向こうに街灯の光を浴びて輝くモミジ

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.16)
(アルツハイマーになった妻)

遠回りして高台に向かえば、林の向こうに街灯の光を浴びて輝くモミジ。201216.jpg

対岸のビルの向こう、着陸を待ち旋回する成田便の灯二つ。201216a.jpg

曇天の朝より暗い快晴の朝、地平線の空の色にほんのり染まる沼201216b.jpg


『そこの地図が見えない』 (2020.12.16)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お昼を食べ、眠っていた。お父さん、自宅にいるのか近くの私たちの家、どっちにいるの?」「自宅ってどこ?」「岩滑」「それはあんたの生まれた家」「アハハ」「昨日は片倉台団地の話しをした」「片倉台団地ってどこ?」「横浜」「知らない」「片倉台団地3-4-104に住んでいた」「3-4-104の数字だけは頭に残っている。そこの地図が見えない。薄々見えるのは我孫子じゃない駅の前を通ってお医者さんへ行った」「天王台駅近くの依田内科だね」「そこを通り過ぎ橋を渡って、NECの横から川の横の土手を走って下の駐車場へ行った」「ロイヤルのデイサービスに通った時のことだ」「そこで何をした?」「リハビリの体操、散歩、入浴、お話を聞いたりゲームや歌を歌った。週三回家から通った」「家からって、神社の近くの坂道を登ったところ?」「そう」「そこは私たちの家、絵に描けるよ。家から広い道の方に行って曲がると下の子が通った小学校で、広い道を行くと上の子が行った中学校。その先へ行って・・・ごちゃごちゃで分からない。お父さんの会社が建物を作って、会社まで送ったり迎えに行った。途中がつながらない。悔しいけど思い出せない。私の部屋に鏡台があって私が結婚したときかお父さんが結婚したときにお母さんが買ってくれた。何でここにある?」「グループホーム寿に入居したときAとLが運んでくれた。私の結婚もあんたの結婚も同じ、二人は結婚したのだから」「ああ、そうだ。私はびっくりすることばかり発見した。お父さん長い間お世話になりました。あれ、そう言うと私は死ぬの、まだ死にたくない。お世話してくれるのはお父さんでなくちゃダメ。私は幾つになった?」「あんたは80、私が82」「その年になったら歩けないかと思ったがまだ歩けるよ」「時間になった」「CD鳴ったから電話機返すのね」「泣いてるの?」「こんなになって辛い。~・・・大地のようなぼくの恋人~」と泣き声で歌いながら電話機を返しに行った妻。201216c.jpg
(対岸の丘から眩しい日の出、出た途端カメラも目も目潰しにギブアップ。)

空高くまで薄雲が橙色に染まった日の出前

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.15)
(アルツハイマーになった妻)

足元が寒い桃山公園の高台、空高くまで薄雲が橙色に染まった日の出前。201215.jpg

対岸の丘の上に登れば眩しい日の出。風はなく地平線の色を映し橙色の沼。201215a.jpg

斜面林の間から朝日が射して輝くモミジ。いい日差しの間に早く撮りたいが、通るのを待っていてくれるのか立ち止まった犬の散歩の人。201215b.jpg


『私は教師をした?』 (2020.12.15)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「トイレから出るとご主人からと言われ、どこにいるか探したら電話だと言われた。言葉が変わると戸惑うことが多い。初めて担当する人だと迷う。常の言葉を使わないから咄嗟に何の言葉を使うか分からなくなる。お父さと話して声を聞くとずいぶん久しぶりに聞こえる」「昨日電話した」「知らない。家は見えるくらい近かったよね。市役所の横を通って山の上に登ると家」「今日はずいぶんはしょったね。窓から見える駐車場の脇を行って広い道に出る。右に行って坂を下ると市役所入り口、その先手賀沼の手前に交差点がある」「分かった。左へ曲がって手賀沼沿いに行って、昔は細かったが広くなった道を上ると家。みんなには言わないが自慢の二人の家。お父さんはその家に住んでいる?」「そう。去年まではあんたも一緒に住んでいた」「私は何とか教室に行かされた?」「天王台北口側のママMATEに通った。歌の時間があったが先生が辞めて歌がなくなった。利根川沿いにあるロイヤルでコーラスが出来るからそっちに通うようになった。途中で先生がいなくなって、ロイヤルに通いながら和楽園の音楽のイベントの日はショートステイを利用した」「そこは懐かしい気がする」「和楽園のショートステイを利用したのは、今のグループホーム寿での生活の予行演習にもなった。あんたは大学時代寮にいたから共同生活は慣れていると言っていた」「私は教師をした?」「最初は田舎の佐倉小に勤務した。私と結婚して東京に出て、立会小に勤めた」「品川区だね」「そう、大井町」「ちょっと思い出した」「それから等々力に住みAが生まれ、なおみ保育園に預けた」「私に子どがいたの?」「二人産んだ。片倉台団地に転居し教師を辞めた。子どもたちが大きくなって、産休の先生の補充で中丸小、羽沢小に勤めたこともある」「けっこうやっていたんだ」「時間になった。また話そう。CD鳴らして」「・・・鳴った」「電話機返してきて」「・・・電話終わりました」201215c.jpg

(今朝も来ていたムクドリ二羽、電線で寛ぐ羨ましい姿。)

風が吹き抜けてブルーになった風の通り道

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.14)
(アルツハイマーになった妻)

地平線の空の色を映して橙色の沼、風が吹き抜けてブルーになった風の通り道。201214.jpg

上空まで覆い被さる雲、地平線の雲の向こうに日の出。雲間から漏れ出す陽光に上空まで微かに色付く雲。201214a.jpg

斜面林から漏れてくる陽光に輝く広場のモミジ。201214b.jpg


『今お昼休み中』 (2020.12.14)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「こんにちは。今お昼休み中。大きい部屋にいる。2時からテレビを見る」「面会の時の大きい部屋だね」「そう。ここは大きい会議をするとき来る。それで何?」「毎日電話してるじゃないの」「毎日電話していた?」「してるよ」「忘れた。この部屋には臨時のトイレがあって、会議をやる部屋もある」「あんたと私二人で見学に来て、入居の申込書を書いた部屋だね」「そう。思い出した。今は何でここに来ているのか分からない」「今日は業者の人が来ているから、作業が終わるまでこの部屋で待ってるの」「よく知ってるね」「昨日Oさんに電話で聞いた」「私は電話で聞いても忘れちゃう。いつどこ行って何をするのか分からない。さくさく動くから後について行くだけ。ここには私を含めて8人いる。何をやるのか事前には分かっていない」「この部屋では歌のボランティアの人が来てみんなで歌を歌ったね」「私も歌った。前のことだから忘れた。今日この後は何をするのか分からない。みんなが動いたらついて行くだけ」「気楽に、言われる通りにしていればいい。来週の日曜日、20日には面会に来る」「今いる窓のところね。外の景色を見たら下に駐車場があって分かった。ありがとう。・・・立って話をしていたら椅子を出してくれた。行ったり来たり、何があるのだろう。家にいてはダメ?」「家にいると私があんたの介護をしなくてはならない。それが出来なくなってあんたはグループホーム寿に入った」「そうだね。あなたには出来ないね。ここでは至れり尽くせりの生活が出来る。お互いに歳を取るからこういうところがあってよかった。私は何歳?」「80」「あなたは?」「82歳」「こうやってお世話になれるところにいて幸せだよ」「コロナの伝染が収まったら、子どもたちも呼んで一緒に食事して話をしようね」「私たちは恵まれているんだね。あっ、みんなが戻り始めた。電話終わるね」と職員さんに代わる。部屋に戻ったらCDを鳴らしてやってとお願いした。201214c.jpg
(縺れ合うように飛んでいたヒヨドリ、相棒を呼ぶのかアンテナにとまって鳴く。)

桃山公園の高台に立てば雲間に出た月と金星

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.12.13)
(アルツハイマーになった妻)

桃山公園の高台に立てば雲間に出た月と金星。とりあえず一枚撮って露出補正をし、もう一枚撮ろうとすれば厚い雲に入った月。201213.jpg

やっと雲から出た月と金星、手賀沼上空で大接近。201213a.jpg

雲に隠れた月と金星、ネコの木の両目に重なっていた水門の灯り。201213b.jpg


『病気してないね』 (2020.12.13)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「電話ありがとう。渡されたとき半分眠って掴んだら切れて、直ぐ繋いでくれた。元気?」「元気」「病気してないね。会いたいよ」「明日は面会を予定していたが、あんたのいる施設に業者が入るから面会は中止になった」「そういうことなら仕方ないね」「今月は12月20日、27日の日曜日の他に31日も面会出来る」「書くからちょっと待って・・・来年は?」「1月3日が最初の面会。面会はあんたが窓の内側、私が駐車場。まだ建物の中での面会は出来ない」「そんなの嫌」「あんたたち年寄りをコロナの伝染病から守るため、職員さんたちは一生懸命守ってくれている」「分かったけど辛い。移ったら元の子もないものね。あなた元気?」「元気」「病気じゃないね?」「大丈夫」「うれしい、だけどつまらない。我慢する。感染したら死ぬことは出来てもわがままは言えなくなる。昨日までは悲観的な気分で、息をしていたって何になるとやっきりしていた。今日は窓の外が明るく、たくさん話したから気が楽になった」「一関のT先生からあんたの好きなリンゴを送ってもらった。電話が終わったらグループホーム寿に届けておく。みなさんと一緒に食べるように頼んでおく」「私は何もしなくてもいいのね。全部やってもらって食べるだけ。うれしい、ありがとう」「どういたしまして、自分じゃ何もできないでしょ」「コラ。早くこういう風に冗談を言い合えるようになりたい」「今だって言ってる」「近くで会って、甘えて話せないでしょ。でも声を聞くだけで嬉しいよ。あなたの顔を思い出せないが、声を聞くと呼び戻される。あなただけの声だもの」「あれ、泣いてるの?」「声を出さないようにしたが出ちゃった。泣くとあなたが悲しいって思うからもう泣かない。大勢の人がこういう気持ちだろうね。病気にならない最大の防御は元気なこと。病気しないでね」「はいはい、時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った。ありがとう。・・・電話終わりました」201213c.jpg
(雲間の薄雲の向こうに上った日の出、長々と沼に光の帯を伸ばして。晴れた日は気分も晴れてくる妻。)