曇天の隙間から漏れてくる朝の光

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.27)
(アルツハイマーになった妻)

曇天の隙間から漏れてくる朝の光。210227.jpg

厚い雲から薄い雲の向こうに昇った太陽、オレンジ色に染まった雲を映して輝く沼。210227a.jpg

桐の木の蕾を見上げていたらコゲラが一羽。210227b.jpg


『何で帰れない?』 (2021.2.27)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「今日帰るのか明日帰るのか分からない。お父さんか事務所の人に聞こうと思っていた」「帰りたくなった?」「そういうことじゃなくて、いつまでここにいるかってこと」「帰る予定はない」「何で帰れない? 坂を登った所にお父さんはいるのでしょ」「そう」「お父さんはそこにいつまでいるの?」「これからもずっといる」「今日か明日、ここを出て家に帰るつもりだった」「あんたはずっとそこにいていい。あんたがいまいる所はグループホーム寿と言う介護施設」「お父さんはどこに住んでいる? 坂を登った所にある二人の家?」「そう」「二人で作ったが今はお父さんの家?」「私とあんたの家」「何で私は一緒にいない?」「一昨年あんたは病気がちになって、それまであんたがやっていたこととあんたの介護とが重なって私には出来なくなった」「歳だものね」「このままでは二人共倒れになるからあんたと相談した。あんたは施設に入りたいと言って、二人でグループホーム寿を見学して申し込んだ。去年1月に入居できた」「入ったのは何となく憶えている。誰が連れて来た?」「私とAとLが一緒に来た。去年正月に入居の準備にAとLがが来てくれた。嬉しくてあんたは食べ過ぎ、子どもたちが帰った後に膵炎を再発してJAとりで総合医療センターに入院した」「川を渡った先だね」「そう、退院3日後にグループホーム寿に入居したが、入院中に色々忘れて、自分のいるところもよく分からなかった」「何となく記憶があるがそれが繋がらない」「入居し、食事や入浴、体操など専門の人が計画的に介護してくれ、訪問診療のお医者さんの診察も受け、あんたはすっかり元気になった」「私は良いところにいるんだ。だけど会えない」「最初は毎日面会に来ていたが、コロナが流行って面会も外出も出来なくなった。その後は毎日電話してる」「憶えていない。話を聞いてびっくりして、嬉しくなった」「時間だ。CD鳴らして」「・・・鳴った。電話機を返してくる」210227c.jpg
(手入れの行き届いた庭に咲いていた紅白の梅の花。)

日の出は望めそうにない曇天、いつまでも暗い沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.26)
(アルツハイマーになった妻)

日の出は望めそうにない曇天、いつまでも暗い沼。210226.jpg

早々と桃山公園を後にして遠回りした帰路。周りの木が入れ替わった植木屋の畑に一本残って咲いていた紅梅。210226a.jpg

野菜畑で葉を器用に千切って食べていたヨドリ。210226b.jpg


『私の好きな手賀沼の道』 (2021.2.26)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「あなただね。どこにいるの?」「家にいる」「お父さんの声を聞いて嬉しい」「ここの所は地図上では高いところ。下へ降りてもう一つの高台に学校だか、広い土地のある方がお父さんのいるところだと思って眺めている。利根川を渡って左へ曲がると病院がある」「利根川を渡ったら取手。取手の病院ならJAとりで総合医療センター。そこなら橋を渡ってしばらく真っ直ぐ走って左側。橋を渡って直ぐ左に曲がったならジョイフル本田、あんたが運転してよく買い物に行った」「分からない。お医者さんがやさしくて、治るまでここにいましょうと言った」「じゃあ取手で入院したときかな」「分からない。手前にNECがある。帰りは川を渡らずに我孫子の駅に来た」「川を渡らないで取手からは戻れない」「手賀沼を渡って行って、帰りは西から橋を渡らずに戻った。手前にNECがあり、そこからの道は左には降りられなくて右に行って駐車場に降りた」「取手に行ったり柏に行ったり、我孫子に戻ったり、利根川の土手らしいところになったり、次々と場所が変わるから話が分からなくなった」「私は一人で歩くのをやめている。一人だと家に帰れなくなるから。これからはここに住むんだと言ってお父さんが私を置いて帰ったから、私は泣いた。お父さんの所へ送ってやるという人がいた。高いところから降りて次の高台に登ったら私たちの家があって安心した。買い物はついて行ってくれる人がいて、川を渡って行ったがどこだか分からない。私はどこで曲がって、どこで坂を登って、どのくらい離れているかを分からない。行った場所の景色は出て来る」「宅配弁当の配達が来たから待っていて」「玄関が見えた。玄関を出て坂を下ると私の好きな手賀沼の道。その辺を歩くのは好きだった」「今日は大急ぎで色んな所を歩いたね」「一所懸命お父さんを引っ張っていったよ」「時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った」「電話機返してきて」「返しに行ってくるね」と電話は終わったが、次々妻の頭に浮かぶ景色の変化に戸惑った。210226c.jpg
(背後から急に射し込み始めた淡い日差し、振り返れば桃山公園の上にうっすらと太陽。)

青空に浮く薄雲、下から染まり始め大きな朝焼けに

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.25)
(アルツハイマーになった妻)

青空に浮く薄雲、下から染まり始め大きな朝焼けに。210225.jpg

朝焼けが色褪せ、岡発戸の丘の上をオレンジ色に染めて日の出。210225a.jpg

スズメたちが集まって餌を啄む滑り台の周り。210225b.jpg


『ここはどこ?』 (2021.2.25)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「やっと終わりに近付いたね」「何が?」「私は帰ると思っていたが終わりじゃないのね。私はどうしたらいい?」「今まで通りそこにいてくれればいい」「ここはどこ?」「グループホーム寿。あんたを介護をしてくれている施設」「ずっと前からそこに入っているのね。私は何か勘違いしている。市役所の前の道を上ったところ?」「そう。坂を登ると信号がある」「ある」「信号の手前を左に入ると駐車場の先がグループホーム寿」「岩滑から坂を登るとここ?」「ここは我孫子、岩滑は静岡県だから歩いては行けない」「あっ、そうか。ここは私たちの家の近く。見に行きたい」「コロナが流行っていて外出も面会も出来ない」「コロナって本当に日本が冒されているの?」「そう」「どこから来た?」「中国で発生して世界中に広がった」「罹っても治るの?」「若い人は治るが、年寄りは死亡率が高い」「私たちは80過ぎだから気をつけなきゃ。帰る仕度をしていたらHの靴がある」「あんたの姉妹は誰も来ていない。あんたの履きにくい靴を押入に入れてあったが、靴箱に移してくれたと思う」「Hが来ると思った」「Hさんのご主人が脳梗塞になって、介護が大変だから来られない」「そんなこと誰も教えてくれない」「何度か話したが、忘れたんだ」「自分のことじゃないから聞き流しなんだね。お父さん、どこにいる?」「坂の上の家」「私たちの家ね。だったら帰りたい」「一昨年までは一緒に住んでいた。あんたが病気がちになって、私があんたの介護をできなくなった」「そうだね、歳だから」「だから私に代わってグループホーム寿で介護してもらってる」「それでここにいる理由が分かった」「そこにいれば、食事、洗濯、掃除、入浴など全部面倒見てくれるし、訪問診療のお医者さんが来て診察してくれる」「経費はどうするの?」「私が払っている」「早くそこに行きたい」「最初からそこに入っているよ」「嬉しい」「時間だ。CD鳴らして」「・・・鳴ったから電話返してくる」210225c.jpg
(昨日は何羽も来たヒヨドリが今朝は一羽だけ、スズメやムクドリたちが動き回る畑の木に止まる。)

コブハクチョウペアが岸辺近くで恋の儀式

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.24)
(アルツハイマーになった妻)

コブハクチョウペアが岸辺近くで恋の儀式、まだ追い払われない去年生まれの子ども。210224.jpg

雲の隙間をオレンジ色に染めて、雲の向こうを登る太陽。210224a.jpg

雲の向こうの日の出に斜面林はシルエット、上空高く伸びる薄雲が白く輝く。210224b.jpg


『私は誰?』 (2021.2.24)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い。寝てたの?」「だってやることがないもの。本も持ってきていないので暇だった。何もすることは出来ないから、部屋に入って泣きながら寝た。何をしていいか分からないし、やることもない。嗚咽が出るだけ。胸の上の方がつかえている。大きい声で泣くと誰かが気付いて、部屋を覗いて何か言うから小さい声で泣いていた。あなたはお父さん?」「そう」「どこにいる?」「家」「私の知ってる坂を登ったところの家だね。色んなことがごちゃごちゃ。手賀沼を渡って帰ってきた。どこにいるか分からないから泣いていた」「どこへも行っていない。今コロナが流行っていて、グループホーム寿では外出禁止、面会禁止だから、あんたはどこへも行っていない」「外へ行っていないと言われても、頭の中では自由に出られる。外へ出てお父さんを探して、おいおい泣いていた。ずっと会っていないから」「グループホーム寿では感染防止のために外出も面会も出来なくなったから会えない」「私はこんなに気が弱くなったとは思わなかった。私はお父さんと暮らした? どこで?」「結婚して武蔵小山に住んだ。あんたは立会小の先生だった。子どもが出来たら預けられるように等々力に引っ越した」「昨夜等々力渓谷に行った夢を見た」「等々力でAが生まれて尾山台のなおみ保育園に預けた。公団住宅の抽選に当たって横浜の片倉台団地に引っ越した」「憶えていないが、3の4の104が出てきた」「片倉台団地の自宅だ。あんたは教師を辞め、Lが生まれた。私の勤務地が我孫子になって、引っ越して家を建てた」「子どもの父親はあなた?」「そう」「母親は私?」「そう」「私は誰?」「今村公子、結婚する前は中島公子」「中島は記憶にある。我孫子は岩滑の近く?」「遠い。千葉県と静岡県だ」「子ども二人はどこにいる?」「Aは八王子、Lは横浜」「これでやっと突然の会話が繋がった」「時間だ。CD鳴らして」「・・・鳴った」「電話機返して」「どこへ?」「事務所」「行ってくる」210224c.jpg
(干した長靴に止まって畑を眺めるヒヨドリ。よりどりみどり、どの野菜がうまそうか品定め。)

南東の地平線高くまで薄雲、風が強く沼はブルー

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.23)
(アルツハイマーになった妻)

南東の地平線高くまで薄雲、風が強く沼はブルー。210223.jpg

遠くの薄雲を赤く染めた日の出前、足早に流れ去る近くの雲。210223a.jpg

薄雲を赤く染め岡発戸の丘の上から日の出。210223b.jpg


『ズボンにお腹が入らない』 (2021.2.23)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「近くにいる?」「そう、坂の上の家にいる」「私、たくさん食べてズボンにお腹が入らない」「お腹が膨らんでいる?」「特別膨らんではいない。お昼をがつがつ食べたわけじゃない」「そうね、一人一人適量を食器に盛ってくれるから食べ過ぎにはならない」「ズボンのチャックを外した。いつも通り食べたのに」「お腹は痛くない?」「痛くはないが張っている感じ。自分でお腹をさすって、様子を見るか」「便秘していない?」「トイレに行ってもダメならお医者さんに診てもらう?」「お腹や背中が痛くなったら、我慢しないで職員さんにお腹が痛いと伝えてね」「肝に銘じてそうする」「肝に銘じたことを忘れちゃったら困るね」「あはは。忘れるかもしれない」「もしかしたらズボンの中に何か巻き込んでいたり何か絡んでいないかズボンを脱いでみて」「電話機持ってるから脱げない」「電話機をベッドの上に置いて、両手で脱いでね」「脱ぐから待っててね。・・・あはは、バカだね私。あはは。嫌だよう、まだある」「もしもし、オーイ。どうしたの。・・・オーイ公子」「あはは。ズボン脱いで、シャツを一枚脱いで、ズボン下を脱いだ。下まで来すぎていたシャツを着ていたのでそれも脱いだら、その下にまたズボン下を履いていた」「だから窮屈で苦しかったんだ」「朝着替えて、寒いと思ってまたシャツとズボン下を履いたみたい」「今日は寒くないから脱いでも大丈夫」「今日は土曜日?」「月曜日」「お父さんもう勤めていないね。こっちに来てくれる?」「コロナが流行っていて面会も外出も出来ないからダメ。明日も電話するね」「今日は月曜日だから明日は火曜日だね。待ってるよ。あはは」「今日はよく笑うね」「自分のトンチンカンを笑ってる」「時間だからCD鳴らして」「・・・鳴った。ズボン履かずに返しに行ったらおかしいね。履くから待ってて。・・・何を返す?」「電話機。あんたが今耳に当てているもの」「どこへ返す?」「事務所」「あはは、行ってくるね」210223c.jpg
(枯れた芝生の上で餌を啄んでいたスズメたち。人が通ればパッと逃げ、スズメのなる木になった広場の木。)

淡く染まった地平線を映し微かに赤紫の沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.22)
(アルツハイマーになった妻)

淡く染まった地平線を映し微かに赤紫の沼210222.jpg

霧が出始め霞んだ対岸、ネコの木もぼんやり。210222a.jpg

日の出に斜面林はくっきりシルエット。210222b.jpg


『今日は頭が惚けている』 (2021.2.22)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「どこにいる?」「Aさんの家から坂を登った所」「今日は頭が惚けている。今日明日はここに泊まるの?」「今夜も明日も泊まる」「何で頭の中で帰ると思った?」「あんたの頭の中は分からない。急に気温が変わったからかな」「帰ってもいいように部屋を片付けた」「帰らないからやらなくていい」「私は道に迷った」「どこで?」「朝起きてからずっと間違えている。みんなと一緒に行くのはいいが一人だと迷う。他の人に訊いたら、何だか分からないが一緒にやればいいと言った。私は手賀沼に行って迷って自分の居場所が分からなくなった」「外に出られないから、実際には行っていない」「そうね。外へ行ったつもりでも外へ行っていないんだ。窓の外を見ると手賀沼へ下る高いところだと思う。手賀沼の方へ降りて行く時は心が躍る。東へ行く道を曲がって市役所の方へ下る。この景色は現実と同じだと思う。手賀大橋を渡っても直ぐ戻ってくる。目を瞑って手賀沼を西へ行くと、上の道に行けと言われ、登ると見たことのある駅に行く。帰りはどうやったか分からないが帰ってきていた」「コロナが流行っていて外出禁止だから外へ行っていない。夢か空想だね」「そうね。午前中体操を終わってご飯を食べた。いつまでここにいるのかと思ったら、お父さんが来たと言われた」「電話が来たと取り付いてくれたんだ」「あなたは何で来ない」「コロナが流行って外出も面会も出来ないから」「どうして?」「緊急事態宣言が出て、みんなが外出しないようにしている」「変な病気、どこから来た」「中国から世界中に広がった。やっとワクチンが出来たがまだ品不足、そのうち伝染が収まったら外出届を出して家を見に行こう。子ども二人も呼ぼうね」「子どもはもう50前後、結婚してるよね。どこにいる?」「Aは八王子、Lは横浜」「早く収まって欲しいね」「時間だ、CD鳴らして、電話機返してきて」「・・・鳴った」「明日も電話する」「待ってるよ。・・・電話終わりました」210222c.jpg
(収穫が終わった畑に集まったヒヨドリ数羽、畑と庭木の間を行ったりきたり。)

快晴の地平線は赤紫、沼に写って赤紫の沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.21)
(アルツハイマーになった妻)

快晴の地平線は赤紫、沼に写って赤紫の沼。210221.jpg

周りを赤く染め、岡発戸の丘から日の出。210221a.jpg

ちょこちょこ歩いては立ち止まるツグミ、スズメの群に近寄れば通り道を開けたスズメたち。210221b.jpg


『バスが迎えに来る』 (2021.2.21)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「昼寝しようとしていた」「昼寝前でよかった」「そうね。帰るという情報が入ってみんなも部屋で動き始めた。何時ころ帰るか事務所に訊いたら、そんなこと知らないと言われた」「帰るって話しはないはずだよ」「それなら私が勝手にそう思ったこと。でもバスが迎えに来る」「バスが迎えに来るのはロイヤルへデイケアに通っていた頃のこと」「ロイヤルってどこ?」「利根川沿いに下流へ行って右側に土手を降りたところ」「分からない。何をやった?」「お風呂に入れてもらい、みんなでリーダの話を聞いたり塗り絵をして、名前を呼ばれたら出て行ってリハビリの体操をする。お昼ご飯を食べ、話を聞いたりゲームをして夕方バスで家へ送ってもらった」「天王台や我孫子駅近くに行った。最初の頃、ママメートやデイサービスあびこにも通った」「ホテルみたいな泊まる所は?」「ショートステイで和楽園に泊まった。音楽のイベントがある時や私が検査入院する時に泊まった。話し相手をしてくれるからあんたの好きな所だったね」「ごちゃごちゃになって分からない。ここにいると、捕まえられているから怖くて逃げ出すことばかり考えていた」「私があんたの介護を出来なくなり、グループホーム寿が私の代わりにあんたの介護をしてくれ、食事、洗濯、掃除、入浴、体操、薬の管理など面倒見てくれている」「全部やってくれるから家に帰っても私はもうできない。お父さんの話を聞くと私の考えとは逆で、ここはいいところと思う。それでも今までの考えを消せない。親切にやってくれるのも意地悪かと思うこともある。捕まってると思うから怖くておとなしくしている。私をここんに収容するために私が直ぐ忘れるように、戦争の敵側が仕組んだと思った」「捕まえられたんじゃない。私に出来なくなった介護を肩代わりしてもらっている」「私は考え方を逆にしなくてはならないね」「時間だ。CD掛けて、電話機を返して」「・・・鳴ったから返してくる」210221c.jpg
ムクドリが近寄っても啄むのをやめないスズメの群、立ち止まると嘴を地面に射し込むムクドリ。餌が違うからか互いに無視しているようなムクドリとスズメ。)

オレンジ色に染まった地平線と沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.20)

(アルツハイマーになった妻)

青空の下の斜面林越しに、オレンジ色に染まった地平線と沼。210220.jpg

友のFacebookを見て場所を教わって来たという二人連れ、一緒に撮った岡発戸の丘からの日の出。 210220a.jpg

日の出とともに来ていた広場に姿はなく、公園脇の歩道に群れていたスズメたち。210220b.jpg


『家に行きたい』 (2021.2.20)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「公子です。珍しい人から電話で何か伝えたいの。何かに立候補するの?」「違う」「何を伝えるの?」「あんたの声を聞きたかっただけ」「しばらく電話しなかったから?」「毎日電話している」「知らない」「あんたの元気な声を聞くと嬉しい」「何処かへ行くの?」「違う」「分からない。泣きべそをかきそう」「目が覚めるようにからかった。お昼ご飯食べた?」「食べた。その後トイレに行って、眠ったのかな、うつらうつらした。憶えていない。アハハ」「ゲラゲラ笑ってやっと目が覚めたね」「困って、笑って打ち消してたのかな。眠かったが眠った自覚はない」「からかうと目が覚める」「そうか、そんなに昼寝したのか」「起こされた時は惚け惚け。この間は富士山の絵を見て富士山の裾野へ行って、その後岩滑のお墓に行って坂を下ったら手賀沼に出てた。舟に乗って市役所の道にいるって言った」「アハハ。いい加減なこと言ったね」「岩滑の山から手賀沼は遠いと言ったら、頭の中だからスッとどこへでも行けるんだって」「今どこにいる」「家」「窓の向こうの方だが見えない」「駐車場の左の道を行くと広い道に出る」「行ったことがある。右に行くと坂を下って手賀沼がある」「手賀沼の手前に信号がある」「知らない」「手賀沼の手前の十字路」「分かった。左に行くと家の方へ行く」「少し歩くとAさんの家」「そこから坂を上がると二人で建てた家。外を見る場所があった。あなたに手を振った」「私が手賀沼撮影から帰ってくると、ベランダからあんたが手を振っていた。私は一人でその家にいる」「私はどこにいる?」「グループホーム寿」「そうか、窓の外に駐車場がある。家に行きたい」「コロナが収まったら家に来て一緒に散歩し、子どもたちも呼んで食事やお話をしよう」「早く収まるといいな。子ども一人はAが八王子にいる。何だか知らんが名前を思い出した」「もう一人はL、横浜にいる」「二人に会いたい」「時間だ。CD鳴らして」「・・・鳴ったから電話返してくる」210220c.jpg
(ひと声鳴いて飛んでいったヒヨドリ。この辺だろうと探していたら、いたいたピントを合わせにくいややこしい場所に。)

風の強さと風向きで刻々変わる沼の色模様

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.19)
(アルツハイマーになった妻)

風の強さと風向きで刻々変わる沼の色模様。210219.jpg

ラジオ体操が始まる前にもう日の出。210219a.jpg

一斉に木の天辺に避難したスズメたち。犬同士が仲よしな友を見付け、小走りに広場を横切った人に驚いて。210219b.jpg


『明日解散になるでしょう』 (2021.2.19)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「どこにいる」「家」「家って、自分の家か岩滑かどっち」「自分の家」「どこ? 市役所の通り?」「そう、その先は手賀沼、手賀沼の手前の信号を左に曲がってAさんの家から坂を登った所」「分からない。私は右と左が逆になってる。窓の外に駐車場が見える」「駐車場の左の道を東に進む」「車が入ってくる道はあるが出る道はない」「そこは出入りする道。真っ直ぐ行くと広い道がある。右に行くと手賀沼」「私は左に見える。右は分からない。明日解散になるでしょう」「何が?」「ここから自由に家に帰れる。それでないと解散になっても帰れない」「解散にはならないし、コロナが流行っているから外出できない」「そんなこと考えてもみなかった。私は西を向いてる」「窓の方に見えるのは東だよ」「外に出ないと、そうだと思ってもそうならない。あなたはどうしてる?」「家にいる」「解散になったら私はどうする?」「解散にはならない。そこはグループホーム寿、あんたの食事、掃除、洗濯、入浴、薬の管理は全部職員さんが面倒見てくれる。訪問診療の先生が来て診察もしてくれる。そこに入ったら目眩、吐き気、頭がガンガンするのが治って、膵炎も再発していない」「おかげさまだね。だけど病気だったことは分からない。私は元気、ここに来たことはうっすら分かるがなぜここに来たか分からない」「あんたと二人で暮らしていたが、あんたがアルツハイマーになってから出来ないことも増えて、二人で家事をやった。一昨年病状が悪化、私が全部やるようになったが十分には出来なかった。それであんたはグループホーム寿に入って、私の代わりに職員さんに介護してもらうようになった。訪問診療の先生が来て診てくれ、辛かった症状は治り、膵炎も再発しなくなった」「よくなっている」「コロナが収まったら一緒に散歩できるし、家を見に来ることも出来る。時間になった。CD鳴らして、電話機返してきて」「・・・CD鳴らしたから電話機返してくる」210219c.jpg
(出迎えに来てくれたわけでもなかろうに、我が家の庭から飛んできたヒヨドリ。)

風が止み地平線の空を映しオレンジ色の沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.18)
(アルツハイマーになった妻)

風が止み地平線の空を映しオレンジ色の沼。210218.jpg

風が吹き、風の通り道は波立ってブルーの水面。風向きが変われば形が変わるブルーの模様。210218a.jpg

僅か地平線に雲があるだけ、快晴の朝の日の出。210218b.jpg

『昨日私は何をした?』 (2021.2.18)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お父さんの声だ。お昼を食べた後に死んだように眠った。午前中は疲れた」「午前中何をした?」「忘れた。昨日私は何をした?」「鏡台の前で岩滑へ出発する仕度をしていた」「あはは。いい加減なことを言ったね。昨日は富士山の麓に行った」「外出禁止だから行っていない」「頭の中ならどこへでも行ける。私は惚けて訳が分からない。岩滑に行って東の階段から山にある岩滑のお墓に行った。縁側の方へ回って降りようとしたらお父さんが私を呼んだ。坂を下ると手賀沼だった」「えっ!」「私の言うことはでたらめになってるから放っておいて。自分の想像ででたらめ言ってる」「私は手賀沼の周りを歩いて、今は市役所の所まで来た」「岩滑の墓から山を下ったら手賀沼?」「頭の中だから直ぐ行ける。私は自分で何歳だか分からない。私は生きてるの? お父さんと話しているのは生きてる証拠だね。私は何歳?」「80歳」「夢の中で私は死んで埋められた。私のお墓はどこ?」「一関の樹木葬墓地。まだ私もあんたも死んでないから誰も埋めてない。埋めたら上に花の咲く木を植える」「手賀沼という沼は実際にあるの?」「あるよ。あんたは元気な頃手賀沼の周りを散歩した」「お父さんは生きてるの?」「生きてる。こうやって話してるから生きてるよ」「手賀沼でボートに乗って途中で戻った夢を見た。こうして話して、笑っているから生きてるよね」「生きてる」「話していても生きてるか死んでるか分からない。自由にあちこち歩いてる」「外出は出来ないから外に出た記憶は夢か空想だね」「こういう夢の話をするとゲラゲラ笑って楽しいね」「あんたの話に私の頭はくるくる目眩がしそう」「嬉しいよ。お父さんはまだ死んでいない。今お父さんの顔が出てきた」「思い出した?」「シャツ着てネズミ色のズボンはいてる」「時間だ。CD鳴らして」「ラジオは朝と夜に挨拶するため点けているよ。・・・鳴った」「電話機返してから歌ってね」「・・・電話終わりました」210218c.jpg
(桃山公園の広場に飛来したスズメ、昨日より増えたスズメの数。)

橙色に染まる青空の裾、波立って青一色の沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.17)
(アルツハイマーになった妻)

橙色に染まる青空の裾、波立って青一色の沼。210217.jpg

ラジオ体操が始まる前にもう日の出、日々早くなる日の出の刻。210217a.jpg

斜面林越しの朝日が射し込みはじめる頃、広場に来て餌を啄むスズメ。210217b.jpg


『出発の準備をしている』 (2021.2.17)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お父さんの声、嬉しい。片付けをして、出発の準備をしている。長いようで短かったね」「どこへ出発?」「岩滑」「岩滑?」「あっ、お父さんの所に行けばいいの?」「そこにいてよ。そこがあんたの住居」「登録したの?」「登録はしてないが、あんたが住めるように契約してある」「いよいよだと思って化粧品や歯ブラシを片付けていた。ここは私の住居ね。お父さんはどこにいる?」「Aさんの家の横から坂を登った所」「坂の上の家、神社の横から登った所だね。家の前をそのまま行けば中学校や小学校。出発の仕度をしていたが必要ないのね」「必要ない。一昨年まではあんたと二人で住んでいた。あんたは病気がちで私が家のことをやったが抜け落ちることが多く、あんたへの介護も不十分だった。このままではダメになるから施設に入りたいとあんたが言った。二人でグループホーム寿を見学して申し込んだが満室、入れたのは去年1月」「そうだったの」「今そこでは食事、掃除、洗濯、入浴、体操、薬の管理など面倒見てくれている。病院は訪問診療の先生が来て診てくれる」「そういう感覚はなかった。私は何もやっていない」「そこに入ってから目眩、吐き気、頭がガンガンするのが治った」「そういうことは忘れたが今は治ってる」「二度も膵炎で入院したが、ここに入ってからは再発していない」「どこの病院?」「最初はあびこ東邦病院。二度目はJAとりで総合医療センター、退院した時に自分がどこにいるか分からなくて、ここへ入居したのも混乱中だった」「ここへ来たのは憶えていない」「ここへ入って回復して、今はちゃんと会話が出来ている。あんたがここにいてくれるから私は時間の余裕が出来て、一人で生活できるようになった」「私の病気のためだけじゃなく、お父さんにも役立っているのね」「そう」「もう引っ越さなくてもいい。頭の中の拠点をここに置き換えるね」「時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った。・・・電話機を返してくる」210217c.jpg

(道路脇の白菜を収穫した後の畑、人が通れば電線や屋根に待避するムクドリたち。)

地平線沿いの空はオレンジでも波立つ沼はブルー

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.16)
(アルツハイマーになった妻)

地平線沿いの空はオレンジでも波立つ沼はブルー。210216.jpg

快晴の朝の日の出は眩しすぎ、斜面林に重ねて撮ってもまだ眩しい。210216a.jpg

昨日の雨がまだ乾かない広場にツグミ、ちょこちょこと走っては立ち止まりまた走る。210216b.jpg


『火木土のいつ行く?』 (2021.2.16)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「嬉しい。火木土のいつ行く?」「どこにも行かないはず。火木土は、家にいた頃ロイヤルに通った日だったね。どこへ行くつもり?」「家に帰るかお父さんのいるところ」「私は家にいるけど、今はコロナが流行っていて外出も面会も出来ない」「私はどこにいればいいの?」「グループホーム寿、あんたが今いるところ」「ここが私の住居?」「そう」「どこにも行かなくていいの?」「行かなくていい」「よかった。どこへ行くのか悩みの種だった。私は理解できないまま決めつけていた。バスが迎えに来て行くのはどこ?」「家にいた頃、火木土にバスが迎えに来てロイヤルに行った」「手賀沼の方?」「利根川の脇」「何をした?」「体操や外の散歩、お風呂に入れてもらい、お昼ご飯を食べさせてもらった。みんなで集まってお話を聞くこともあった。グループホーム寿では全部やってくれているからどこへも行かなくていい」「いつ行くのか、会場は何処か、一人では外出できないからお父さんに連れて行ってもらうとか悩んでいた。お父さんはずっと家にいる?」「家にいる」「いいなぁ。私はここにいていいと言われて肩の荷が下りた。お父さんは家に、私はここにずっといるのね。私一人で何処かへ行けと言われないのね」「一人で行けとは言われない」「私はそれを理解できないでいた。お父さんのところへ行こうと思ったがダメだね。部屋の中に鏡台があって仲良くしている。ラジオがあって起きたら直ぐ点ける。お父さんの声でなくても声が聞こえると安心できる。声は分かるがお父さんの顔が分からない」「箱の中の写真を見ればいい」「違う写真を見てこれだと思うと間違えちゃう。お父さん来て探して」「コロナのせいで面会出来ない。明日も電話する。明日また話そうね。CD鳴らして」「電気が入らない」「コードは?」「抜けてる。・・・どこへ挿すか分からない」「職員さんに代わって」「・・・夫からです」と電話交代、職員さんに見て貰うよう頼んだ。210216c.jpg
(獲物を見付けたのか足早に歩み寄り、地面に嘴を突き刺すムクドリ。)

ちょっとだけ雲が染まった日の出の方向の空

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.15)
(アルツハイマーになった妻)

ちょっとだけ雲が染まった日の出の方向。210215.jpg

遠くの雲間から漏れたであろう朝の光、空高くまで瞬時の朝焼け。間もなく遠くの雲間が閉じたのか色褪せ、ぽつりとカメラに落ちた雨粒。210215a.jpg

帰ろうとしたら飛んできたカワラヒワ、よく見たら近くにツグミも。210215b.jpg


『いつも電話ありがとう』 (2021.2.15)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「いつも電話ありがとう」「憶えてるの?」「夜寝る前に一日を振り返ったら電話もらったと思った。元気?」「元気」「電話くれるから暇?」「やることはあるよ」「男の暇は暇じゃない、女の暇はほんとに暇。午前中に体操をやった。戻って気持ちよく昼ご飯を食べた。外の駐車場で車から降りた人も体操から帰ってきたのかな。駐車場の先はお父さんと歩いた道。昼間見行ったのと夜見に行ったのでは景色が違う。実物を見ないと分からない。夜寝る前などラジオを点けて人の声を聞くと気が楽になる。お父さん暇でしょ、何してる?」「朝早く手賀沼の写真を撮りに行く」「お父さんの仕事だ」「帰ったら雨戸を開けて写真をパソコンに入れる。それから朝食」「パンを買ってきて食べる?」「パンの他に野菜サラダ、味噌汁、ヨーグルトも用意する」「偉いね」「少し寝てから、パソコンの作業。ブログやフェースブックに写真や文章を出す」「私はバカになって、お父さんがインターネットに出しても見ることが出来ない。家に帰った時に見せて」「コロナが収まったら家に来て、見せてあげる」「前にはずっと見ていた。コロナを終わらせることは出来ないの?」「やっとワクチンが出来たから収まると思う」「窓の外は青空に白い雲が浮いている。お父さんとこういう話が出来て嬉しい。私の病気にはここにいるのがいいと分かっているが、お父さんに会いたい。声は分かるが顔を忘れた」「あんたと一緒に撮った写真が箱の中にある」「お父さんと私、Lと夫と子ども二人が写ってる」「Lの名前がスッと出たね」「そうだね。私の両親と姉妹の写真に私も写ってるが何の時か分からない。傘寿って書いてある」「あんたのお父さんの傘寿のお祝いだね」「いっぱい写真がある。お父さんと私が並んだ写真がある」「それが最近の写真だ。直ぐ見つからなくなるから、一番上に乗せておきな。時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った。どこへ返す?」「事務所」「・・・電話終わりました」210215c.jpg
(誰もいない桃山公園の広場、砂場や遊具の周りで何かを啄むムクドリたち。)

高台に立てば地平線沿い高くまで雲

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.14)
(アルツハイマーになった妻)

高台に立てば地平線沿い高くまで雲。210214.jpg

雲の向こうに登る太陽、ときおり漏れてくる雲の隙間からの光。210214a.jpg

やっと雲の上に遅い日の出、出た途端暗転する沼周辺。210214b.jpg


『一人で行くのは怖い』 (2021.2.14)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「今どこ?」「家」「ここから東へ行って坂を登った所? 私は惚けたのか色々なことがごちゃごちゃだ。お父さんは近くにいるのね。市役所の裏の方だから坂を登ったところ。地図は頭の中にあるが距離が分からない。土地勘がなくなってどこから登るかに疎くなった。東へ行って坂を登るとお父さんと建てた家がある。一人で行くのは怖い。行く時は迎えに来てね。私は自分の家が分からなくなった。明日は帰る日だと思っていた。私の家はどこ?」「私と公子の二人で作った家」「高いところ。それは了解した」「今住んでいるのはグループホーム寿」「それがここ?」「そう」「窓の外は駐車場。その先の方にお父さんがいる」「私はあんたと二人で建てた家にいる」「高台だね」「そう。家に行く道は、窓の外の駐車場の横を進むと広い道」「広い道?」「右に曲がると手賀沼大橋」「分かった」「手前の信号を左に曲がって東へ行く」「曲がった方向が東?」「そう。少し行くとAさんの家」「Aさんの家から神社の手前を登ったら家。行く見当は付くが、迷うと怖いから外へ出ない」「空想の世界で行くのなら迷っても怖くない。空想をやめれば戻っている」「そうね。あはは、実際に行くのは怖い。一人で行かずに迎えに来てもらう。何で私はここにいるの?」「一昨年まではあんたと私は二人の家に一緒に住んでいた」「家庭を持って二人の子どもを学校に行かせた。私は80、あなたは幾つ?」「82」「80まで生きたのは幸せなこと」「私も年で、あんたの介護を十分には出来なくなった。私の代わりにグループホーム寿であんたの介護してもらっている。あんたも、共倒れになるから施設に入りたいと言った」「お利口だったね公子さん。高台から手賀沼を見て、どこへ行く道か分かる。下に友だちの家」「Aさん?」「そう。Aさんの家も分かる。一つずつは断片的に思い出す。どれだけ歩くか、どこから登るかが分からない」「時間だ。CD鳴らして」「・・・鳴ったから電話返してくる」210214c.jpg

(鳴きながら畑を横切ったヒヨドリ。どこへ行ったか見回せば、ここにいるぞと鳴いてくれたアンテナの上。)

霞か雲か薄紫色に染まった地平線の空

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.13)
(アルツハイマーになった妻)

霞か雲か薄紫色に染まった地平線の空。210213.jpg

ラジオ体操が始まって間もなく、空と沼を赤く染めて岡発戸の丘から日の出。210213a.jpg

斜面林の間から広場に漏れてくる淡い日差し。210213b.jpg


『好きなところへ行けるよ』 (2021.2.13)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「今、故郷を思い出して歌ってる。~木枯らし吹いちゃ冷たかろうて・・・~」「うまいなぁ」「歌手が歌ってるのにつられて涙を出しながら歌ってる。お父さんまで届くように歌ってるよ。~もうすぐ春だで畑が待ってるよ・・・なつかしさがしみとおる~ 一人で寂しいなと思ったらCD掛けて歌ってる。目をつぶって歌うと故郷の景色が出て来る。目を開けると現実になっちゃうから。歌を歌って想像するとその場所の景色が出て来る。出て来るのは今の景色じゃなくて昔の景色、好きなところへ行けるよ。頭の中でそこへ行って歌うと慰めになる。だから歌は大事で好きだよ」「お父さんも掛西を出たよね」「そう」「私が一年の時三年だよね」「そう」「~青い月夜の 浜辺には・・・ぬれた翼の銀の色~ いま岩滑の裏山から見た景色や掛川の天守台からの景色が見える。歌うとここにいて景色が変わるからいいよ。今度はあざみの歌」「今日はご機嫌よく歌うね」「夜は大きい声を出せないから昼間がいいね。手賀沼から神社の横を登ると私たちの家に行く。その景色を思い出して歌うとそこにいた気になる。私は歌さえあれば時間が過ぎる。窓の外を見て、外を歩いて手賀沼に出て、坂を登ってお父さんがいる家に行って歌う。今の私はどういう生活をしているかの自覚はない。歌っているけど実際はその場所に行っていないからでたらめの場所。お父さんは何してる?」「朝早くから手賀沼の写真を撮っている」「私も手賀沼を気にして生きてきたから、あちこち手賀沼の景色が出て来てそれに合わせて歌う。歩いて行くと団地に行く」「片倉台団地は横浜で遠いよ」「私は直ぐ繋がっちゃう。団地から坂を下ると佐束の中学にぴょんと跳んじゃう。掛西に行くとマラソンで走ったたんぼ道や掛川公園の天守閣に登る昔の道が出て来る」「楽しくていいね。時間になった。電話機返してきて」「お父さん元気でね。また電話で話そうね。楽しかったよ。電話返してくるね」210213c.jpg
(遊歩道やケヤキの下の小径、‭散歩する人が増えた暖かい朝。)

天気予報は晴れだったのに暗い曇天の朝

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.12)
(アルツハイマーになった妻)

天気予報は晴れだったのに暗い曇天の朝。210212.jpg

実を食べ尽くしたセンダンの木の下、何かを啄みながら小径と斜面林の間を行ったり来たりするツグミ数羽。210212a.jpg

遠回りした帰り道、植木屋の畑に今年も咲いている梅の花。210212b.jpg


『ダメになったからポイ?』 (2021.2.12)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お久しぶり」「毎日電話してる」「私は何か一つ気になると他のことは何処かに飛んじゃう。二つ三つ含んでいると、一つだけで他は落としたかと心配になる。お父さん元気?」「元気」「もう役からおりたの?」「仕事は20年前にやめた」「私がいなくてせいせいしている?」「せいせいなんかしていない、寂しいよ」「じゃぁ何でここに入れられた?」「あんたが病気がちになって度々病院に連れて行ったし、あんたがやっていた家の中のことを私がやるようになった。あんたの介護も増えてたが私は十分に出来なかった。あんたも心配して施設に入りたいと言って、一昨年グループホーム寿を見学して申し込んだ。満室だったので、去年の1月に入れた」「長く一緒にいたけど、ダメになったからポイ?」「ポイいじゃない。一緒にいると共倒れになるから決断した。グループホーム寿に行ってからあんたの体調はよくなった」「何がよくなった?」「目眩、吐き気、頭がガンガンして辛かったこと」「治ってる」「家にいた頃、二度も膵炎で入院したが、再発していない」「ここには専門の人がいるから元気になったの?」「そう」「ポイされのじゃないのね。あなたは丈夫だね」「私の方が早くからガタが来た。20年前に心臓の大動脈弁を人工弁に取り替える手術、腰痛になったり、胆石で胆嚢を取ったり、膵臓に嚢胞が見つかって定期的に検査している。去年からは胃の入り口にポリープが出来て何度も胃カメラの検査、今年は目が見えにくくなり左目は白内障の手術で回復、右目は眼底出血で見えなくなった。これまではあんたが助けてくれていた。今は、あんたがグループホーム寿にいてくれるから、私は一人で何とか暮らしている」「早く家に行きたいと思うがダメね」「コロナが収まったら、外出して家を見に来ることも出来る。もう時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った」「明日も電話するね」「やっぱりあなたは私の夫さんだ。・・・電話終わりました」210212c.jpg
(収穫が終わった後の近所の畑、ハクセキレイが足早に歩き回って餌探し。)

風が強く、地平線の空が赤く染まった快晴の朝

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.11)
(アルツハイマーになった妻)

風が強く、地平線の空が赤く染まった快晴の朝。210211.jpg

火事か、対岸のビルの傍から黒煙が立ちのぼる。10分も過ぎたら薄くなった煙の色。210211a.jpg

快晴の空を赤く染め岡発戸の丘から日の出。波立ってブルー一色の沼。210211b.jpg


『突然に、何があった?』 (2021.2.11)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「私です。突然に、何があった?」「毎日電話してる」「ここで暮らすのに次は何をやるかいつも緊張している。他のことは憶えていない。お父さん元気?」「うん」「こことお父さんの所は目と鼻の先、手賀沼から坂を登ったところだね、歩いて行ける。今日は何してる?」「コロナが流行っていて、入居している人を守るため外出禁止になっている。だから来ることは出来ない。私が面会に行っても会わせてもらえない」「そんなに大変?」「一ヶ月の緊急事態宣言が出たが、もう1ヶ月延長されて3月7日までとなった。それほど状況は悪い」「その間ここに閉じ込められるの」「外の人から感染しないように、あんたたちを守っている」「ここをやめて家に帰るなら出してくれる?」「家に帰ったら食事、掃除、洗濯、入浴、病院通いなど全部私がやらなければならない。私ができなくなってあんたはグループホーム寿に入った。一昨年7月にあんたと私がここを見学し、申し込んだ。直ぐには入れず、去年1月に入れた」「お父さんが入った?」「私じゃない、入ったのはあんた」「私は何日間か泊めてくれるところにいるかと思った」「あんたは申し込んだところに入って、食事、掃除、洗濯、入浴、体操、薬の管理など職員さんがお世話しくれている。病院は、訪問診療の先生が来て診てくれる。ここに来て辛かった症状も治り、膵炎も再発していない」「何が辛かった?」「目眩、吐き気、頭がガンガンして動くのも辛かった」「治ってる。何でそうなった?」「アルツハイマーの薬を背中に貼っていたが、あんたの体質が変わって副作用が出たようだ。膵炎も再発していない」「私は立ち直った。お父さんは元気?」「元気」「子どもは?」「Aは八王子、Lは横浜にいて元気」「お父さんや子どもにも会いたい」「コロナが収まったら、昼間の間に外出して家に来て、子どもたちも呼んで話したり食事しようね」「嬉しい」「時間だ。CD鳴らして」「・・・鳴ったから電話返してくる」210211c.jpg

(市民農園跡から斜面林に舞い上がってきた二羽、モニターで拡大して見ればツグミ。)

久々の朝焼け、風が吹いて波立つ水面はブルー

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.10)
(アルツハイマーになった妻)

久々の朝焼け、風が吹いて波立つ水面はブルー。210210.jpg

朝焼けは色褪せ、岡発戸の丘の上から日の出。210210a.jpg

上から順に朝日を浴びる桃山公園のスズメたち。210210b.jpg


『誰かと話したい』 (2021.2.10)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「泣きべそかいた。一人ぼっちだもの。誰かと話したい。誰でもじゃなくて肉親が来るといいな」「毎日電話してる」「思っているだけで達成された気になり、またすぐに繰り返して同じことを考える。出来ることには限度があって辛い。市役所に書類を出したい」「どんな書類?」「ここに来て見て」「コロナが流行っていて面会できない」「何か書こうと思っても、日によって思うことが違うからまとまらない」「ずっと前には市役所に何かを頼む書類を作っていたね。そういう活動はもう卒業したから書かなくていい」「それでも訴えようと思ったが出来ない。何を言いたいかを誰かに話したい。孤独で寂しい。人生終わりになる時の寂しさは人様々。何をやるのか分からなくなるから毎日めそめそ泣くだけ。お父さんに会いたくなると頭の中に現れる。そういう残っている部分があるから苦しい。自分ではもう出来ないと悟っているが、お父さんに会いたい」「今はコロナで面会に行けない」「私のお葬式の時に会えればいい」「コロナが収まったら、迎えに行く。子どもも呼んで話をしよう。夕方になったらそこへ送って行く」「家って二人で作った家?」「そう」「その辺で思い出すのは、子どもの転校手続に学校へ行ったこと。話したいのは、思っていることを吐き出したいだけと思う。側に誰かがいて、大丈夫だよと言ってくれる状況ではない。長い人生のあることないこと、頭に浮かべば口に出て来る。その話し相手はお父さん。生きてる証拠だよ、死んだら話せない。もう80。83まで生きたら長すぎて辛い。私たちが住んだ家から坂を下ったら手賀沼、それが口から出て来る。死ぬ前の余興に話して、家族にああそうねと言ってもらいたいだけ。明日ころっと死んでもいい」「やめてよ、死なれたら辛い」「お父さんと私は別人よ。手賀沼から坂を登って家に行く。行けるところはどんどん少なくなった」「時間だ。CD鳴らして」「・・・鳴った。電話機返して来る」210210c.jpg
(空想で行けるところがどんどん減って、思い出せなかった散歩道。朝日を浴びて今年も咲いていた民家の庭先。)

快晴の空にぽつんと細くなった月

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.9)
(アルツハイマーになった妻)

快晴の空にぽつんと細くなった月。210209.jpg

日に日に日の出が早まって、岡発戸の丘の上から。210209a.jpg

陽が射し込むのを待つように桃山公園のスズメたち。210209b.jpg


『ここに入れてよかったね』 (2021.2.9)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「どこにいる?」「家にいる」「いいねぇ。私はいつまでここいいる?」「決まっていない」「今週いっぱいかと思った。どこかにお父さんと一緒にいるところがあるのかなと思ったり、ないのかなと思ったりしていた。私はいつまでどこにいるの?」「ずっとグループホーム寿にいる」「何で?」「あんたが私と一緒に住んでも、私はあんたの介護を十分にできない。私に出来なくなった介護をしてもらうためにグループホーム寿にいる」「私が動けないから?」「一緒に住んでいた時私が食事の用意をした。コンビニやスーパーで買ったもの、冷凍食品を適当に食べていた。そこにいれば栄養的にもちゃんと計画的に管理された食事を出してくれる。掃除、洗濯、体操や薬の管理もやってくれる。私と一緒にいた時は私が病院に連れて行ったが、私には段々困難になった。そこにいたら訪問診療の先生が来てくれる」「私はその人をお医者さんだと分からない」「大丈夫、あんたはお医者さんの前では従順な患者だよ」「えっ、知らない。あはは。家にいた時どこが悪かった?」「目眩、吐き気、頭がガンガンして辛かった」「憶えていない」「訪問診療の先生に診てもらってから治った」「治ってる」「二度も膵炎で入院した。お腹から背中が痛くて救急車で病院に入院した」「どこだか分からないが、お父さんから病院の人に渡され、二三段階段を上がったような気がする」「二度目はJAとりで総合医療センターに入院、退院して直ぐにグループホーム寿に入った」「憶えていない」「入院中に色なことを忘れ、自分がどこにいるのかも分からなかった」「ここに入れてよかったね。私は助けられた」「コロナが収まったら、外出届けを出して家を見に行って、子どもたちも呼んで一緒に過ごし、夕方にはここに戻ることだって出来る」「早くコロナが終わって家に行けると嬉しい」「時間だ。CD鳴らしたら、電話機を返してきて」「・・・鳴ったから行ってくる」と泣き声になった妻。210209c.jpg

(何かが動いた近所の垣根、見詰めていたら出てきたシロハラ。同じ頃住み着いた同年代の人の庭、わが家と同じく伸び放題の庭木。)

地平線高くまで湧き上がった黒い雲

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.8)
(アルツハイマーになった妻)

地平線高くまで湧き上がった黒い雲、上空の雲間に細くなった月。愛犬の足元を照らしながら通り過ぎた散歩の人。210208.jpg

前方を足早に流れる雲、風が沼を渡って波立って、上空の白い雲を映して水面に白い模様。210208a.jpg

ラジオ体操が終わってゴミ拾いをしてくれた広場に、袋を咥えて来て残り物を漁るハシブトガラス。お行儀がいいのかそれぞれが咥えて来た袋を並べて置いて。210208b.jpg


『泣いて待ってたよ』 (2021.2.8)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「どなた? お父さん?」「そうです」「どれだけ待ったか分からない」「電話したらあんたはトイレ中、5分待って掛けたところだよ」「お父さん待ってた、泣いて待ってたよ」「そんなに長く待ったんじゃないから泣かないで」「誰と帰ってきた? 日本にいるの?」「どこから帰るの?」「中国から帰って来る」「ずっと家にいたよ。最後に中国から帰ってきたのは27年も前だよ」「27年も前に帰ってきて私たちには連絡がない。だったら何でもっと早く電話してくれなかったの?」「帰ってきたのは1993年12月末。あんたは車で成田空港まで迎えに来てくれたよ」「知らない」「中国で殺されるかと思って心配してた」「もっと前の天安門事件だね。直前に北京から天津に入ったら天安門事件が起きた。北京と天津の間に軍が展開して動けなかった。一週間以上経ってから広州に出て、ホバークラフトで香港へ逃げた。連絡が取れなくて心配させたが無事帰国した。その時の記憶だね」「ずっと待ってたのにどうしてたの?」「中国の仕事が終わった次の年から一関に単身赴任して、あんたは何度も来てくれた。会社を退職して我孫子に戻って20年以上になる。その後はずっとあんたと一緒に住んでいた」「ウソ」「ウソじゃない」「信じられない」「一関から戻る時は、引っ越しの手伝いに来てくれ、あんたと一緒に我孫子に戻った」「知らない」「その次の年は心臓の弁を人工弁に換える手術を受け順天堂に入院、あんたは毎日来てくれたね」「それは知っている。私のお母さんは?」「20年前に死んだ」「父が死んだ時手伝いに行ったからそんなに前じゃない」「お父さんの葬儀の時、あんたのお母さんはどなたの葬儀かと訊いて、あんたのご主人と言われ、私は結婚してたのかと言った。もう30年も前だ」「私も似たようなことをやってる」と言った時、職員さんから訪問診療の先生が来た、その間に掃除をすると言われ、「また明日電話するね」とだけ言って電話を終わった。210208c.jpg
(いつも二羽でアンテナにとまるムクドリ、相棒を待っているのか今朝は一羽だけ。)