雲が黄色に染まる夜明け前、雲間に星が六つ程

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.30)
(アルツハイマーになった妻)

雲が黄色に染まる夜明け前、雲間に星が六つ程。201130.jpg

まばらな雲の向こうが明るくなって、地平線に滲み出てくるように淡い朝焼け。201130a.jpg

遠くの日の出の光が漏れ出して二度目の朝焼け。201130b.jpg

『この窓は西向き向き?』 (2020.11.30)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お元気?」「元気」「風邪を引いていない?」「いない」「私はここ2日寝込んでいたが、今日は朝から元気。お昼を食べて手を洗っていたら電話がきた。この窓は西向き向き?」「東向き」「直ぐ分からなくなる」「駐車場に陽が当たるのは午後、夕日は西から射すから陽の当たる方が東側」「そうか、そう考えればいい。今日みたいに曇りの日は忘れちゃう」「今日は面会に行くと言ってあったが、職員さんが忙しくて急に面会は中止になった」「昨日言われたことはもう忘れちゃってる。お父さんの元気な声を聞けたら電話でもいいよ。私は80になって、お父さんは82、色々なことを出来なくなった。私はここに入れてもらって、毎回ご飯はおいしいし自分で作らなくてもいい。お父さんは元気?」「元気」「そればかり考えている。いつだったか、お父さんが手賀沼の橋の向こうからよたよた戻ってきて水に落ちたのかなと思った。夢かもしれない。私は負んぶしてやれないし、リヤカーで運ぶことも出来ない。乳母車では小さすぎると思った」「大丈夫、水に落ちていない。最近は水際で撮影しないから」「ここは変化のあるところ、北へ行けば自動車がたくさん通って危ないが、南に行けば手賀沼。手前で横に歩いて、神社の近くから坂を上ったら私たちの家」「外へ出られないから道のことばかり考えるの?」「そういうわけじゃない。あちこち行くのが好きだから。外を歩くときは転ばないように注意しなきゃ。よたよた歩くと転びやすいから」「気をつけるよ」「私が居なくて食事はどうしてる?」「朝のパンとサラダはコンビニで買って、夕食は宅配弁当、野菜やその他の食材はパルシステムや通販で買っている。おかずは自分でも作っているよ」「自分でちゃんと出来るね、偉い偉い」「時間になった。CDを鳴らしてから電話機を返してきて」「鳴った。~春を愛する人は・・・~」「おーい、先に電話機返してきて、戻ってから歌って」「分かった。・・・電話終わりました」201130c.jpg
(対岸近くを飛び立ったオオハクチョウ。「元気になったら沼を見に連れて行ってやる」と妻に約束した去年、元気になったがコロナが邪魔して外出禁止の今年。)

地上の灯に染まる雲の隙間、瞬時に見えた金星

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.29)
(アルツハイマーになった妻)

地上の灯に染まる雲の隙間、瞬時に見えた金星。201129.jpg

遠くの雲が淡く色付いた低い雲の向こう、まだ暗い沼にこぼれ落ちる朝の光。201129a.jpg

風が渡り波立つ水面、上空の雲を映し白く輝く。201129b.jpg

『柏へ行った』 (2020.11.29)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「電話機を持ってきてくれた。私は別に悪いところはないが、閉じこもっていると病気にもなるよ。一人でいると不安だし、大勢でいるのも不安。一人で鏡の前でにらめっこをしてべろを出してみた。用事がないと誰も来ない」「午前中は何をした?」「体操やった。お昼も食べた。昨日は手賀沼の向こうへ行った」「柏?」「そう、柏」「誰と?」「一人で。一人じゃないかも」「どうやって行った?」「一人で歩いて行った」「何しに行った?」「一人で柏に行かされたから。国道を歩くのは危ないから嫌だなと思った。一人でこんな遠くまで行かせるのはなぜかと思った。指示されたところは北側の検査場みたいなところ。ここで待てと言われてそこで眠っちゃった。手賀沼の見えるところにいたが、指示された通りやるのは面白くない」「夢じゃないの?」「そうかな、訳が分からない」「訳が分からないことは気にしなきゃいい」「私もそう思う」「一人で行けるずがない」「一人で歩いて行けと指示が出た。見たこともない、いつも歩かないところへサッサと歩いた」「どうやって帰ってきた?」「分からない」「夢だよ。夢だから色んなところに行けちゃう」「東我孫子の方へ歩いて駅の近くで薬局に寄った。線路脇で休んでいると眠っちゃった。自分の家に行きたいと思って探したが思うところには行けなかった。市役所の先から家の方へ向かったら矢印があって、そっちへ行ったら小学校があった。道に沿って歩いたら家に着いた」「1日でそんなに歩き回れないから夢か、思い出そうとして想像してるんだ」「そうだろうと思う。窓の外を見ると、道と駐車場だけだもの。サッサと何かやってくれないとここにいるのは退屈」「今日は道の話しばかりだね」「他に話すことないもの」「箱の中の写真でも見たら」「あなたとの結婚式の写真が出てきた」「時間だよ。CD鳴らしたら電話機を返して」「・・・鳴った」「明日は面会に行くよ」「嬉しいな、嬉しいな・・・電話終わりました」201129c.jpg
(ヒヨドリやムクドリが食べてしまった柿の実、残った柿のへたを啄むスズメ。)

大きな雲が張り出してきた沼上空

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.28)
(アルツハイマーになった妻)

大きな雲が張り出してきた沼上空。201128.jpg

遠くの雲の隙間に頭を出した日の出、雲がなければネコの木の上に日の出だったろうに。201128a.jpg

見る見る雲の隙間を通り過ぎる太陽。201128b.jpg

『声が聞こえた、嬉しい』 (2020.11.28)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「声が聞こえた、嬉しい。ここから直線だったら遠くないね」「直線だったら800m、356を通って行くと1250m。消防署まで行けばグループホーム寿はあと200m位だ」「場所の名前を聞いても分からない。地図が頭にない。お父さんの家は駐車場の横を行って広い道を右に曲がり、市役所の前を手賀沼の手前まで行って左に曲がる。神社の手前のAさんの家から坂を上ったところ」「そう。あんたが言っているのは下の道で遠回り」「上の道は分からない。おててつないでゆっくり歩かないと分からない」「幼稚園に行くんじゃない。家からグループホーム寿へ356を通って行く道だよ」「太陽が沈んで行くのが西なのに何処かで東だと間違えちゃう」「手賀沼側が南だと思えばいい」「そうか、そう考えればいいんだ。お父さんがするすると動くように道を言っても、私の車はするするとは動けない」「下の道はよく憶えているからそれだけでいい」「その内におててつないで歩こうよ。そうすれば上の道も分かるよ」「上の道は野道を行くのじゃないよ」「笑い話で済むからいいよね。駐車場の先の広い道を右に下って、市役所の先で左に曲がって、Aさんの家から坂を上ると家、真っ直ぐ行って途中で左に行くと小学校。大体分かっている。おててつないで散歩するのを楽しみにしているよ」「コロナの伝染病がが収まったらね」「コロナは悪い奴だ。誰が成敗する?」「簡単には収まらないね」「私たちは一緒に住むことはもうないの?」「私には、二人が一緒に生活することと、あんたの介護をすることを両立させられなくなった。あんたがグループホーム寿にいてくれないと二人とも生きて行けない」「そうだよなぁ。ここはいいところだからずっといるよ。たまにはちょっと家に行きたいよ」「コロナが収まったらね」「広い道を市役所の先で左に曲がって、・・・」「ごめんね。もう時間だ。CDを鳴らしたら電話機を返してきて」「・・・鳴ったから返してくる。・・・終わりました」201128c.jpg
(「逃げるなよ」と心の中で呟いたが、レンズを向けたらさっと逃げたメジロ。)

暗い沼、ここしかなかったピントの合うところ

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.27)
(アルツハイマーになった妻)

暗い沼、ここしかなかったピントの合うところ。201127.jpg

地上の灯にうっすら染まる沼上空の雲、空の色を映して暗い黄緑色の沼。201127a.jpg

きのうも畑に通ってきたムクドリか、アパートのゴミ集積場目当てのハシボソガラス三羽に戸惑い気味。201127b.jpg

『夫婦は仲良くしなきゃ』 (2020.11.27)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「やっと声が聞けた。昨日は何を話したか何も憶えていない」「憶えていなくてもいい。必要なら何度でも言うから」「トイレの使い方がわからない人が来て教えてあげるた。電気のスイッチ、水を流すボタンはいつも使うだろうに、今までどうしていたのかな」「急に分からなくなったのかもしれないね」「私はこの頃調子がいいと思う?」「ずいぶん調子がよくなった」「いつに比べて?」「去年に比べて」「そんなに悪かった?」「入院していると色んなことを忘れて、退院してここに入ったら自分がどこにいるのか分からなかった」「昨日お父さんに柏の病院に連れて行ってもらい、重病のような気持ちになった。昨夜そのことを思い出して、本当に悪いならお父さんが来てくれるはずだと思って、お父さんを呼んでくれたかと訊いた。今は夜だから呼べない、昨日昼間電話が来たし、昼間になったら電話が来ると言われた」「昨日はどこにも行かなかった。夢か、ずっと以前の記憶かな。去年から今年の初めは何度も取手の病院に行って検査したり、入院もした」「取手じゃない。柏だった」「柏の病院に行ったのは3年半以上前に市民病院に行った。その時の記憶かも。昨日は元気でたくさん話をしたよ」「たわいもないことを言う人間になって辛いよ。顔を合わせないと甘えられない」「電話だって甘えているじゃないの」「あはは。私は気の強い人間だったがふにゃふにゃになっちゃった。嫌な奴と結婚したね」「そうでもないよ」「よかった。知っている人に面倒見てもらいたいってみんなも言っている。だから夫婦は仲良くしなきゃ。しばらく会っていないね」「この前の日曜日に面会した」「思い出せない」「あんたは白いクマさんを抱っこしていた」「白いクマさんと一緒に誰かに合ったような気はする」「時間になった。CDを鳴らして」「・・・~春を愛する人は・・・~」「オーイ、もしもし」と何度呼んでも歌っていて気付かない。事務所に電話して電話機の回収を頼んだ。201127c.jpg
(去年の今頃は妻も通った公園の散歩道、今年も実をいっぱいつけたマユミの木。)

やっと明るくなれば霧が出て対岸はおぼろげ

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.26)
(アルツハイマーになった妻)

曇天の雲は厚くいつまでも暗い朝、やっと明るくなれば霧が出て対岸はおぼろげ。201126.jpg

葉が散ったケヤキの下で体操する人、やっと男女の区別が出来るほどになった霧。201126a.jpg

霧が退き始めぼんやり見え始めたネコの木。201126b.jpg


『私が帰るのは明日?』 (2020.11.26)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「私が帰るのは明日?」「どこへ帰る?」「それこそどこへ帰るの、岩滑か静岡のどこかに帰るのかと思った。いま私がいるのは、うーん、なんと言うところか分からない。手賀沼から上がった神社の先の方、手賀沼から坂を上って信号を左に曲がっても行ける」「神社って子の神大黒天だね。その近くのグループホーム寿にいる。何で明日帰るの?」「そういうルールがあるようだから」「あんたがいるのはグループホーム寿という介護施設、帰らなきゃならないルールはない」「私はここへ何しに来たの?」「ここは介護施設、食事、洗濯、入浴、体操など生活面の支援、病院に通う代わりに訪問診療に先生が診察に来てくれる」「私たちは一緒に住めないの?」「去年までは一緒に住んでいた」「坂の上の私たちが作った家?」「そう」「そこに一人で住んでいるの?」「そう」「いいなあ。私は何処か悪いの?」「去年は目眩や吐き気、頭がガンガンして病院に通った。ここに入る前に膵炎で二度も入院した。私一人では家の中のこと、あんたの介護や病院通いを満足にできなかった」「出来ないよね」「あんたが施設に入りたいと言ってケアマネージャのMさんが候補の施設を探してくれた。あんたと二人で見学して、家の近くのグループホーム寿に申し込んだ。満室だったからしばらく待って今年1月に入れた」「それはどこ?」「今あんたがいるところ」「それは願ったり叶ったりじゃないの」「ここにいれば介護も訪問診療もしてもらえる」「それで私は元気になったのね。そういうことを忘れて、色々ごちゃ混ぜにして考えてしまう」「あんたがここにいてくれるから、あんたも元気に生きて行けるし、私も自分一人なら自力で生きて行ける」「私たちの家にちょっとだけなら見に行ける?」「コロナの伝染病が収まったらそう出来る」「お父さんの言うことは大体分かった」「時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴ったから電話機を返してくる。・・・電話終わりました」201126c.jpg
(霧の朝だったからか、わが家の前の畑に集まった十数羽のムクドリ。散歩の人が通ると一斉に周りの民家のアンテナや屋根へ。)

通り雨だろうと大きな木の下に雨宿り

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.25)
(アルツハイマーになった妻)

地上の灯に染まった遠くの雲、沼を照らして頭上の空よりも明るい沼。201125.jpg

雨が降ってくるのか暗くなった遠くの空と沼、ビルの灯りが霞み始めやがてポツリポツリと雨。201125a.jpg

通り雨だろうと大きな木の下に雨宿り。街灯に照らされた誰もいない公園の小径。201125b.jpg


『人の出会いは不思議だね』 (2020.11.25)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「寝てた」「寝ぼけてる?」「転がってる。眠いもの」「起きて」「起きた。私、昨日何処かに行って来た」「どこに行った?」「分からない。帰ってきて寝ていた」「また夢を見たのだろう。昨日はどこへも行っていないよ。この前の面会の時も旅行に行って来たって言っていたね」「新幹線代も掛からずに旅行に行けるんだからいいじゃない。目が覚めたらさらりと話が出来て楽しいね。お父さんはどこへ行って来た?」「午前中は依田内科に行ってホルター心電図の結果と市の健診の結果を聞いて、一ヶ月分の薬を出してもらった」「どうだった?」「心電図では二種類の不整脈が出ているが心配ないらしいし、血液検査は問題なかった」「よかったね」「去年の今ころはあんたの体調が悪くて大変だったが、グループホーム寿に入ってからすっかり元気になったね」「そうか、今年は元気になったか。そう聞くと嬉しいね」「ここにいるとスタッフの人たちの介護がいいし、苦労して病院に行かなくても訪問診療の先生が来てくれる」「どこが悪かったの?」「目眩や吐き気がして頭がガンガン、ひどいときには手足が痙攣して救急車で病院に行った。ここに入る前には膵炎で二度も入院した」「もう忘れちゃった。そういうことはないから、私はいいところに入っていいお医者さんに出会ったんだね」「あんたが施設に入りたいと言い出して、ケアマネージャのMさんが探してくれたところを見学して申し込んだ」「人の出会いは不思議だね。いい出会いが重なっていいい結果になった。一生懸命探したって、ちょっとずれたらうまくいかないのに。でも油断大敵だよね。私が間違って考え出したらちゃんと言ってね。お父さんとの出会いもいい出会いだった。どこで出会った?」「S先生の家に呼ばれて行ったら見合いだった」「掛西高に入っていい先生に出会った」「時間になった。CD鳴らして」「もう?・・・鳴ったから電話機返してくる。・・・電話終わりました」201125c.jpg
(妻が植えたツワブキに例年よりもたくさんの花。「落ち葉と枯れ草くらいは片付けてね」と妻が見たら言っただろう。)

地上の灯に染まる雲、一瞬見えた雲の隙間に星

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.24)
(アルツハイマーになった妻)

地上の灯に染まる雲、一瞬見えた雲の隙間に星。201124.jpg

襲うつもりだったのか低空飛行でカルガモを驚かせ、埋立地の杭にとまったトビ。201124a.jpg

沼を渡って飛んできたカワウ三羽が曇天の下。201124b.jpg

『私の夫だ』 (2020.11.24)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「私の夫だ」「当たり」「眠くて眠くて、もしや私の薬に睡眠薬が混じってるのかな。お父さんの電話を待って起きていた」「あんたは以前から昼食後に眠くなっていた」「こっちから行って坂の上の家にいるの?」「そう」「急に眠くなった」「ベッドに寝転がっている?」「そう」「起きないと目が覚めない」「起きたくない」「起きて」「起きた。起きたら窓の外は曇ってる。窓の横の上にエアコンがあってその下に鏡台がある。横のテーブルの上に二つ目小僧のラジオ、横に花があって・・・あれ、ピンポン鳴ってる」「宅配弁当だ」「行ってきて」「待っていてね・・・お弁当だった」「私の分もある?」「ない」「私は食べに帰らないの?」「コロナの伝染病蔓延で外出禁止だ」「そうか、早く食べて」「お昼は食べた。これは夕食用」「お弁当はいいから、会いたいなぁ」「昨日面会した」「知らない」「あんたは広い部屋の窓の内側、私は駐車場にいた。あんたは白いクマさんを抱いて、人形劇みたいにお辞儀をさせて、来てくれてありがとうと言った」「ああ、手賀沼側の大きい部屋ね」「そう」「コロナがなくなったらみんな自由になって、家に帰られる?」「家を見に来たり遊びに来るのは出来るようになるが、泊まるのはダメ。夜にあんたの具合が悪くなっても私では助けられない。ごめんね、私に出来なくて」「私だって同じ。無理だよね。あなたのいた会社、みんなどうやって働いてるの?」「Aと同じように自宅で仕事してる人が多い」「Aは私の姪?」「あんたが産んだ私たちの長女」「どこで働いてる?」「八王子」「誰と住んでる?」「夫と娘の三人暮らし」「元気?」「元気だよ。次女はL」「私は誰を産んだの?」「AとL。Lも元気だよ」「二人は私の子。会わないと忘れちゃう。分からないってこんなに辛いことはない。二人が元気で嬉しいよ」「コロナが終わったら二人とも会いに来る。時間になった。CD鳴らして、電話機返してきて」「・・・鳴った・・・夫との電話終わりました」201124c.jpg
(ハクセキレイがたった一羽、飽きもせず広い畑を右に行ったり左に行ったり。)

橙色が一瞬に塗り替えられてブルーの水面

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.23)
(アルツハイマーになった妻)

地平線の空の色に染まった沼に風が吹き、橙色が一瞬に塗り替えられてブルーの水面。201123.jpg

風が強まりブルーの沼、風の当たらぬ岸辺沿いに移動するコブハクチョウ親子。201123a.jpg

ハシボソガラスが飛び去れば、透かさず飛んできたツグミとムクドリ。201123b.jpg

『来てくれてありがとう』 (2020.11.23)
昨日午後の妻との面会、面会票を記入して提出。駐車場で待つと白いクマのぬいぐるみを持った妻が現れ、職員さんに渡された眼鏡をかけて網戸を開けた。風に吹かれもじゃもじゃになった髪を片手で直し、クマにお辞儀をさせ「来てくれてありがとう」「人形劇うまいね」「大学の時に始めたの。このクマさん、昨日旅行に行く前に誰かがくれた」「Aさんに頂いたんだ」「そうか、Aさんはいつも気にしてくれてありがたいね。まだお礼を言っていない」「昨日はどこへ旅行に行ったの?」「行ったよ。えーとね、バスに乗って行った。朝から行ったが泊まりはしなかった」「昨日電話したときは自分の部屋にいた。昼寝して夢を見たんじゃない?」「夢かもしれない。でも行ったよ。玄関前からバスに乗って前に座った。酔わなかったよ。どこへ行ったか忘れたが、ちゃんと帰ってきて部屋にいた」「今まで昼寝して寝てたんじゃない」「そうかもしれない。眠い」「そんなところで眠っちゃ嫌だよ」「眠らない。遠くが見えない」「老眼鏡かけてるからだ」「外したら見えたけど眩しい。年を取ると忘れることが多くなる。私も80になったから。あなたは90?」「82だよ」「おかしいんじゃないお父さんが二つしか年が違わないって」「あんたのお父さんは幹さん、私はお父さんじゃない、あんたの夫だよ」「夫だよね。あなたの奥さんは元気?」「私の奥さんはあんたじゃないの」「えっ、私はあなたの奥さんか」「マスクしてるから私のことが分からなくなった?」「分かるよ。声で分かる。人間、年を取ると色んなことを忘れる。どんどん忘れてしまって、忘れることまでなくなるのは死ぬときだ。人生っておもしろい。記憶がどんどんなくなっていくのは、自分の心がどんどんなくなっていくってことだね。それは淋しいよ」「昔のことを話したり、昔の写真を見ると忘れたと思っていたことも思い出すことがある。また来週来るよ」「来てくれてありがとう。気をつけて帰ってね」と、走りだした車に手を振っていた妻。201123c.jpg201123d.jpg

風が吹いて波立った水面はブルーに

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.22)
(アルツハイマーになった妻)

地平線の空の色に染まった沼、風が吹いて波立った水面はブルーに。201122.jpg

空を赤く染め片山の丘から日の出。後ろで日の出を眺めていた人たち、ラジオ体操をしに広場へ向かう。201122a.jpg

電線に仲睦まじくカワラヒワ二羽、右が雄で左は雌だろうか。201122b.jpg


『白い熊さん抱いてあげる』 (2020.11.22)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「電話だって言われたので、珍しいねって言ったら毎日来てるって肩を叩かれた。そろそろ私もけりをつけて出て行く仕度をしようと思う」「どこへ行くの?」「分からない」「今いるのはグループホーム寿、あんたの介護をしてくれている。外の病院に通わなくても訪問診療の先生が来て診察してくれる」「そうだね、掛川の病院に連れて行くのは大変だね」「ここは我孫子、岩滑じゃない」「その辺がごちゃごちゃしている。なんで我孫子に来た?」「私の職場が我孫子に移転したから」「それで坂の上に私たちの家を建てた。それで私たち結婚したの?」「もっとずっと前。私は会社に入って3年目、あんたは佐倉小の教師だったころS先生の自宅に呼ばれた。それが見合いだった」「高校の時、私はS先生に可愛がられたし、あなたもそうだったみたい」「結婚して武蔵小山に住んで、あんたは立会小の教師になった。等々力に引っ越し、Aが生まれナオミ保育園に預けた」「家の横は渓谷で滝の音が聞こえた」「公団住宅が当たって横浜の片倉台団地に引っ越したがAを預けるのに困って、またナオミ保育園に預けて、あんたは遠回りして職場に通った。そこへ私の父母の入院もあって退職を決意し、学期末までの3ヶ月間Aを岩滑に預けた」「私が迎えに行ったら縁側にいて、キミコって大きな声で呼んだ。淋しくなると、キミコ、アキラって叫んでいたって聞いた」「Lが生まれ、Aはいくわ幼稚園に通い、中丸小、六角橋中へ進み、LもAと同じコースで中丸小に入った」「その後に我孫子へ来て家を建てたんだった」「そう」「そういう足跡を子どもと一緒に訪ねたい。過去に戻ることは出来ないが、私の過去の心を慰めたい」「友だちのAさんから熊のぬいぐるみをもらった?」「もらった。電気スタンドの横に置いて、いい子いい子してあげている」「そろそろCDを鳴らして」「もう時間か。電気は入ってる。鳴ったでしょ。・・・戻ったら白い熊さん抱いてあげる」と職員さんに話す妻の声。201122c.jpg
(付かず離れずハクセキレイ二羽、広い畑で餌探し。)

風が吹いて波立てば上空を映し銀色の水面

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.21)
(アルツハイマーになった妻)

地平線から膨れあがる雲を映して暗い沼。風が吹いて波立てば上空を映し銀色の水面。201121.jpg

消えたハス群生地に現れたオオハクチョウ17羽。自転車道には数人のカメラマン。201121a.jpg

上空の雲を染め、広がった雲間に日の出。201121b.jpg

『今は泣いていた』 (2020.11.21)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お父さん?」「そう」「今は泣いていた。辛くて」「何が辛いの?」「自由に動けないことが一つ。私は捕まえられ拘束されているのが辛い。何処かに閉じ込められている。それが分からないのが辛い」「誰も捕まえて閉じ込めていない」「夢かもしれないが、手賀大橋を渡った右の建物の一つで誰かに会って、お前は捕まったからもうどこにも行けないと言われた。ほっぺたに白い印をつけられて、急に泣けてきた」「近隣センターこもれびの案を作ったころ、どんな設備や機能が必要か見て歩いて、色んな施設を見学した時の記憶が残っていたのだろう。最近は行っていない」「夢か」「夢だろう。今あんたはグループホーム寿の自分の部屋にいる」「どうして?」「去年あんたは病気がちだった。私があんたの介護をしても不十分で混乱した。あんたが何処か施設に入れてと言って、ケアマネージャのMさんが探してくれた。布佐平和台病院系列の施設を二ヵ所見て申し込んだ」「申し込んだのは憶えている」「その一つがここグループホーム寿で、家に近いし、こじんまりしていて入りたかったところ。満室だったが、今年1月になって入居できた」「憶えていない」「直前に二度目の膵炎で取手の病院に入院した。退院して帰宅したら直ぐここに入った。入院中、自分はどこにいるかも分からなくなり、自分が入りたかった施設だとは理解できなかった」「私はどこが悪かった?」「目眩、吐き気、頭がガンガンするのが辛くて病院に通ったし、膵炎で二度も入院した」「直ったの?」「ここに入って訪問診療の先生に診てもらい、薬をもらって今は元気」「原因は?」「通院していた依田先生の見立て通り、体質が変わってアルツハイマーの薬の副作用が出たのだろう。膵炎の原因は分からない」「そうか、良い所にいるんだ」「監禁されてるんじゃなく、コロナの伝染病蔓延で自分の部屋での面会や外出が出来ないだけ。時間が来た。CD鳴らして」「・・・鳴った。・・・電話返してくる」201121c.jpg
(どの柿もちょっとずつ味見するのかムクドリ、あっちを突きこっちを突く。)

見る見る上空へ広がる朝焼け

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.20)
(アルツハイマーになった妻)

風の音に目が覚めていつもの時間に桃山公園の高台へ。地平線の雲の隙間から遠くの日の出前の光、やがて雲が染まり始め、見る見る上空へ広がる朝焼け。201120.jpg

風に波立つ沼は暗く、朝焼けだけがどんどん上空の雲を染める。201120a.jpg

朝焼けのドラマは終わって色褪せた空、やがて日の出。目映い陽光に黄金色に染まった雲。瞬時に終わった第二のドラマ。201120b.jpg

『あなた何してた?』 (2020.11.20)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「今日はお休み?」「やることはいっぱいある」「私は午前中寝てた」「お昼ご飯食べた?」「食べた。おいしかった」「朝ご飯は?」「岩滑で食べた」「あんたどこにいるの?」「ベッドに転がって天井を見ている」「あんたはグループホーム寿にいる。外出していないから岩滑には行ってない。起きて、起きなきゃ目が覚めない」「岩滑?」「岩滑で朝ご飯食べたと言った」「それは本当じゃない。私はいつまでここにいるの?」「ずっと」「なんでずっと?」「あんたが家に帰っても私はあんたの介護を出来ない。だからグループホーム寿に入った。コロナの伝染病が治まったら、外出して日中家で過ごし、夕方はグループホーム寿に戻ることも出来るようになる」「お父さんは82、帰るのは無理だよね」「昨日は誕生日、誕生会してもらったね」「もう忘れた」「AとLに誕生祝いの花をもらった」「花、どこにある?」「テーブルの上」「これは誰かがくれた。いい花だよ」「カードにAとLって書いてある」「ない、後で探す」「あんたの代わりに二人にお礼の電話しておいた」「私が風邪引いたとか、わがままばかり言ってるって言った?」「言っていない」「よかった。娘にはいいかっこしたいから。女って狡いよ。女と女だと互いに気が強いから言わなくても、男には甘えて色々不満やわがままを言う。いいことを言って欲しいが、男はうん、うんって聞いてりゃいいの。女には言えないけど、私が言えるのはお父さんだけ」「それが80歳になった感想?」「80になったね。本当は、自分が元気になるって気持ちでいないと自殺と同じ、元気になるって気持ちがなくてもっと生きたいって言うのはわがままだ。今夜来るの?」「面会に行くのは22日の日曜日。あんたは広い部屋の窓辺、私は駐車場での面会だけど」「つまらない。それでもいいから来て」「ぼつぼつ時間、CDを鳴らして」「・・・鳴った・・・夫です」。Sさんから「昨日はおいしいケーキをみんなで頂いて、誕生日を祝いました」と。201120c.jpg
(いつも二羽で来るハクセキレイ。ちょこちょこと畑を歩き、連れを待つのか立ち止まっては振り返る。)

遠くに日の出か淡く色付いた上空の雲

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.19)
(アルツハイマーになった妻)

上空の雲が遠ざかり、やっと広がった青空に次の雲。遠くに日の出か淡く色付いた上空の雲。201119.jpg 

霧の向こうに雲の隙間か、出たら間もなく消えた瞬時の日の出。201119a.jpg

出たら直ぐ厚い雲に潜り込む太陽。沼に湧く霧にネコの木もぼんやりと霞む。201119b.jpg


『花が届いた』 (2020.11.19)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い。80歳の誕生日おめでとう」「花が届いた。娘たちからかと思ったが誰から来たか分からない」「よく見てご覧、メッセージカードが入っているよ」「花キューピットって書いてある」「カードは?」「これかな。お母さん誕生日おめでとう。娘のA・Lよりと書いてある。Aはどこにいるの?」「八王子」「Lは?」「横浜」「その二人が一緒にくれたのね」「よかったね」「私は孤児になったの?」「どうして?」「私の生みの親は生きている?」「岩滑のお父さんは27年前、お母さんは20年前に亡くなった」「誰かが連絡をくれて分かっていたが、それは我孫子とは関係ない。別のお父さん、お母さんがいて私の頭は混乱していた。高野山に私たちの家を建てた。その家にあなたはいるの?」「そう」「広い道に出る途中で左に曲がると小学校、下の子を入れた。曲がらずにまっすぐ行って広い道を右に行くと中学校、上の子が入った」「そうだったね」「別のお父さんお母さんは?」「私の父母は浜岡に住んでいた。父が認知症になって父母は我孫子に来て、あんたが介護した。しばらくして野田の江戸川病院入って、あんたは母を連れて面会に通った」「一人で考えるとややこしいが、あなたが話してくれて思い出した。これで混乱はなくなった」「あんたは父の介護や母の面倒見をよくやってくれたし、ボランティアや地域の活動もよくやったね。さんきゅう会や近隣センターこもれびの立ち上げや運営など忙しかった」「さんきゅう会は結果はともあれ全力でやった。近隣センターこもれびはいっぱい思い出す」「頑張ったね」「そう言われると嬉しい」「今度の日曜日に面会に行く」「来てね。年を取ると自分の気持ちをもてあまして、鏡の前に立って自分を映してみた。他人の気持ちももてあまし、気にするのは厄介だ」「冷凍のケーキを解凍して、3時のおやつに用に届けに行く」「色々ありがとう」「CDを鳴らして」「自分で出来る・・・鳴ったから電話返してくる・・・終わりました」201119c.jpg
(もう一度厚い雲から出た太陽を撮れそうだと待ったが、霧と雲の向こうに見えた太陽は一瞬だけ。)

地上の灯りに照らされて足早に流れる雲

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.18)
(アルツハイマーになった妻)

地上の灯りに照らされて足早に流れる雲、霧が出始めて消えた対岸の鉄塔。201118.jpg

霧と雲の向こうにぼんやり日の出。沼を渡る霧に飲み込まれる沼風景、ネコの木の頭だけがくっきりと。201118a.jpg

散歩の人が通り過ぎれば畑に舞い戻るムクドリ。201118b.jpg

『今日私は帰るの?』 (2020.11.18)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「元気ですか?」「元気です」「今日私は帰るの?、帰らないの?」「帰らない」「私の身体はどこも悪くないのに。何処か悪いの?」「悪くない」「だったらなぜ帰らないの?」「どこへ帰るつもり?」「いなか、浜岡か岩滑のどこか。夢かもしれない。誰だか分からないが今日帰るって言った。帰らないと手賀沼の向こうの施設に入れられる」「そんなこと誰も言っていない。手賀沼の向こうの施設は、あんたがボランティアをやっていたころ何カ所か見学に行った施設の記憶じゃないの」「夢を見たのかなぁ。帰らないならずっとここにいられるの?」「ずっといられる」「ここはどこ?」「グループホーム寿、家に近い介護施設」「どこにあるの?」「市役所の前から消防署の方へ坂を上って、356の交差点の直ぐ手前を左に入ったところ」「やっと分かった。何でここに入った?」「去年、あんたは病気がち、目眩、吐き気、頭がガンガンして苦しんだ」「どこが悪かったの?」「アルツハイマーの貼り薬を使っていたが、体質が変わって副作用が出たのかもしれない。それと膵炎になって二度も入院した」「そんなだったの?」「家に一緒に住んでいて、私では介護をし切れなくなった。あんたも施設に入りたいとケアマネージャさんに頼んで、探してくれたグループホーム寿を私とあんたが見学して申し込んだ。満室で直ぐには入れなかったが、今年1月に入れた」「入ったことを全然憶えていない」「入院中に自分がどこにいるか分からくなり、退院し直ぐここに入居した。記憶が回復する前だったから、ここが申し込んだところだと理解できなかった」「そうか、みんな親切だし、ここは良い所だ」「ここにいれば十分な介護を受けられ、訪問診療の先生も来てくれる。ここに来て、去年苦しんだことは全部直った」「お父さん一人じゃ介護出来ないよね。ありがとう。ずっとここにいるよ」「時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った。電話返してくる・・・電話終わりました」201118c.jpg
(垣根の柿をいっぱい食べたヒヨドリ、アンテナにとまって一休みする。)

赤紫に染まる地平線の空、沼に映って赤紫の水面

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.17)
(アルツハイマーになった妻)

赤紫に染まる地平線の空、沼に映って赤紫の水面。風もなく穏やかな夜明け。201117.jpg

霧にぼんやり片山の丘、鉄塔に二つに重なって滲み出てきた太陽。201117a.jpg
羽繕い中の一羽の横に飛んできたもう一羽、嘴を開いて互いに威嚇し合うムクドリ。201117b.jpg

『眠い、眠い』 (2020.11.17)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「眠くて寝ようかなと思ってベッドに腰掛けていたら電話機を持ってきてくれた。眠い、眠い。窓を見ると陽が当たってる西側が見える」「東でしょ。西日が当たってるんだから」「そうだね。東だった」「えんじ色のアルバムがある? その中に複写したい写真があるの」「探してみる。大事なものは箱に入っているから。一番上にアルバムがあった。NO.3って書いてある 」「それじゃない」「私が子どもを抱いた写真があった。あっ、お父さんと私が並んでる写真、・・・、猫の写真集がある。いっぱい入っているから分からない。お父さんが来て調べないと出てこないよ。公子さんは融通が利かない人だよ。お父さん、お父さん」「はーい」「眠ってるかと思った。声がしないもの。一緒に探そうよ、それが一番嬉しい。聞いてる?」「聞いてるよ」「声が出てきた。私は探すのはダメ」「面会禁止で私は部屋に入れないよ」「どうして?」「コロナの伝染病が流行っているから」「手賀沼コンテストのパンフレットがあった。表紙はお父さんが撮ったケヤキの木に雪が降っている写真。これ、私たちの家じゃない?」「あんたは見えても、私は電話だから見えない」「窓から駐車場を見たがお父さんの車がない」「家の前に駐めてある」「あっ、場所が違ってた。ここじゃなくて家の前だものね。この写真、坂を上って私たちの家が見えたところだ」「電話だから私には見えない」「ここに住んでる?」「そう」「羨ましい。私も住まないと私の家じゃなくなって、あなただけの家になっちゃう」「コロナの伝染病が治まったら家に来て、子どもたちも呼んで日中を過ごそう。夕方になったらそれぞれの場所に戻る」「なんで直ぐ帰る?」「私一人じゃあんたの介護を出来なくなったもの」「そうだ、忘れてた。コロナだっていつ終わるか分からない」「時間になった。今日はたくさん写真を見ていっぱい話しできたね。CD鳴らして」「・・・鳴った。電話返してくるね。・・・電話終わりました」201117c.jpg
(近所のおばさん自慢の皇帝ダリア、いっぱい咲いたのを撮っていたら「奥さんの具合、いかがですか」と散歩の人。)

地平線に沿った雲の上の赤紫を映して赤紫の沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.16)
(アルツハイマーになった妻)

地平線に沿った雲の上の赤紫を映して赤紫の沼。201116.jpg

十羽程飛来したオオハクチョウらしきが着水、ハス群生地のハスが消滅しても居座るだろうか。201116a.jpg

雲から日の出、霞む対岸の前にネコの木のシルエット。201116b.jpg


『何でここにいるの?』 (2020.11.16)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「今どこ? あなたの家?」「そう」「坂の上?」「そう」「私は今日帰るの?」「帰らない」「ずっと? 何で?」「去年あんたは病気がち、二度も入院したし、目眩、吐き気、頭がガンガンして苦しくて何度も病院に行った。私では十分な介護を出来ず、お互いが生きるために施設に入りたいとあんたは言った。ケアマネージャのMさんが探してくれて、あんたと一緒にここを見学して申し込んだ」「申し込んだ記憶はあるが入った記憶はない」「申し込んだが満室で、入れたのは今年の1月。入居直前にあんたは入院して、自分がいる場所も分からなかった。入居しても申し込んだところにいると理解できなかった」「そういうことか。私たちには帰る故郷はないの?」「私の浜岡の実家は36年前にたたんだ。あんたの実家はT君夫婦の代、おばさんが帰る場所ではない」「あなたの両親は?」「我孫子の家に来て、あんたと私で父の介護をしたが、二人とも疲れ果て、父を江戸川病院に入れた。母が面会に行きたくて毎日あんたが母を車で連れて行った。父はその病院で亡くなった」「お母さんは?」「ずっと家にいたが、私たちや弟を騙して弟所有のワンルームマンションに入り込んだ。最後は立川の病院で亡くなった」「私たちは我孫子に家を建ててよかった。今日はここから帰ると誰かが言った。窓の外を見ていた時だから空想だね」「空想だね」「荷物を箱に入れ、歯磨きのコップに歯ブラシと歯磨き粉も入れたが、もう必要ないね。ずっとここにいていいの?」「いいよ」「よかった。ここは良い所だし家にも近い。あなたは私と結婚して損したね」「結婚したのは56年前、ずっと一緒にいて助け合ってきた。損だの得だのはないよ。時間になった。CD鳴らして」「もう鳴ってる。電話機返してくる・・・電話終わりました」。6日ほど前、「泣いたり帰りたいって言うとお父さんが困って苦しくなるから、感謝してここにいるよ」と言った妻。以来、帰りたいとは言わない。201116c.jpg
(わが家の軒下から飛んできたスズメ、ケーブルテレビの引き込み線もお気に入りの場所。)

霧が出始めくっきりと浮かび上がるネコの木

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.15)
(アルツハイマーになった妻)

霧が出始めくっきりと浮かび上がるネコの木。201115.jpg

太陽の頭が膨らみ始め始めた日の出、モニターを見ていると「飛行機が横切った」と友の声。201115a.jpg

地平線の雲から上った太陽。霧が出て鉄塔が消えた手賀沼風景。201115b.jpg

『どこの家?』 (2020.11.15)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「家にいる?」「家にいる」「どこの家?」「坂の上の家」「どこだか分からない」「今あんたはグループホーム寿にいる。窓から見える駐車場の脇を進むと広い道」「右の方へ下る道だね」「少し行くと左に市役所の入り口、その先の交差点を左へ曲がる」「真っ直ぐじゃないの?」「真っ直ぐだと手賀沼を渡る橋。左に曲がって少し歩くと水の館や鳥の博物館がある」「曲がるのを忘れてた。その先がAさんの家。坂を上ると家が見えるね」「私の居る家はそこしかない」「私たちが初めて作った家だ。家の前を北に行って途中で左へ曲がると小学校、下の子を転校させた。途中で曲がらないで行くと広い道、右に行くと中学校、上の子は中学3年に入った。思い出すと感激だね。広い道を反対に行くと我孫子駅の方」「途中に消防署がある」「ある」「その直ぐ先の交差点を渡って、最初の路地を左に入ると駐車場がある。その向こうに見える建物があんたのいるグループホーム寿」「交差点の景色が見えない」「左に曲がると坂を下って市役所の方、右に行けば成田線の陸橋を越え、常磐線のガードを潜って6号に出る」「何となく分かったが、まっすぐ行ったときの景色が見えない。見に行けば分かる」「コロナの流行が収まって外出できるようになったら見に行こうね」「子どもたちは大きくなってどこにいる?」「Aは八王子に住んでいて大学生の娘がいる。Lは横浜に住んでいて、高校生と中学生の息子がいる」「私は横浜の家に行ったことがある?」「お土産を持って何度も通っていたよ」「下の娘は未熟だと思って何度も行ったんだ」「娘二人はもう50前後、大きくなったね。もうすぐあんたの誕生日、今年は一緒に祝えないから一緒にいるみなさんとおやつの時に食べるようにミカンとカステラを届けておいた。今度の面会は22日の日曜日だよ」「待ってる」「CDを鳴らしてから電話機を返してきて」「・・・鳴ったから返してくる。嬉しいな。・・・あはは、電話終わりました」201115c.jpg
(隣のアンテナにムクドリ、レンズを向けたら飛び立ってわが家の前の畑に下りた。道の話しばかりの妻との電話、飛べるようになって空から道を撮った夢。水の館の屋根に降り、下を見たら飛べなくなって目が覚めた。)

細くなった月の横に水星、金星はもう上の方に

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.14)
(アルツハイマーになった妻)

細くなった月の横に水星、金星はもう上の方に。201114.jpg

日の出30分前ころに撮った月と水星、手持ちでも撮れるようになった近ごろのカメラ。201114a.jpg

鉄塔と重なるかと思ったが、僅かに鉄塔の上を通った眩しい太陽。201114b.jpg


『夫ですよね』 (2020.11.14)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お父さんですか。夫ですよね。子どもにはお父さんだよね。頭の中で混乱している。いったい誰が夫で、誰が私が生んだ子どもか分からなくなる。自分のことが分からなくなった。いまは内部処理をして、お父さんって呼んでいるが、あなたは私の夫、子どもたちのお父さんだと理解している。その前は何でお父さんが何にもいるかと思った」「お父さんて言っても、あんたのお父さん、私のお父さん、子どものお父さんって、誰々のお父さんって言ったら迷わない。子どものいる家では子どものお父さんを、子どもたちと一緒に父さんって言うから癖になって、自分のお父さんでなくてもお父さんって言うようになってしまう」「それは分かったが、お父さんって言っている内に、お父さんが何人もいて訳が分からなくななっていた。」「私は詮、公子の夫、子どもたちのお父さん。子どもたちと公子が話すとき、子どもと一緒にお父さんって言って癖になって、子どもがいなくても私をお父さんって言うようになった」「分かっている。いま、私がお父さんって呼ぶのはあなただけになった。あなたは子どもたちと一緒にいるの?」「二人とも結婚して、Aは八王子、Lは横浜に住んでいる。私はひとりで高野山の坂の上の家に住んでいる」「私たちが建てた家だね」「そう。CDを鳴らしたら電話機を返してきて」「・・・鳴った。・・・終わりました」
電話が終わったら、妻の誕生祝いにみなさんに食べてもらうようカステラとミカンをグループホーム寿届けた。ケアマネージャのSさんから、前日の妻のパニックについて聞いた。いつも飲んでいる苦い薬を飲んだ時に口の中に残っていて、それを飲み込むように飲み物を口にしたら苦くてパニックになったとのこと。妻の言っていたことはほぼ正確だった。今朝は調子が悪いと朝食を食べず、10時頃起きて着替え元気になって体操をしたと。電話をしたときは元気な声だったが。お父さんが何人もいる混乱に悩んでいたのだろう。201114c.jpg
(一昨日エナガがいた隣の木、昨日はこっちの木にいたエナガ。今日もいるかと近寄れば大きなあくびをしたツグミ。)

足早に雲が流れて、出てきた月と金星

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.13)
(アルツハイマーになった妻)

足早に雲が流れて、出てきた月と金星。201113.jpg

細い月と金星が接近して見える朝。1月に白内障の手術が終わったら肉眼でも金星が見えるようになるだろうか。201113a.jpg

地平線沿いの雲から日の出、沼に映って光の橋。201113b.jpg

『苦い薬でびっくりした』 (2020.11.13)
昨日午後の妻との電話、「今日は調子がよくない。いま一緒に部屋に行くところ」と職員さん。「もしもし」「は~い」「公子です」「元気ないね」「びっくりして始末の仕方が分からない」「何があった?」「私に飲む薬を柔らかにするものを飲ませようとした。それが裸になって出たのか、口の中が火の点いたような苦い薬でびっくりした。部屋に寝かされた。二ヵ所の部屋だったような気もする。一ヵ所にはみんながいたのか、分からない。予想外の苦さにびっくりして、まだ震えが止まらない。私は意識があるのかないのか分からなくなった。今の今まで私は震えて食堂に残っていた。治るのを待っていたようだった。電話が来たから自分の部屋に連れてきてくれ、ベッドに腰掛けている。足はまだ震えている。いままで飲んだ薬でこんなに苦いのはなかった。手賀沼から坂を上って行く景色を見た」「外出できないから外に出ていない。夢か空想のようだ」「知らない。目をつぶっていたから。苦しいのは100年続きそう。詮って名前も忘れていた」「CDを鳴らそう」「足が震えて立てない。・・・電気が抜けてる」「コードの先をコンセントに挿して」「・・・ランプが点いた。鳴らない」「CDボタンを押したら、三角の矢印を押して・・・鳴ったね。電話機を職員さんに渡して」「・・・代わりました」「パニックになっていますが何かありましたか?」「飲み物にむせていました」「薬が苦くてびっくりしたと思い込んでいるようです」「薬は飲んでいません」「じゃあ思い込みですね」「こちらから説明しておきます」「よろしければ私が説明します」と妻に代わる。「飲み物を飲み込むときにむせたんだって。薬じゃなかった。もう心配ないよ。これで震えも止まる」「お父さんと話して直ったみたい。分かったけど、心の中は論理的じゃない。誰かに叫びたい感じだ」「電話機を職員さんに返して」「・・・夫からです」と職員さんに代わり、パニックが収まったことを伝えた。201113c.jpg
(仲間はみんな飛び立ったのに、たった一羽ぼんやり残っているムクドリ)

地上の灯に染まって黄色い雲

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.12)
(アルツハイマーになった妻)

地平線よりどんどん膨らみ、地上の灯に染まって黄色い雲。201112.jpg

日の出の時刻が近くなっても仄暗く、波立つ沼は上空の薄雲を映して白銀色。201112a.jpg

岡発戸新田の入り江の内まで風が渡り、白銀色に輝く水面に繋がれた小舟。201112b.jpg160514875418392237575-thumbnail2[1].jpg

『なかなか会えないね』 (2020.11.12)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「直ぐ近くにいるのになかなか会えないね」「毎週日曜日に面会しているが、今度の日曜日は職員さんが忙しくて面会はなくなった。その次の日曜日に面会に行く」「何日?」「22日」「書くものがない」「忘れてもいい。また言うから」「忙しい人が融通して面会させてくれるの、ありがたいね」「昨日はお茶が喉に詰まって苦しかったね」「憶えていない。バカになってもお父さんが憶えていてくれるからいい」「電話で話しているときはちゃんと会話になってる」「話してる時は分かるが、直ぐ忘れちゃう。昔のことは憶えていて昔のことを言われると思い出すが、こ頃のことは直ぐ忘れて、やったこと自体頭から消えちゃう。年寄りは忘れっぽくなるが、私は忘れる病気だよね」「アルツハイマー病だから直ぐ忘れちゃう。あんたのSu姉さんもお母さんも同じ病気になった」「平和だね。いま話していて自分のことがよく分かった。これは憶えていようと思っても直ぐ忘れる」「認知症のテストを作った認知症専門のお医者さん自身が認知症になって、認知症の人のことが分かったと本に書いていた。忘れたっていい。その時その時をちゃんと生きているから」「一人で生きているのはすごく淋しい。ここに一緒に住んでいる人と話すのと、お父さんと話しをするのとは違う。人間死んだらゼロになる。それに合ったお墓にしたよね」「お墓は一関の樹木葬墓地にした。千坂げんぽうさんが日本で初めて樹木葬を始めたとき少し手伝ったから、樹木葬がいいと思っていた。あんたも賛成してくれた。私たちの理由は死んだ後々までも子どもに墓のことで苦労かけたくないこと、死んだ後まで墓石や骨壺で環境に負荷をかけたくないことだった」「そんな話をしたような気がする。窓の外を見るとまだ生きていると分かる。お父さんと一緒に頑張って生きるよ」「もう時間だ、CDを鳴らして、電話機を返してきて」「・・・鳴った。一人で出来たよ。・・・電話終わりました」
(枝から枝へちょこまかと動き悪戦苦闘、やっと撮らせてくれたエナガ一羽。)201112c.jpg

高台から吹き下ろす風に波立つ沼はブルー

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.11)
(アルツハイマーになった妻)

高台から吹き下ろす風に波立つ沼はブルー。201111.jpg

日一日と遅くなる日の出。雲から出れば目映い太陽、水面に映って黄金色。201111a.jpg

水生植物園跡に陽が射し込めば、朝日を浴びて燃えるようにケヤキの木。201111b.jpg


『息が詰まった』 (2020.11.11)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「あのね、何かに当たったらしい、いま寝てる」「お腹が痛い?」「息が詰まった。お茶が喉の奥に入って苦しくなった。もう大丈夫。苦しくて、息が出来なくなった。うつぶせに寝たらだんだん治って、もう胸に苦しみはない」「間違って息道に吸い込んだ?」「喉につかえて、背中を叩いてと頼んだ。言葉は出るが息が苦しい。それで寝そべってうつらうつらした。本当に苦しかった。どうやって苦しみが抜けたか分からない。そうだ、苦しいうちにこっちへ来た。どうやって来たか知らない。ベッドに寝て直るのを待った」「のんばめた感じ? それが下へ落ちて行かないから息苦しかった?」「冷静に考えたら大したことはなかった。お父さんどこにいる? 近くのお父さんの部屋?」「私とあんたが作った家」「そこへ来たのって聞いているの。そこは私の大事なところ。私が直ぐに逃げ込みたくなるところ。お父さんはそこへ来ていると言った。先生たちは、大したことはない、喉につかえただけだと言って、誰かが背中を叩いてくれた。それで直ったかは知らない。どこで眠ったのか知らない。目が覚めたらここにいた」「もうそんなことを頑張って思い出さなくてもいい」「まだ目に涙が残っている。苦しかった。お父さんは来ていると言った」「どこへ?」「坂の上の家」「どこから来たと思った?」「今日は浜岡に行っていたと思った」「すぐ近くの家にいたよ」「私は横須賀の街から海へ出る道で苦しくなったような気がした。直ぐ傍に母の実家があるのでそこへ行こうと思った。何だかごちゃごちゃして分からない」「空想で岩滑に帰っていたのか。食事やお茶を飲むときは慌てないでね」「私、せっかちか。でも、アイラブユーだから我慢して。私が帰るところはあなたの所しかないから仲良くしてね。ずっと家にいた?」「いた」「よかった、近くにいてくれて」「時間だ。CD鳴らして、電話機を返してきて」「・・・鳴ったから返してくる。・・・電話終わりました。」201111c.jpg
(赤らんだモチノキの実を啄むヒヨドリ。次々丸呑みしても喉に詰まらないのか。)

風に波立つ沼は暗いブルー

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.10)
(アルツハイマーになった妻)

晴天の夜明け。地平線に沿って伸びる隙間が色付いても、風に波立つ沼は暗いブルー。201110.jpg

風が弱まってきたら、水面はブルーとオレンジ色の押し問答。201110a.jpg

鳴き声の方を見上げて歩く散歩道、いつものスズメだろうか今朝も四羽アンテナに。201110b.jpg


『詮さんですね』 (2020.11.10)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「詮さんですね、私の旦那様、嬉しいです。考えてみれば直ぐ近くにいるのね。上と下の違いだけ」「両方とも同じ高台にあるよ。356を通って行けば上り下りはないよ」「そうか、同じ高台か。やっと分かった。頭の中の地図と誰かから聞くことが違うと分からなくなる」「昨日は面会に行った」「憶えていない」「しっかりしていたよ。私を見て、今村詮、夫だと言った」「昨日のことは憶えていないが、あなたの顔を見たから詮だと分かったと思う。電話で話しても顔が見えないから顔を思い出せない。だから誰だったのか分からない。昨日のことは忘れたから、昨日分かっていたことも頭の中にない。道のことは、地図の風景は憶えているが、道で会ったのが誰かは憶えていない。そうなっちゃうのは病気だと思って」「分かっているよ。面会して顔を見ているときは私だって分かって筋道の通った話をした。今日、電話で話していると今日の話しもちゃんとしている。ちゃんとした話が出来ても、時間が経つとそのことを忘れるだけ」「電話で話しているときは、顔を忘れてもお父さんだと推理してしゃべっている。あ~あ、ほんとにどうしよう。あなたはずっと家にいるの?」「家にいる」「やっていなかったからもうご飯は作れないかもしれない」「あんたがやってくれていたことを私がやるようになって、私じゃ出来ないことばかりで困った。だからあんたはグループホーム寿に入って私の代わりに世話をしてもらっている。私がちゃんとできなくてごめんね。あっ、宅配弁当が来た・・・」「玄関でお弁当受け取るお父さんの姿が見えるようだ。私はここでよくしてもらっている。時々会いに来てね。泣いたり帰りたいって言うとお父さんが困って苦しくなるから、感謝してここにいるよ」「時間過ぎちゃった。CDを鳴らしたら電話機を返してきて」「・・・鳴った。・・・今村です。電話終わりました」と電話機を返す声。昨日に続き今日も穏やかな妻だった。201110c.jpg
(まだ雨戸が閉まったままのわが家が見えて来たとき、畑から「皇帝ダリアが咲いたよ。今年は台風にやられなかったからいっぱい咲くよ」と近所のおばさん。)

地上の灯りに照らされて黄色に染まった雲

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.9)
(アルツハイマーになった妻)

夜明け前の沼上空は曇天。地上の灯りに照らされて黄色に染まった雲。201109.jpg

日の出はないから帰ろうかと思ったころ、雲間を通り過ぎ沼に映った瞬時の日の出。201109a.jpg

友が来て話している内に始まった光芒、もう一度カメラを取りだして撮る。201109b.jpg

『あなたは誰だか分かるよ』 (2020.11.9)
昨日の妻との面会、職員さんに持参した写真を渡し、次回の面会予約状況を確認したら職員のやりくりがつかず面会は中止。22日と29日の予約をする。駐車場に行けば私を見付けて手を振っていた妻。窓を開けて「来てくれたの、あなたは誰だか分かるよ」「私は誰?」「私の大事な夫」「名前は?」「今村、えーっと、アキラ」「面会の時には誰だかわからないと電話で言っていたが、憶えていたね」「こうやって実際に会えば分かる。電話の時は目の前にいないから顔を思い出せない。記憶する場所がどんどん狭くなって、お父さんのことを憶えていると他の人を憶える場所がなくなる」「18日が誕生日だから、次の日曜日にカステラとミカンを持ってこようと思ったが、その日は職員さんが忙しくて面会は出来なくなった。誕生祝いは他の日に届けるからみんなで食べてね」「分かった。ありがとう。今日は会いに来たお客さんがあった。えーとね・・・」、職員さんが顔を出し、「今日午前中に新しく入った方がいてみなさんとご挨拶、今村さんが話し掛けてくれて助かりました」「私おしゃべりだから。その人ずーっと顔を手で覆っていたが、話し掛けたら話し始めた」「新しい仲間が出来てよかったね。今日はあんたとAとLが天津に来て、一緒に万里の長城へ行った写真を持ってきた」「ずいぶん前だね。左からLとA、一番右がお父さん、若いね。Aとの間にいるのは誰?」「あんただよ」「サングラスかけてるから分からなかった」「もう一枚は猫のみるともも、あくびしてるお茶目なのがみる、澄ましているのがシャイなもも。二匹とも長生きしたね」「まだ生きてる?」「庭の土の中にいる」「ああ、そうだった。私は猫好きがから、抱いたり首に巻いたよ。AとLは元気?」「二人とも元気。コロナが収まったら二人も来てくれるからね。次の面会は22日の日曜日」「書いておかないと忘れる」「忘れても大丈夫、何度でも言ってあげる」「お父さんって頼りになる。気をつけて帰ってね」と手を振って見送ってくれた。201109c.jpg201109d.jpg

赤いランプを点滅し下の道を通り過ぎた救急車

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.8)
(アルツハイマーになった妻)

高台に立てば未だ暗く沼風景に反応しないカメラ。赤いランプを点滅し下の道を通り過ぎた救急車。201108.jpg

霧が出て対岸が薄れたら、浮き上がって見えたネコの木。ここではネコの木と呼んでいた友、18年ほど前、同じ木を蓮見船から撮ってトトロ言った。忘れていた古い思い出が昨日もらったFacebookのコメントで蘇る。201108a.jpg

埋立地からサギ群が飛び立って、杭の向こうに現れたカンムリカイツブリ五羽。201108b.jpg

『なんで偶然が重なる』 (2020.11.8)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お父さん、なんで偶然が重なるのだろう。~秘めたる夢を・・・その姿 あざみに深きわが想い~ ちょうどお父さんの歌を歌っていた。帰ってくるのはいつ?」「どこから?」「ずっと家にいた?」「いた」「だったら私はどうしてここにいるの?」「去年あんたは病気がちだった」「記憶にないが、そうだったと思う」「あんたは目眩、吐き気、頭がガンガンして、ひどいときは歩けなくなったり痙攣したりした。何度も病院に連れて行ったり救急車を頼んだ。私では介護が十分出来なくなって、あんたも施設へ入りたいと言って、去年7月にグループホーム寿を見学し、その場で申し込んだ」「申し込んだのは憶えている」「満室で直ぐには入れなかった。その後、二度も膵炎で入院した。12月に空きが出来て1月から入居できることになった。入居直前に二度目の膵炎で入院し、退院して直ぐグループホーム寿に入居した。入院中に自分がどこにいるか分からなくなって、申し込んだところに入居したとは理解できなかった」「何も知らなかった。お父さんに苦労かけてごめんね」「いいの、いいの。私たちは56年前に結婚し、あんたは色々やってくれた。AとLの子ども二人をいい娘に育ててくれた。」「二人はどこに住んでいる?」「Aは八王子、Lは横浜」「結婚したの?」「二人とも結婚してAは娘ひとり、Lは息子二人がいる」「高野山に私たちの家を建てて子どもを育てたような気がする」「あんたはお外様。色んなボランティア活動や、さんきゅう会、近隣センターこもれびの活動にい忙しかったね」「少しは憶えている」「グループホーム寿は今のあんたの家」「ここから出るのは無理?」「コロナの伝染病が治まったら、外出して家に来て、AとLも呼んで食事をしたりお話をしよう。夕方にぞれの家に戻る」「お父さんに負んぶに抱っこでごめんね」「時間になった。CD鳴らしてから電話機を返してきて」「・・・鳴った。戻ったら歌を歌うよ。・・・電話終わりました」201108c.jpg
(曇天でいつまでも暗かった沼。帰ろうとしたら沼上空の雲が裂け、こぼれ落ちる朝の光。)

雲に隙間が広がり始めた日の出の方向

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.7)
(アルツハイマーになった妻)

いつまでも暗い曇天の朝、雲に隙間が広がり始めた日の出の方向。201107.jpg

雲が流れて、色濃くなり始めた雲の隙間はどんどん縮まり、やがてのっぺりとした雲に覆われた沼上空。201107a.jpg

ダイサギやチュウサギが杭から飛び去り、埋立地の向こうに集まり始めたカルガモ。ヒドリガモ数羽が通り過ぎ、入れ違いに現れたカンムリカイツブリ。201107b.jpg

『ベッドの中で寝てた』 (2020.11.7)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「ベッドの中で寝てた」「私は誰だか分かる」「今村詮ちゃん。疲れた。昨日はどこかへ行って、自分がどこにいるか分からなくなった」「夢か想像の世界を歩いて迷ったの?」「そうらしい。一緒にいたみんなと話したが、みんなは困らなかったのかな」「夢や空想の中であんたが困っても、それはあんたの頭の中の出来事。みんなは同じことで困っていないよ」「そうだね。みんなは私と一緒の夢は見ない。他の人は夢で迷って困ることはないの?」「他の人だって夢や空想の中で困ることはあるさ。それぞれの人の頭の中のことで、他の人が同じことを一緒に困ることはない」「違う頭で同じ夢を見て、同じように困ることはない。当たり前だね」「昨日電話したとき、あんたは、だんだん道を忘れてきたから迷いそうだと言っていた。昨日の電話の続きを夢で見たのかもしれないね」「昨日そんな話をしたの? 全て憶えていない」「憶えていなくたっていい。あんたが悪いのじゃなく、忘れる病気だから仕方ない。他の病気はみんな治って元気になった。忘れたら何度でも私が言ってあげる。電話であんたと話して、元気な声が聞けたら私は嬉しいよ」「私も声を聞くと嬉しいよ。いつも我孫子じゃない方の駅・・・」「天王台?」「そう、天王台の方へ行って、その先のことが分からなくなる。あっちかな、こっちかなと迷うとどこにいるのか分からなくなる」「こうやって話していると会話はちゃんと出来てる。後で思い出せないだけ。忘れてもいいの、気にしない、気にしない」「夢の中で困ったことは憶えている。夢の中でも困ったことは困ったこと。窓の外を見ていて、昨夜夢の中で、どこで迷ったのか考えてしまう」「あんたと元気に話しできたら嬉しいよ」「時々詮の存在を考えて、私の夫じゃないのと自問自答している」「今度の日曜日も面会に来る。もうCDを鳴らそう」「・・・・鳴った。電話機を返してくればいいのね?」「そう」「音楽は私に任せて。・・・電話終わりました」201107c.jpg
(「奥さんの具合はどう?」と後ろから声。振り返ればラジオ体操帰りの友の奥さん。話しながら歩いていたら「今年初めて咲いた」と指さす方に皇帝ダリアの花。)

山裾から色付き始め見る見る広がった朝焼け

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.6)
(アルツハイマーになった妻)

天気予報に裏切られたような暗い度曇天、山裾から色付き始め見る見る広がった朝焼け。201106.jpg

朝焼けを遮るように張り出してきた近い雲、雲の隙間に遠くの空が朝焼けの真っ盛り。201106a.jpg

雲に覆われ終わったかと思った朝焼け。近い雲が通り過ぎ、空高くまで色褪せ始めた大きな朝焼け。201106b.jpg

『今は孤立した感じ』 (2020.11.6)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い、夫の詮です」「しばらくぶり」「昨日電話した」「忘れた。忘れないのは歯に何かが挟まって気になること、他にも何かあるか気になっている」「歯医者さんの巡回の時に診てもらいな」「そうだね。今は孤立した感じ。外から来る人もいないし、部屋でひとりベッドに寝転がっているのは淋しい。私の病気はなに?」「アルツハイマー」「ものを忘れる病気だね、年寄りに多い病気。もう直ぐ80歳だ。この部屋にずっといられるように頼んだ?」「頼んである」「それはよかった。ここにいると色々やってくれる。私たちの家は坂を上がったところ?」「そう」「行きたいよう」「コロナの伝染病が流行って今は行けない。毎週日曜日に、あんたは広い部屋の窓の内側、私は外の駐車場にいて面会している」「お父さんですよと言われて窓の所に行くと、人はいるけど誰だか分からない」「私を見て、あなただとちゃんと分かるよと言っていたよ。AのことやLのことを話した。岩滑のことも話した」「岩滑の家の横の観音堂への道は階段だったが、今は坂道になっている。いつだったか見た」「御霊様の時、これが最後だと、Aに連れて行ってもらった」「機会があればまた行きたい」「行っても知っている人はほとんどいなくなった。N姉さんと、妹のHさん、浜岡の施設にSu姉さんがいるだけ」「Su姉さんは死んだ」「元気だ。亡くなったのはご主人」「そうか、私の頭にはSu姉さんが死んだと入っていて、直しても直ぐ戻っちゃう。お父さんが私の手を引いて歩いてくれたらどんなに嬉しいか」「コロナの伝染病が終わったらね」「いつになるのかねぇ。ここでは外出も面会もうるさいけど、私たちを守っていると分かっている。知ってる人と自由に交際できないのは辛い」「毎日電話し、日曜日には面会に行っている」「面会の時、夫は手を上げてと言うから手を上げて」「分かった。そうする。時間になったからCDを鳴らしてから電話機を返してきて」「・・・鳴った。・・・電話、終わりました」201106c.jpg
(鳴きながら頭上を飛び去ったヨドリ、どこに行った見回せば、ここにいるぞと鳴いてくれた。)

風が吹いて波立てば上空の薄雲を映し白い水面

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.5)
(アルツハイマーになった妻)

地平線の厚い雲に阻まれた朝の光、風が吹いて波立てば上空の薄雲を映し白い水面。201105.jpg

雲の隙間を通過する太陽、瞬時の日の出が入り江に映って光の橋。201105a.jpg

暗転してしばらくしたら雲間から光芒、次々と光の束を吹き出す雲の隙間。201105b.jpg

『同じ名字だ』 (2020.11.5)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「私は今村公子です」「私は今村詮」「私たち結婚してる? 同じ名字だ。どこにいる?」「家」「どこの?」「Aさんの家から坂を上ったところ」「私も住んでいた?」「一緒に住んでいた」「声はやっぱりあなただ。いつ結婚した?」「56年前」「そんな前のこと分からない。戦争に行っていた?」「行っていない」「何で私はここにいる?」「あんたは去年病気がち、私が十分な介護をできなく、あんたも施設に入りたいと希望した。二人でグループホーム寿を見学し申し込んだ。今年1月まで待って入居できた」「分からない。今は元気だ」「ここで介護を受け、訪問診療の先生にも診て貰い元気になった。入居の時は、AとLも来て鏡台を運んだ」「二人は私たちの子どもだね、どこに住んでいる?」「Aは八王子、Lは横浜」「何が何だか分からん。あなたどこに住んでる?」「Aさんの家から坂を上ったところ」「あなたと私が作った家?」「そう」「ずっとそこにいた?」「今年1月12日朝まで一緒にいて、午前中にここへ来た」「全て私の頭の中を入れ替えないと分からない。自分では今までのことを打ち消せない。市役所から高台へ行ったら家だった記憶がある。ここはどこ?」「ここから出て、窓の外の駐車場脇を進むと広い道、左に行くと市役所入り口を通過し十字路、左に曲がって手賀沼沿いに行き、Aさんの家の前から坂を上ると家」「何処かで一ヵ所曲がる方向が違って分からない」と言い、もう一度説明したら「やっと分かった。やだよう、あなたの顔を忘れた。こうやって話せるって私は回復した?」「そうだね」「私と一緒に住んだら私の病気は移る?」「移らない」「じゃあ家を見に行ける?」「今はコロナが流行っていてダメ」「そうか」「毎日電話し、日曜日には面会に来ている」「思い出せない。誰か分からなくても来てくれると嬉しい。来たときは私が夫だと言って」「そうする。時間だ、CD鳴らしてから電話機を返して」「・・・鳴った。・・・電話終わりました」201105c.jpg
(柿の木から飛んできたヒヨドリ、入れ替わりに木に群がるムクドリ。十分食べたからか身じろぎもせずアンテナに。)

青空に金星が見えるだけの上空

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.4)
(アルツハイマーになった妻)

地平線に横たわる黒い雲、青空に金星が見えるだけの上空。201104.jpg

いつの間にか上空に現れた薄雲、山裾から色づき始め沼上空へ伸びていった朝焼け。201104a.jpg

朝焼けの色が褪め、遠くの雲の間から日の出。201104b.jpg

『間近に声が聞こえた』 (2020.11.4)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「間近に声が聞こえた。直ぐ隣みたい」「直ぐ隣だ」「家ならちょっと離れてる」「家から356に出て、消防署の前を通って・・・」「私の頭の中の地図が消えていて、細かいことを聞いても分からない。自分の頭の中では自由に地図を作れるが、自分の地図にないことを聞いても分からない。窓の外を見るとまっすぐが駐車場。左は大きな木の下にバイクが駐めてある。その先に階段があったが、階段を外して下へ行けなくなった」「その駐車場が面会の時私が車を駐める場所」「広くはない」「駐車場は建物の陰まで続いていろ。面会の時あんたがいる場所まで行けば大きな木も駐車場全体も見える」「見えないから分からない。見える所に行けば分かる」「どこにいる?」「私たちの家」「駐車場の先の広い道を右に行って、市役所の先の手賀沼の前から左に行って坂を上る」「中古車販売の横の道だね」「そう、その坂を上ると私たちの家。家の前を過ぎて真ん中辺りで左に行くと小学校。誰かと歩いて、もっと行くと小学校の裏門に出ると話した」「去年暮れにAと散歩した時のことだね」「Aは元気?」「元気」「子どもは」「一人。もう大学生だ」「下の子の名前は何だった?」「L」「どこに住んでいる?」「横浜」「何区?」「保土ヶ谷区」「思い出すと泣けてくるからやめるね。そっちへ連れて行ってくれたとき話して。なんの用で電話した?」「毎日電話してる」「なんで?」「あんたが元気か確認したくて」「今のところ自分でトイレに行けるしご飯も食べられる。歩くのが下手。私は幾つ?」「今月で80歳」「それじゃ仕方ない。お父さん死なないでね。もう一緒には住めないかもしれないが一緒に生きていたい」「あんたと結婚してよかったよ。いっぱい助けてくれたり世話してくれてありがとう」「私が先にこんなになってごめんだよ」「時間になった。CD鳴らしてから電話機を返してきてね」「・・・鳴らした。いっぱい話して嬉しかった・・・夫との電話終わりました」201104c.jpg
(水生植物園に朝日が射し込み始めたら、天辺から燃えるように輝き始めたケヤキの木。)

高台に立てば霧雨に煙って何も見えない沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.3)
(アルツハイマーになった妻)

高台に立てば霧雨に煙って何も見えない沼。「雨は上がるかねぇ」と声をかけて足早に通り過ぎた犬の散歩中の友。201103.jpg

しばらく沼を眺める内に少し見え始めた対岸。妻の散歩コースだった沼沿いの遊歩道へ下る。201103a.jpg

雨上がりのまだ仄暗い親水広場前の沼、潜水を繰り返すカンムリカイツブリ。その先にはカイツブリも六羽ほど。201103b.jpg

『半分泣いてる』 (2020.11.3)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「半分泣いてる。早く帰りたい」「帰りたくても帰れない」「何処か道が通行止め?」「コロナが流行っていて外出禁止だから」「何回聞いても自分のことのように思わなかった。いつ来られる?」「次の日曜日面会に行く」「今日土曜日?」「月曜日。昨日会ったばかり」「私の頭には昨日会ったなんて残っていない。今度はちゃんと頭に入れておく。もうここにいたくない。帰りたい」「あんたはグループホーム寿で介護してもらっている。去年は病気がち、私が面倒見きれなくなって、あんたも施設に入りたいと言い出した。ケアマネージャのMさんに探してもらって、あんたとグループホーム寿を見学して申し込んだ」「その場所はどこ?」「市役所入り口かの前を通って、消防署の方へ坂を上る」「私は縦、横、高さのことは分からなくなった。窓から外を見ているが、ここを外から見ていないから分からない。駐車場の横を通って広い道に出る。市役所の前を通って右に曲がる」「左でないと家には行けない」「手賀沼に沿って東へ行って、坂を上ると私たちの家。そのまま北へ行って曲がると小学校、曲がらずに行くと我孫子の次の駅の方へ行ける。道が分からなくなった。どこを曲がると私たちの家かややっこしい」「少し道を忘れたね。実際に現地に行ったら分かると思うよ」「そうだね。帰りたい。何でここにいる?」「私の代わりにグループホーム寿であんたの介護してもらっている」「若いつもりだったのに」「今月で80歳になる。誕生日にみんなで食べるようにカステラとミカンでも持って行くよ」「お父さんと奥さんも一緒に来るの?」「私の奥さんはあんただよ」「えっ、だったらもっと甘えればよかった。子どもは?」「二人。AとL」「どこにいる?」「八王子と横浜」「私はあなたの奥さん。私たちの子どもは二人、AとL」「時間になった。ラジオ鳴らして」「・・・鳴った」「電話機返してきて」「はい、愛しい愛しい旦那様。・・・電話終わりました」201103c.jpg
(霧雨の中、ジョギング中の人が手賀大橋の上。誰も歩いてこない遊歩道。)

空を映した沼に風が吹いて描いた色模様

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.2)
(アルツハイマーになった妻)

雲間のオレンジ色と上空の青空、空を映した沼に風が吹いて描いた色模様。201102.jpg

「やっぱり11月になったらこんな沼が見られるな」と、横で大きなアルミの三脚を立てて、友が呟いているような気がした。一緒に1000日以上を手賀沼で撮った森かずおさん、一人旅立ってしまったのは去年の今日か明日だったのか。こんな朝、彼ならどう撮っただろうかネコの木。201102a.jpg

雲から出て、また雲に入った今朝の日の出。201102b.jpg

『Aさん、若~い』 (2020.11.2)
昨日の妻との面会、前日は私がまだ現役だったころ度重なるアメリカへの長期出張があった記憶、中国出張で天安門事件に遭遇し逃げ帰った記憶、妻の母の妹が子どもを連れ満州から苦労して引き上げ、夫はシベリアに抑留されていたころの記憶がごちゃ混ぜになった妄想の中にいた。穏やかな気分になってもらおうと父方の叔母の古希祝いに茶会をやった写真、仲よしのAさんと連れだって犬の散歩を楽しんだころの写真を持って行った。いつもとは違う東側の窓辺に現れた妻、「来てくれたの、ありがとう。あなただとちゃんと分かるよ」「写真持ってきた」「どこ?」、後ろから写真を差し出した職員さん。「Aさん、若~い。もう一人は誰?」「あんただよ」「若いから分からなかった。Aさんの犬を一匹ずつ連れて行った。いつも私はこの子。楽しかった」と笑みが出る。「この花束持った人、浜松のおばさんだ」「あんたたち姉妹が古希のお祝いにお茶会をやったときだ」「こっちの写真にSa姉さん、Su姉さん、N姉さんがいる。みんなよく似てるね。私は?」「端の着物を着た人。あんたは着物を着てお茶を点てたんだね」「おばさんは学校の先生だったが、結婚して姑の後を継いでお茶の先生になった。浜松に住んでいて、戦争中はみんな私の家に逃げて来ていた。母の妹は子どもたちを連れて満州から母の実家に引き上げて来た。夫はシベリアに抑留されていて何年も帰ってこなかった。何にもない戦後からみんな苦労して生きてきたよね。岩滑の家の横には階段があって、上ると観音堂があった。大水の時に流れてきた観音様を祀っている。裏山に登るとうちのお墓が二つあった」「一つは仏式、もう一つは神式。京都から移住したころは仏教、何代目かが城主に仕えるようになって神道になった」「あなたよく知っているね」「あんたの父親が話してくれた」「もう足が疲れたから腰掛ける」「今日は終わりにしよう」「また来てね」「来週も来る」「気をつけて帰ってね」と手を振って見送ってくれた妻。201102c.jpg201102d.jpg

ネコの木がくっきりと見えた朝

撮影ノート『手賀沼有情』 (2020.11.1)
(アルツハイマーになった妻)

ネコの木がくっきりと見えた朝、風が冷たく波立つ沼。201101.jpg

日の出前の光の中に色付いたケヤキの木。201101a.jpg

上空の雲を染め岡発戸の丘の端から日の出。201101b.jpg

『懐かしい声、泣けてくる』 (2020.11.1)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「懐かしい声、泣けてくる。今どこにいる?」「直ぐ近くの家」「いつ帰る? 戦争でずっとアメリカに捕らえられていた?」「そんなことはなかった」「なぜ私はここに閉じ込められているの? 男は戦争に連れて行かれ、女や子どもだけ集められているの?」「私はずっと家にいる」「ずっと家にいるってどういうこと。だったら私たちは家に送り届けられたっていいでしょ」「あんたはグループホーム寿にいて、介護を受けている。あんたは去年、色々病気をして私が介護しきれなくなった。あんたも施設に入りたいと言って、二人でグループホーム寿を見学し申し込み、今年1月に入居できた」「どんな病気をした?」「目眩や吐き気、頭がガンガンしたり、膵炎になって入院もした」「あんたは戦争に行っていた。中国に行って帰ってこなかった」「日本とアメリカの戦争は75年前に終わった。あんたが小学校に入る前だ」「だったら私は小学校に入る前にあなたと結婚したの?」「あんたは地元の小、中、高校を出て、大学を卒業したら佐倉小の教員になった。私と結婚して、東京に出て立会小学校に勤めた。Aが生まれ横浜に引っ越し教員をやめた。Lが生まれ、小学校に入ったら産休の補充で何校かの教員をした。我孫子に来て家を建て、子どもたちも転校した。あんたはボランティアや自分の趣味、近隣センターとの関わりなど多岐の活動をした。私は結婚してから、アメリカには何度も長期出張をした。中国に行った時は天安門事件に遭遇して、天津から広州に出て香港経由で逃げ帰った。戦争じゃない」「戦争はずっと続いていて、お前なんかひとりで生きろと言われ柏に行く道で殴られ、手賀沼の傍を歩いていたらトラックの後ろに乗せてくれた人が柏の病院に連れて行ってくれた。あなたと一緒に暮らした記憶がない」「夢から覚めないね。明日面会に行く。時間になったからCDを鳴らして」「・・・鳴らした」「電話機返してきて」「・・・電話終わりました」201101c.jpg
(ご機嫌斜めか鳴きもせず、じっと動かないモズ。)