赤く染まった地平線の空、北西の風に波立つ沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.7)
(アルツハイマーになった妻)

赤く染まった地平線の空、北西の風に波立つ沼。快晴の空に残る月。210207.jpg

一斉に日立の森から飛び立って、集団でじゃれ合うように沼上空を飛ぶカラス。210207a.jpg

空と沼を赤く染め、岡発戸の丘の中腹から眩しい日の出。210207b.jpg


『なかなか会えないね』 (2021.2.7)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「何してた?」「お昼ご飯食べた」「私は歌っていた」「楽しい?」「楽しいわけじゃない、楽しくやらないと損だから楽しむようにしている。お父さん、元気?」「元気」「なかなか会えないね」「コロナが邪魔してる」「それ、直ぐ忘れちゃう。コロナはどういうもの」「インフルエンザみたいにウイルスの感染で広がる伝染病。コウモリのウイルスが人間にも感染するようになって、中国の武漢で大流行した。中国が隠していたから世界中に広がった」「ここまで来る?」「我孫子も大勢の人が感染した」「本当の話?」「グループホーム寿では施設にウイルスが進入しないよう面会も外出も禁止してあんたたちを守っている」「何で私はここにいる?」「一昨年、あんたは病気がちで病院通いも多くなり、入院もした。あんたの介護を私が十分にできなくて、あんたも施設に入りたいと言った。一昨年7月にあんたと私がここへ見学に来て申し込んだが直ぐには入れなく、去年1月に入居できた」「入って状況はよくなった?」「目眩、吐き気、頭がガンガンして苦しかったのは治った。入居直前にも入院した膵炎も再発していない」「まだここにいるのは大元の病気があるから?」「6年前頃から物忘れが多くなり、鬱的になることが多かった。4年程前にアルツハイマーと診断された」「何が原因?」「頭の中にゴミが溜まったから。原因ははっきりしないが、体質的なことや生活習慣もあるだろう」「私が睡眠不足を続けたから?」「それも影響したかもしれない。病気が進行しないように、ここではよく管理された介護をしてくれる。訪問診療の先生の診察も受けている」「今は会話も出来ている。ひどかった頃のことは記憶にない。これから私は何をすればいい?」「自分で出来ることは出来るだけ自分でやる。そして楽しく過ごす」「私は良いところにいるのね」「そう。時間になった。CD鳴ってるから電話機返してきて」「どこへ?」「事務所」「部屋を出た」と言って電話は切れた。210207c.jpg
(ハヤトウリが絡まって枯れた垣根に、屋根から降りて来てとまったスズメ二羽。)

曇天に隙間が出来て広がり始めた手賀沼上空

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.6)
(アルツハイマーになった妻)

曇天に隙間が出来て広がり始めた手賀沼上空。210206.jpg

コブハクチョウのペアが沼を渡ってきたら、岸から現れた4羽の子どもたちの父さん。羽半開きの威嚇のポーズで迫り侵入者を追い払う。210206a.jpg

テリトリーを守り飛び戻ってきた父さん。市民農園跡の岸辺に集まって待っていた子どもたちや母さん。210206b.jpg


『子どもはいた?』 (2021.2.6)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お父さん?」「そう」「懐かしいね。今勤務先はどこ?」「仕事はやめた」「もう自由になったの。いいことがあった?」「退職して20年、自由気ままに写真を撮れた」「私も20年びっしりやったが、それが何だったか分からない。身体の中にあって、それを言わないと心が晴れない。手賀沼の横から坂を登って私たちが作った家まで行くと消えてしまう。何かやり残したことがそこにある。何だか分からなくて悩んでいる」「近隣センターとかお茶のこと?」「近隣センターはもう行かないしお茶はやめた。私たちの間に子どもはいた?」「二人」「子どものことは何も頭の中にない。あなたと暮らした記憶はあるが、そこでの記憶はない」「何を憶えている?」「小学校の辺りで下から来た人が私を捕まえ、私が何も出来ないのでここへ入れた。何でという思いがある」「私たちは横浜の片倉台団地から我孫子の高野山に引っ越してきて家を建てた」「神社の横から坂を登った所?」「そう」「手賀沼の見えるところ?」「そう。そこへ家を建て、あんたと私、二人の子どもが住んだ」「小さい二人の姿がない。どうしたという思いがある」「それがいつも頭に残っていて悩んでいたことかな」「いついなくなった?」「二人とも結婚して家を出た。Aは八王子にいて、大学生の娘がいる。Lは横浜にいて今度大学に入る長男と中学生の次男がいる」「二人で建てた家まで来ると子どものことが消える。何でかと思った。結婚したのかな、死んだのかなと思った」「二人とも元気だ」「新横浜からバスに乗って、降りたら左に行くと私たちの家があった」「横浜の片倉台団地だね」「もう一つは神社の横から坂を登った所に建てた家。二つは遠いが、片倉台団地と岩滑は近い」「神奈川県と静岡県で離れているよ。そうだ、我孫子に来たら故郷が遠くなったと言っていたね」「なんで私はここにいる?」「時間になった。明日続きを話そうね。CD鳴らして」「・・・鳴ったから電話返してくる」210206c.jpg
(残り少なくなったセンダンの実を、枝から枝へ飛び移って啄むツグミ。)

風に波立つ沼は上空を映してブルー

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.5)
(アルツハイマーになった妻)

快晴の夜明け、風に波立つ沼は上空を映してブルー。210205.jpg

日の出前からツグミで賑わうセンダンの木。ヒヨドリが食べ残した細い枝先に実、枝から枝へ飛び移り揺れる枝に合わせて実を啄む曲芸。210205a.jpg

岡発戸の丘の裾から登った日の出、明日からの日の出は丘の上から。210205b.jpg


『何でこんなに眠い』 (2021.2.5)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「眠い」「眠ってた?」「起こされた」「何だかよく分からない」「眠った後はトンチンカンになる」「何でこんなに眠い。午前中のことは忘れた。お父さん」「はい」「元気?」「元気」「何かやる事が終わりになったと言った? 部屋の中に飾のが終わりになった」「何のこと?」「昨日作った飾り物、かわいい兎の額を掛けた。ベッドの上に座っていると目が覚めてきた。窓の外を見ると青空、垣根の木の上が赤い」「アカメモチの垣根だね」「何だか、口から出るのがでたらめで恥ずかしい。鏡台の横に兎のちぎり絵を貼り付けた。工作も飾った。窓の外は西日で駐車場が明るい。口から出るのはトンチンカンばかり。目が覚めたらはっきりする。夕方まで待ってて。アハハ。お昼を食べてそのままベッドに潜り込んだ。うまく片付けが出来なくて辛いよ。報告おしまい。お父さんがいたら、目が覚めるようにドンと背中をど突いてくれるよね」「あんたと桃山公園に散歩に行った写真を見付け、一緒に散歩したことを思いだした」「桃山公園って、分からない」「あんたの散歩道。家から左に出て、直ぐ左に曲がった突き当たり、いつも沼を眺めた高台や広場のあるところ」「分からない」「分かる時と分からない時があるね。今は他の景色が見えてるからかな」「見えるのは小さな動きの景色ばかり、大きな動きは見えない。沼を見るところは高台?」「そう」「だんだん分かってきた。私は小さい中の話しばかり、大きい見方は出来ない。私はバカになったから、固定しているものを頭の中で移動してしまう」「でも機嫌はいいね」「お父さんの声を聞いているから。自分で判断出来ないと、お父さんの話を聞いて話し方を変えちゃう。いつの間にか高いところに出た、越えると下に川がある。見えないところは自分で作っちゃう」「そうか。時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った・・・」と歩く気配、突然「恐れ入りますがこの電話はお繋ぎできません」のアナウンス、そして切れた。210205c.jpg
(この家に住むスズメか、時々見かける屋根の上。仲睦まじく日向ぼっこの羨ましい姿。)

斜面林の向こうは雲一つない快晴の夜明け

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.4)
(アルツハイマーになった妻)

斜面林の向こうは雲一つない快晴の夜明け。210204.jpg

食べ易い場所を食べ尽くしたヒヨドリ。細い枝に止まってセンダンの実を啄むが、ツグミのように逆立ちしてまで食べようとはしない。210204a.jpg

ヒヨドリが食べ残した実を逆立ちして啄むツグミ。210204b.jpg


『私は泣いている』 (2021.2.4)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「元気そうな声で嬉しい。私は泣いている。何が何だかわからない。病気なのか何なのか、誰かが何か私に言っていると分かっても、何を言われているか分からない。部屋の中には私だけ。窓際に鏡台がある。私が結婚したときに母がくれた」「家でずっと使っていた。ここに来たとき、家からAとLが運んできた」「子どもは小さいときしか憶えていない。もう結婚していい大人になっただろうが思い出せない。何で私はここに入れられた?」「あんたはグループホーム寿にいる。一昨年、あんたと私が見学に来て申し込んだ。直ぐには入れず去年1月に入居した」「なぜ?」「一昨年あんたは病気がち、病院通いをしたし入院もした。私だけでは介護しきれなくなって、あんたも施設に入りたいと言った。それで、見学に来て申し込んだ」「ここに入ったことを思い出せない」「膵炎でJAとりで総合医療センターに入院し、退院後三日目でここに入居した。入院中色んなことを忘れて、入居した時の記憶もないから、何度説明しても分からなくなる」「今だって疑問。あなたから聞いて理解はでき、どこから来たか想像は出来る。ここが何処か分からない。お父さんの話から、市役所の先へ行って信号の前を曲がった辺りだと分かった。ここに来たのは私にプラスになった。ここは穏やかで、一日中好きなことをしていればいい。一人でいることを楽しめなかったら退屈。いつも坂の上のに建てた家のことを思っている。お父さんと住んだことは分かるが、子どもがいたのか、子どもを育てたのかは記憶にない。こうして話していると泣けてくる。他の誰かと話しても仕方ないし泣かない。家に行きたい」「今はコロナで外出も面会もできない。あんたはここで守られている」「コロナが終わるまで我慢する。それは未定の将来だね」「時間だ。CD鳴らして」「お父さんの声が一番の薬だよ。・・・鳴った。電話返してくる」と、昼寝の直後は悲観的になっていることが多い妻。210204c.jpg
(快晴の空、地平線と沼をオレンジ色に染めて日の出。風向きが変わって、波立つブルーの水面の位置も変化。)

地平線の空を映しオレンジ色に染まる沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.3)
(アルツハイマーになった妻)

雲一つない快晴、地平線の空を映しオレンジ色に染まる沼。210203.jpg

岡発戸の丘の山裾近くから日の出。日立研修所の森から次々飛び立つカラスたち。210203a.jpg

陽が昇り水面に映った太陽。スポットライトを浴びたように繋がれたボート。210203b.jpg


『掛川は大都会』 (2021.2.3)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お父さんから電話だと持ってきてくれ、どこへ返すか教えてくれた。田舎で通用することが都会では通用しない。傍に都会のことがわかる人がいるといいね。石けんを使うときお風呂か、洗濯場か、洗面所かを気にする生活ではなかったのが、高校に入ったら都会の生活のルールで、誰に教わればいいか分からなかった。他の人がやっていることを見ていて真似をしてやった。それが当たり前になればおかしいとは思わなかった」「何のこと?」「高校に入って、自分は田舎にいたと思うまでに、分からないことがたくさんあると分かった。始めは仲間に入れてと掛川の人に言えなかった。中学の同級生たちは同じ所から来たから分からないことも同じ。あの人たちは何をしているかって同じ中学から来た人たちと話した。田舎にいると勉強だけ出来ても何を努力するか分からなかった。中学では男子、女子は別れて過ごした。男ばかりの高校に入って戸惑った。特に体操では足が速くても活躍する場はなかった。掛川に行って大都会に来たような気がした。姉三人が掛川の女子高を出たからご飯の食べ方などは教えてくれた。家族は女ばかりだったし、学校では男の中で知らないことばかり。先生は田舎から来た生徒を庇ってくれた。何も分からないところから掛西高に入って喜んだよ。お父さんはどうだった?」「朝比奈中から来たのはラジオ体操も知らないって言われた。戸惑ったが直ぐ慣れた」「女は恥ずかしい気があって人に聞けなかった。学校も女子の扱いに慣れていなかった。体操の時間に女子だけは交通事故に遭わないように田んぼの方を一回り走らされ、運動場を一周して終わり。夏休み、女子だけ浜名湖で三日間水泳訓練をし、学校も男女共学へやり方が変わると説明された」「いっぱい思い出したね。時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴ったから返してくる」と歌いながら歩き、「どこだ? まあいいや」と言ってプツンと電話が切れた。210203c.jpg
(ヒヨドリが止まらなかった細い枝に止まって、ヒヨドリが食べ残した実を啄むツグミ。)

木立の向こうに泣いているような雨の沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.2)
(アルツハイマーになった妻)

暗い小径を抜ければ街灯に照らされた高台。木立の向こうに泣いているような雨の沼。210202.jpg

沼に雨を降らせ、上空を流れる黒い雲。小降りになったら撮ろうと傘を差し沼を眺める。210202a.jpg

また降り出して雨に霞んで消える対岸の丘。210202b.jpg



『お墓はどうする?』 (2021.2.2)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「もういよいよ明日は帰る日?」「どこへ帰るの?」「静岡県掛川市」「掛川のどこ?」「岩滑の実家」「誰のところへ?」「両親は死んだ?」「お父さんは30年前、お母さんは20年前に亡くなった」「岩滑に行っても両親はいないんだ。知らなかった。帰るのが決まったら連絡しようと思った。岩滑に行った記憶がある」「4年近く前、これが最後になるからお年忌に行きたいと言って、Aに連れて行ってもらった」「その時裏山のお墓に行った。もう岩滑に行く必要はないね」「Sa姉さんが亡くなって、今はT君夫婦だけ」「Su姉さんは?」「元気で浜岡の施設にいる」「死んだんじゃない?」「亡くなったのはご主人のSさん」「Su姉さんが生きてるだけで嬉しい。お父さんは坂の上の一軒目にいるのね」「そう」「知らない話を聞いてびっくりし、涙が出ていたのが止まった。私はまだ歩けるから歩いて家に行ける。私はお父さんを見送る仕事が残っているからまだ死ねない。逆になったら私を棺に入れて送ってね。お墓はどうする?」「あんたと一緒に一関の樹木葬墓地に行って場所を決めた。千坂さんが入り口近くのいい場所を探しておいてくれた」「その時のこと思い出した」「車で栗駒山が見える場所も見せてくれた」「栗駒を見たような気がする」「何であそこにした?」「子どもたちにお墓やお寺のことで面倒を掛けたくなかった。それに、墓石も骨壺も使わず墓標は花の咲く木だけ、環境破壊もしなくて済む」「それで大賛成した」「樹木葬墓地が出来るとき少し千坂さんのお手伝いをした。それで千坂さんから環境のことをいっぱい習った」「よかったね。あなたの両親は?」「佐倉のお寺の墓地は永代供養にして、50年分の費用も払って契約した。私ももう佐倉まで行けないし、子どもたちや私の兄弟に面倒掛けずに済むためにね」「私たちだけのお墓が決まっていて嬉しい。ほっとして肩の荷が下りた」「時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った。・・・電話終わりました」210202c.jpg
(まだ現れないケヤキの下を通る犬の散歩の人。今朝はお休みだろうラジオ体操、誰もいない公園の広場。)

仄暗い中、センダンの実を啄みに来たツグミ

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.2.1)
(アルツハイマーになった妻)

仄暗い中、センダンの実を啄みに来たツグミ。210201.jpg

日の出の気配がない曇天の沼。明るい空が広がり始めたのに、ポツリポツリと雨。210201a.jpg

斜面林の木に市民農園跡から飛んできたヒヨドリ。210201b.jpg


『母のおかげ』 (2021.2.1)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「鏡台の前に座って化粧品を仕舞っていたが、話しやすいようにベッドに腰掛けた。今日は何をした」「家の中のこと。雨戸を開け、食事を用意して、掃除したり洗濯をした」「当たり前じゃん。私も仕事を終わって楽ちんしたい」「あんたはグループホーム寿にいて仕事はないよ」「グループホーム寿?」「今あんたのいるところ」「神社の近くから上がったところ?」「どこの神社?」「目を瞑ると昔のままの地図が出て来る。今が分からなくて、今と違った景色が出て来る。その場所に行けばお互いに描くところが同じになる。手賀沼を渡って歩く練習をしている」「あんたはどこのことを言ってる?」「人に通ずる様に言うにはその場に行かないとダメね。神社の前に手賀沼沿いの道があり、後ろに私たちの家への道がある。Aさんの家から坂を登って家に行くのに、昔は階段があった。今は広い道で自動車で通れる。お父さん幾つになった?」「82」「私は何年か経ったら80?」「もう80」「私はお父さんと楽しく暮らしてきたような気がする。私が高校1年の時お父さんは3年だよね。我孫子の駅から真っ直ぐ行くと、右は女学校だった東高、西に行くと母校の西高」「我孫子駅から真っ直ぐ行くと手賀沼。東高と西高は掛川。掛川駅だね」「そうか」「私の実家ではおばさん二人は東高になる前の女学校。姉三人も東高。私は西高に行った。嬉しかった。女子は40人くらいいた。まだ憶えていたって分かって嬉しい。私たちの何年か前に東高に男子も行けるし、西高に女子も行けるようになった。私が西校に行きたいと言ったら、父は反対、母は賛成してくれた。母はのんびりしている女子高が気に入らなかった。これからは大学に行く時代、東高じゃ大学に入れないと父を説得した。母のおかげで私の後は三人の妹も西高に入って大学に行けた」「時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った・・・つい長話して済みません」と電話機を返し、「よかったね」と職員さんの声。210201c.jpg
(ラジオ体操の人たちと入れ替わりに、広場をせわしく歩くハクセキレイ。)

地平線をオレンジ色に染めた快晴の夜明け

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.31)
(アルツハイマーになった妻)

地平線をオレンジ色に染めた快晴の夜明け。210131.jpg

風の通り道は波立って、上空の青空を映しブルーの模様。210131a.jpg

空と沼を黄金色に染め雲から出れば眩しい日の出。210131b.jpg


『思い出の場所はどこ?』 (2021.1.31)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「今どこにいる? こっちから左に曲がって坂を登った所だね。行きたいなぁ。涙が出ちゃう。私の思い出の場所はそんない多くは残っていない」「思い出の場所はどこ?」「やっぱりそこが一番。間もなく人生が終わりになるけど、どうなるか分からない内に終わるのかなぁ。一人でいるから寂しい、死んだ方がいいと思うくらいだ。思い出そうとすると、出てきた景色は実家のお墓にお父さんと行ったこと。次は、電車に乗って我孫子に行ったこと。最後のお別れの時は家の前に行って、みんなで並んで写真を撮る。そこを北に真っ直ぐ行くとバス通りがある。その辺の思い出が一番多く残っている」「最後のお別れでなくても、コロナが収まれば二人で建てた家に行ける。外出届を出し、私が迎えに行って家に来る。子どもたちも呼んで、話をしたり食事をして、夕方にはそれぞれの所に帰る。そういう会をやろう」「早くやってと言ってもコロナがあるとダメね。家なら歩いて行ける。私はお別れする覚悟が出来たよ。病院に入ると自由がきかないからからなぁ。新横浜から団地に行く景色が出てきて、東のお観音様へ行く」「団地は横浜の片倉台団地、観音堂は岩滑だよ」「私は直ぐにスッと行けるから、アハハ。部屋にある鏡台は岩滑の母がくれた。鏡台は私のいのち、毎朝鏡の前でおはようって言ってる。母は師範学校を出て島田の奧の方で先生をやった。父は小学校の校長だった。父の姉妹も私の姉三人とも女学校に行き、娘は女学校に行かせることしか考えていなかった。私が掛西高に行きたいと言ったら父は反対、母が賛成した。最後に父は四女だから好きにしろと許してくれた。私から後の妹たちは女子高でなく共学の掛西高に行くようになった。入学してから先生に、共学でも女子が少なすぎる。もっと増やしてと言ったことがあった」「掛西のことをよく憶えているね。時間だ、CD鳴らしたら電話機返してきて」「・・・鳴ったから返してくるよ」210131c.jpg
(雲の上まで陽が昇り、水面に映った眩しすぎる太陽。)

風に波立つ沼は暗く、上空は雲一つない快晴

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.30)
(アルツハイマーになった妻)

風に波立つ沼は暗く、上空は雲一つない快晴。対岸の地平線沿いに旋回する成田着便の灯が四機ほど。210130.jpg

日の出とともにセンダンの木の飛来したツグミ数羽、ヒヨドリが食べ残した細い枝先の実を啄む。210130a.jpg

快晴の空を染めて日の出、波立つ沼は暗いブルー。210130b.jpg


『死ぬ人は悲しまない』 (2021.1.30)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「仕事はお休み?」「家にいるよ」「仕事はもうやめたのね」「20年も前に」「それじゃ80?」「82」「私もずっと後をついて来ている」「あんたは80」「坂の上の家辺りの当番のことがうまくいかないと電話があった」「あんたの部屋には電話はないよ」「じゃぁ夢か。夢だね。嫌だよう、早く退職してこれは終わりにしたい」「何を終わりにする?」「もうOBだから電話しないでって言ったら?」「夢なら勝手に見るから止めようがない」「そうか、忙しかったのは空想の中か。夢の中で電話しても実際は誰の所にも掛からないね。夢の中で坂の上の方へ行ってお父さんに会って、お父さんから電話があるから早く帰らなきゃと言った。トンチンカンでおかしいね。あの世へ行く寸前だからかな」「誰だって夢の中ではトンチンカンことばかりだ」「惚けたらもう人間じゃない?」「人間だよ。生きてるから」「夢の話しをするのは笑い話だね」「若い頃、私が夢で見た話をしたら、あんたは夢を見たことがないと言っていた」「そのこと憶えてる」「それなのにこの頃はよく夢を見るね」「トンチンカンなことばかり言う惚けになったらもう死んだっていい」「嫌だよ。死んだら話が出来なくなる」「死んだら宇宙の中で話しをするか、知ってる人の所に飛んでって話しをする。先に死ぬから後から来てねと言ってもおかしくない歳になった。トンチンカンなことを言うのは死にかかっているから。そういう人がいっぱいいる。私なんか存分生きてもういいと言いながらトンチンカンなことを言って生きてる。夢の中で誰かと話したり出歩くのは、実際には出歩けないから。一方の相手が死んだら、悲しむ人はまだ生きている。死ぬ人は悲しまない。それは自分のために自然にそうなって、一人だけで死んで行く。いまは夢を見るが、死んだらずっと眠って夢は見ない」「ずいぶん長い話しで時間になった。CD鳴らして電話機を返してきて」「・・・鳴ったから返してくる」210130c.jpg
(妻の散歩コースだった道を遠回り、前方にまだ残っていたまん丸な月。)

雲から覗いた日の出は遠くの薄雲の向こうに

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.29)
(アルツハイマーになった妻)

足早に遠ざかっていった厚い雲。雲から覗いた日の出は遠くの薄雲の向こうに。210129.jpg

登る程に眩しさを増す太陽。遠くの薄雲、近くの流れる雲を染めて。210129a.jpg

回り道しての帰り道、斜面林の向こうに眩しい太陽。210129b.jpg


『あれ、朝じゃない?』 (2021.1.29)
昨日午後の妻との電話、「もしもし、おはようございます。あれ、朝じゃない?」「どうしたの、もう午後だよ」「眠っていた。まだ眠い」「お昼食べた?」「ざわざわするところで食べた。食べた自覚はない」「Oさんが電話だって起こしてくれたよ」「昨日は大事なことをやった」「何を?」「何だったっけ、何かの競争をやった。あれ、何でいま頃まで寝てた。色んなことを忘れて、今何時かも分からない」「今日午前中は何をした?」「憶えていない。いろんなことを想像していたことは憶えている。昨日は朝からずっと何かを競争してやらされた。訳が分からない。一生懸命やったが何をやったが憶えていない」「昨日午後電話したが、お昼食べて昼寝していて、そんなに忙しそうじゃなかった。グループホーム寿は規則正しい生活だし、一日中競争しているようなことはない。中にいる人も個人差が大きすぎて競争はしないと思うけど」「昔あった色々なこと、もうないのかなぁ。昔から継続してやってきた競争。私は選手になって、昔から神社の参道などで伝統的にやっていたことをやるのにうなされていた」「夢の中でうなされていたのかな」「夢の中のことをああだこうだ言ったってしようがない。私の頭の中で作ったんだろうね」「何かやらなきゃと思っていて、昔見たり聞いたりしたことを思い出したのかな」「私は夢の中で一生懸命やったのにね」「子どもの頃に漢字の書き取りや算数の計算を競争でやった」「やった、やった」「そういうことがごちゃ混ぜになって夢の中で競争したのかもね」「夢で見たことを後で言うのは難しいけど、毎年神社で競争があって、今年は頑張るぞと参加して、一生懸命だった。それが夢だったとは残念だった」「今はコロナで外出禁止だから、神社には行っていない。やっぱり夢だったね」「今はまだベッドにいるけど、昨夜からそんなに長く眠ったのかなぁ」「昼ご飯食べ、部屋に戻ってちょっと眠っただけだよ。時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った。電話機返してくる」210129c.jpg
(昨日までは気が付かなかった梅の花。ふと思い出した去年の今頃、グループホーム寿に入居して間もない妻を連れて散歩したこと。子の神大黒天への道、足を止め背伸びして覗き込んだ塀の向こうの梅の花。)

上空から黒い雲が流れ去り広がり始めた青空

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.28)
(アルツハイマーになった妻)

上空から黒い雲が流れ去り広がり始めた青空。210128.jpg

ヒヨドリが立ち去るのを待って飛んできたツグミ。食べ易い場所は食べ尽くし、だんだん枝先で啄むようになった鳥たち。210128a.jpg

日の出前の空を映して染まる沼、風に向かって助走し飛び立ったコブハクチョウ。210128b.jpg


『何だかわからない』 (2021.1.28)
昨日午後の妻との電話、「今村さん、ご主人から電話ですよ」「・・・」「今村さん、目を覚まして。これ持って」「何だかわからない」「ご主人から電話、もしもしって言って」とOさん。「・・・もしもし」「は~い」「いま震えてる。昼寝していた。熱があるかどうかは分からない。今日は学校がある?」「何で学校?」「何が何だか分からない。寒い、寒い。震えは止まった。お昼は食べた。今何時?」「1時12分」「眠ったんだ。寒くて震えていたが、熱はない」「今日は寒いよ」「あなたはどこにいる?」「家にいる」「家ってどこ?」「高野山」「東京の方?」「我孫子、あんたと40年近く住んだところ」「あ~あ、寒い寒い」「何か着なければ」「寝ているからいい」「それじゃ目が覚めない。起きなきゃ」「風邪を引いた? 熱はない。何で寒い?」「エアコンは?」「動いている」「窓は?」「閉まってる。今日は何曜日?」「水曜日」「じゃぁ学校があるじゃない」「もう学校は関係ないよ」「あれ、お父さん?」「は~い」「寒い、布団から出て寝てたのかな。布団の中で足を動かしている」「何を着ている?」「起きていたときそのまんま」「昼食のあとそのまんま寝たんだね」「熱はない。寒いだけ。何も掛けずに眠っていたの?」「知らないよ、見ていないから」「半分だけ布団を掛けていたのかなぁ。外は陽が当たってる。手賀沼の方には半分雲があって半分晴れている。今は静岡にいるの?」「家、手賀沼の方から坂を登った所」「あなたの家はどこ? 手賀沼を渡った向こう側?」「渡った先は柏、私の家はこちら側。Aさんの家から坂を登った所」「我孫子か、直ぐ近くじゃないの」「寝ていると目が覚めない。起きなきゃ」「ベッドに腰掛けている」「お父さんは自由でいいね、こんなばかっ面と話すのでは申し訳ない」「あのね」「ハイよ」「返事だけは目が覚めてる。CD鳴らして」「ランプが点いてる」「CD押して、三角印を押す」「鳴った。~春を愛する人は・・・~。廊下を歩いて歌ってる。・・・主人です。電話終わりました」210128c.jpg
(上空を流れる雲が輝き、やがて地平線の雲から日の出。)

雲が流れ明るくなってきた空と沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.27)
(アルツハイマーになった妻)

雲が流れ明るくなってきた空と沼、もう邪魔になった傘をベンチに置く。210127.jpg

薄霧に霞み始めたネコの木や対岸のフィッシングセンター。210127a.jpg

センダンの実を啄んでいたのを撮ろうとしたら飛び立って、公園入口の木の枝に止まったツグミ。撮り終えて帰ろうとしたら傘をベンチに置き忘れていたことを思い出す。210127b.jpg



『私の頭の中は自由』 (2021.1.27)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お久しぶり」「昨日は電話した。お茶の話しをした」「私、そんなこと言った?」「さんきゅう会、こもれび、お茶、コーラスなどを話した」「私はやるときは夢中になるが、もうお仕舞いと思ったらぽいと捨てる方だ。いつまでも続いているように見えても、自分の都合のいいように曲げちゃうみたい。自分勝手は治らなかった」「こもれびもしばらく悩んで活動をやめた。後で分かったが、あんたはこっそり物忘れや認知症の本を買って読んでいた」「その後一人になって、私の頭に浮かぶのは家の近くの神社や、子どもを入れた小学校や中学校、曲がると駅、曲がらないで真っ直ぐ行くと景色が消える。色々やったが放り出して辛い気持ちはある。それがどの景色と重なるか分からない」「今、あちこっち出歩くのは空想か夢、あんたのいるグループホーム寿は外出できないから」「グループホーム寿にいるという発想はない。近隣センターこもれびの発想もない。列車から降りる景色はどこだか分からない。バス通りから坂を登ると個々の家が集まった建物がいっぱいある」「片倉台団地だ」「そこは手賀沼の方?」「横浜。隣のMさんは私と同じ会社、奥さんはカナダ留学から戻った人」「仲よしだった」「PTAでYさんと活動した」「その人PTA会長。懐かしいけど昔のこと、どうしているか分からない。お父さんどこにいる?」「あんたと二人で建てた家」「坂を登った所。そこは平で、家の前にバスが来た。いつも幼稚園のバス来た。それとは別のバスに乗った」「デイサービスの送迎バス?」「そう。団地の坂を下るとバス通り、駅に行った」「今度は横浜か」「団地の先の高台に二人の家がある」「二人の家は我孫子」「アハハ、私は頭の中は好きなように動ける。AとLをブランコで遊ばせた。本当のことでも嘘のことでもいい。私の頭の中では自由、勝手にやらせてもらう。アハハ」「時間だ。CD鳴らして」「楽しかった。電話返してくる」と歌いながら部屋を出て行く。210127c.jpg
(食べ物が減ってしまったのか、電線に止まって庭を覗き込むヒヨドリ。わが家のサルスベリの実はうまくないのかまだ残っている。)

地平線の空は赤紫色、風に波立つ沼はブルー

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.26)
(アルツハイマーになった妻)

地平線の空は赤紫色、風に波立つ沼はブルー。210126.jpg

岸辺を地平線の空の色に染めた日の出前、いつものように集まってきたカルガモたち。210126a.jpg

地平線の雲の中から抜け出てきた日の出。210126b.jpg


『私はまだ勤めている』 (2021.1.26)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お昼の後片付けをした。私はぼやっとしてるけど、みんなもぼやっとして、うろうろしている。何か言われるとお辞儀をするが何をするのか分かっていない。お父さん仕事終わった?」「会社は20年前に退職した」「20年も前か。私はまだ勤めている」「どこにも勤めていないよ」「私はここで何をしている?」「そこはグループホーム寿、介護施設」「私が介護してもらってるのなら、なぜ後片付けなどしている?」「出来ることは自分でやる、それはリハビリの一つ」「前には何をしていた?」「我孫子に来てからは勤め仕事はなく、ボランティアと趣味に一生懸命だった」「何をやった?」「さんきゅう会、近隣センターこもれび設立運動では土地探し、施設づくりの調査、出来てからは運営に係わった。趣味では華道、茶道、コーラス、その他いっぱい」「言われれば思い出す」「特に頑張ったのは近隣センターこもれびの活動、お茶とコーラスだった」「さんきゅう会は天王台に事務所を借りた。こもれびは市に建ててもらった。お茶は身につくもの、やっても邪魔にはならないと思った」「詳しくは知らないが、お茶は近所の先生の所に通った。近所のYさんと家元のお茶会に参加したり、神田明神辺りに幹部の先生の指導を受けに通った。その会場が使えなくなり流山の友人の茶室を借りて指導を受けていた」「好きだったから一所懸命だった。私は出歩くのが好きだったし、色んな所に行った記憶がある。父の末の妹で、浜松のおばさんがお茶の先生をしていて、何度かお茶会に行った。それを見て自分もやりたいと思った。だからお茶は頑張った」「コーラスも熱心だったね」「歌は好きだった。中学の時に高天神に登って歌を歌ったのは嬉しかった。写真を見なくても頭の中に残っている」「いっぱい思い出したね。時間になったからCD鳴らして」「今日の話は楽しかった。お父さんと話すと気が休まる。鳴ってるから電話返してくる」と歌いながら歩く足音。210126c.jpg
(ほうれん草畑で何かを啄んでいたヒヨドリ。犬の散歩の人が通りかかれば電線に避難、通り過ぎるのを待つ。)

上空は青空でも地平線の雲が高く暗い沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.25)
(アルツハイマーになった妻)

上空は青空でも地平線の雲が高く暗い沼。210125.jpg

雲の上にやっと出てきた遅い日の出。210125a.jpg

雲から出たら出た途に端眩し過ぎる太陽、斜面林越しでもやっぱり眩しい遅い日の出。210125b.jpg

『歌を聴いていた』 (2021.1.25)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「歌を聴いていた。歌で思い出す人は生きているか死んだか分からない。お父さんは近くにいるから、最近死んだ私の姉妹や周りで戦死した人のことを聞きたい」「戦死した人って、日本が戦争をしたのは75年以上前、あんたの実家でその頃戦死したのは東京外語に行ったおじさんだけ。子どもの頃、同級生や近所に父親を戦争で亡くした子が何人もいた。最近戦死した人はいない」「そういうことが頭に残っていて、いつも引っかかる」「あんたは戦争で捕まえられて収容されていると思ったり、私が捕まると心配している。子ども時代の戦争、私が天安門事件に遭遇したこと、最近のコロナで外出できないことがごちゃ混ぜになっているようだ」「そういうことがまぜこぜになっている」「あんたのお母さんの妹が子どもを連れて満州から逃げ帰ったこと、おじさんがシベリヤに抑留され何年も帰ってこなかったことを何度かあんたから聞いた。それもあんたが戦争で逃げ回る妄想と関係ありそうだね」「お父さん、いいところに気がついてくれた。私の頭を切り換えなきゃ。お父さんはそういう夢を見ないの?」「見るよ。夜中に空襲で防空壕に逃げたこと。昼間牧ノ原の航空隊が爆撃されるのを防空壕の裏山で見ていたら艦載機が飛んできて慌てて隠れたこと。操縦士が見えるくらい近くを飛んだ。東京空襲の帰りにB29が爆弾を棄てて、破片で傷ついた赤ん坊を抱いて医者に向かう母親に、近所の人が頭がないからもう死んでいると言った声を聞いた。それらが混ざり合って、時々逃げ回る夢を見る。目が覚めて夢だったとほっとする」「私は夢を見て目が覚めてもまだ逃げようと布団に潜り込む。夢か本当のことか分からないから怖い。お父さんに言うと現実のことか夢かを言ってくれて気が楽になる。忘れたら何度でも言ってね」「毎日電話するから大丈夫。時間になった、CD鳴らして」「・・・鳴った」「また明日電話する」「嬉しいな。走って電話返してくる」210125c.jpg
(ヒヨドリと入れ替わりに飛んできたツグミ、センダンの実を啄んだら市民農園跡へ下っていった。)

傘を差すか差すまいか迷うほどの小雨

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.24)
(アルツハイマーになった妻)

傘を差すか差すまいか迷うほどの小雨、対岸の灯が目立つ暗い朝。210124.jpg

広場に出れば街灯の下、雨に濡れ艶やかに光って見えたマユミの木。210124a.jpg

明るくなった沼を撮ろうと戻ってきたら、高台の向こうに未だ暗い沼は北風に波立つ。210124b.jpg


『いつか行きたい』 (2021.1.24)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「手紙が来た。暗くて読めない」「電気を点けて」「明るくなった。Aさんから、誕生日おめでとうって書いてある」「大分前のだね」「寒中見舞いがあった」「それは最近のもの」「グループホーム寿に入って一年経ったと書いてある。部屋の外へ出るのはご飯を食べに行くのと呼ばれたときだけ。手紙を見たら鏡台に置いておく。外へ出て右に曲がると道の向こう側に市役所、その先に手賀沼の橋が見える。左に行って坂を登ると二人で建てた家、いつか行きたい。一人で行って道に迷うと困るが、道順はちゃんと言える。頭の中でここから歩いている。ここからは手賀沼が見えて、市役所の先を左に行くと坂を登って家に行ける。自分で地図を書けると思う。お父さんは自分の家に住んでいる?」「そう」「私はここを抜け出すことは出来ない。ここでは身の安全を守ってくれている」「ここから家への道は分かる。坂を登ったら二人で建てた家。その先には下の子を入れた小学校、右に行くと上の子を入れた中学校。もっと行くと駅。自分の頭の中で歩いて行く。お父さんは会いたくないと言った」「そうじゃなく、コロナが流行っていて面会できなくなったと言った」「いつ頃ご破算になる?」「コロナはいつ終わるか分からない」「この部屋は広いし困ることはない。自分の家じゃないのが最高に辛い」「自分の家だと思っていい。食事、掃除、洗濯、入浴、体操など面倒を見てくれるし、お医者さんが訪問診療に来てくれる」「何で?」「私があんたの介護をできなくなって、グループホーム寿に介護を頼んだから」「私は罪を犯して捕まったと思った。何でお父さんは捕まらずに家にいるのかと思った。訳が分からない」「悪いことはしてないし捕まったんじゃない。お願いし介護してもらっている。コロナが収まったら家を見に来ることも出来る。時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴ったから電話返してくる。私はすっかりバカになった」と泣きながら歩く足音。210124c.jpg
(目が光りもう目覚めたように見えたネコの木。ぼんやりと小雨に煙る曙調整水門の灯り。)

まだ窓の明かりが少ない手賀の杜住宅地

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.23)
(アルツハイマーになった妻)

曇天の下の暗い沼、まだ窓の明かりが少ない手賀の杜住宅地。210123.jpg

のっぺりと沼に覆い被さる雲、地上の灯に染まって黄色い対岸の空。210123a.jpg

4羽揃ったら移動始めたコブハクチョウ兄弟、目指すは岡発戸新田の釣堀前辺り。210123b.jpg


『頭の中がばらばら』 (2021.1.23)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「こんにちは。今眠っていた。頭の中がばらばら。私は昨夜当番だった。昨日は私の所の、・・・眠っちゃったから分からない。忘れた。あぁあ、眠ったから何もまとまりがない。お父さんどこにいる?」「家にいる」「幸せだね。私の家はない」「あるよ、今私の住んでる家。二人で建てた家じゃないの」「名義はお父さんでしょ」「家はあんたと私の二人の名義だよ」「何で?」「建てたとき二人の名義にしたいってあんたが言ったから」「どうでもいいことをバカな私ね。私が先に死んだら家はどうなるの?」「あんたの持ち分の半分は私、残りを子ども二人で相続する」「公平に分けるのはいいことだね。何でもめる人がいるの?」「片親が住んでいる家なのに、早くお金を欲しいから売って相続分のお金をくれって子どもが言ったとき親は住む家が無くなっちゃう」「じゃあ、私が先に死んだら家を売ってお父さんはどこに住むの?」「AもLも、二人ともそんなことは言わないから大丈夫。私だっていずれ何処かの施設に入ることになるよね。あんたが今心配しなくても大丈夫。この話はもうやめよう」「そうね。いい天気、午前中は忙しく走り回った」「どこを?」「私の頭の中。アハハ。目が覚めてびっくりだ」「昨夜当番で忙しかったのも頭の中?」「それでいいじゃん。夜が明けて朝になったら色んなことを忘れちゃう。夢は人様々、夢の中にお父さんがいないからお父さんにも分からない。私はいつもお父さんと一緒に暮らすのと、別々に暮らすことのいいこと悪いことを考えている」「私たちの場合、私はあんたの介護ができなくなって、あんたはグループホーム寿に入って介護してもらっている。一緒にいても私にはあんたの介護を出来ないから、別々を選んだ」「そうか、そこを直ぐ忘れちゃう。私が死んだら二人の家はどうするの?」「その話はやめたじゃないの」「だけどまだ頭の中でぐるぐるしている」「時間だ。CD鳴らして」「・・・鳴った。電話機返してくる」210123c.jpg
(ケヤキの下を歩いてきた散歩の人。暗い曇天、後にも先にもただ一人だけ。)

暗いオレンジ色に染まった地平線沿いの雲間

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.22)
(アルツハイマーになった妻)

暗いオレンジ色に染まった地平線沿いの雲間。210122.jpg

明るくなり始めた沼、霧が出て浮き上がって見えるネコの木。210122a.jpg

空と沼を赤く染め、対岸の雲から登る日の出。210122b.jpg


『私はどこにいるの?』 (2021.1.22)
昨日午後の妻との電話、泣き声で「もしもし」「は~い」「今どこにいる?」「家、直ぐ近く」「直ぐ近くって私はどこにいるの?」「グループホーム寿」「分からない」「介護施設にいる。一昨年病気がちになって、私があんたの介護を出来なくなった。あんたはグループホーム寿に入って食事、洗濯、掃除、入浴、体操などの生活の面倒を見てもらい、訪問診療の先生が来て診察してくれている」「今私が住んでいるのは手賀沼の近く、・・・分からない」「昼寝してた?」「寝ていた」「まだ目が覚めていないね」「窓の外に駐車場が見える」「駐車場の右の道を真っ直ぐ行って、広い道に出たら右に行くと市役所入り口、その先の信号を左に行って、Aさんの家の前から坂を登る」「登ったら私たちの家がある。はっきり場所と道路の位置関係が分かって泣けてきた。窓の外には駐車場、真っ直ぐ行くと広い道、手賀沼の北側の道を東に行くと神社がある。神社の手前の坂を登ると私たちの家。早く治って外を歩きたい」「目が覚めてきたね」「駐車場の横を通って歩いことがある。私はいつ外へ出られるの?」「今はコロナが流行っていて出られない」「ああそうだ、ラジオが言っていた。お父さんが迎えに来て家に帰れないの?」「そこにいて、コロナが収まったら日中に外出して家に戻り、夕方にグループホーム寿に戻ることは出来るようになる」「ずっとはダメ?」「ずっと家に帰るとあんたの介護を私がやらなくてはならない。それが出来なくなったからあんたはグループホーム寿に入った」「お父さんも歳だから無理だね」「あんたはそこに入ってから、目眩、吐き気、頭がガンガンの苦しみが治って、膵炎も再発していない。そこで生活の面倒は見てくれるからずっといていい」「私だって治りたい。頭の中で色んなことが繋がらない。いつの日か繋がると嬉しい」「毎日電話する」「お父さんの声を聞いて、話しからお父さんだと想像出来る話になると嬉しい」「時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った。電話機返してくる」210122c.jpg
(仄暗い斜面林の中、センダンの実を啄むツグミ。)

オレンジ色に染まった地平線の雲の隙間

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.21)
(アルツハイマーになった妻)

オレンジ色に染まった地平線の雲の隙間。210121.jpg

日の出前の地平線の色を映しオレンジ色の入り江、風が吹き込んで広がる上空の色。210121a.jpg

空と沼をオレンジに染め地平線の雲から日の出。210121b.jpg


『私は70と幾つ?』 (2021.1.21)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お昼休み中。お昼食べた?」「いま食べ終わった」「遅いね」「JAとりで総合医療センターに行ってきた」「どこが悪い?」「一昨年、胃の入り口にポリープが見つかって経過観察中。半年に一回の検査を4月に予約してきた」「いいことだね。検査することで自分でも気をつける。念には念を入れるのね」「今日の調子はどう?」「昼寝した。惚けだけで他に悪いことはない。自覚しようがないよ」「お昼は何を食べた?」「何だったかな、部屋で一人で食べた」「いつもみんなと一緒でしょう」「知らない。私はのんきだから、食べた後で、私食べましたか、まだお腹がすいていますと言ったりして、アハハ。こうして話しをするのは楽しいね。天気がよくていい気分。お父さん、この頃のご機嫌はどう、今度家に帰るのはいつ?」「ずっと家にいるよ」「もう会社の仕事はやめた?」「20年前にやめた」「20年前と言ったら、今は80?」「82だ」「私は70と幾つ?」「少し前に80になった」「同じ歳?」「私は82、あんたは80。歳の話しなんかするから眠くなった」「お父さんと話すと歳のことくらいしかないね。あはは。いつ帰るの?」「誰が?」「お父さんが家に」「仕事をやめてからずっと家にいる」「私も一緒にいた?」「一昨年までずっと一緒。病気がちになって、あんたを病院に連れて行くことが多くなって、去年からグループホーム寿に入って今は元気」「私は病気だったんだ。病気になったことなど忘れていた。自分では病気をしたつもりはないが、私の口がうるさいのは慎まないと罰が当たるな。今どこに住んでいる? 坂の上?」「そう」「私は今どこにいる?」「グループホーム寿」「あっ、そうだ。ここにいるね」「ここで食事、洗濯、掃除、入浴、体操など面倒見てもらってる。訪問診療の先生も来てくれる」「それなのに図々しことを言って恥ずかしい。家から近くでよかった」「時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った。バンザイ。・・・夫との電話終わりました」210121c.jpg
(前方の住宅の屋根に動いた黒っぽい鳥、近寄って見上げて撮ればイソヒヨドリ。)

地平線の空の色を映しオレンジ色に染まった沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.20)
(アルツハイマーになった妻)

地平線の空の色を映しオレンジ色に染まった沼。210120.jpg

オレンジ色の沼を風が渡れば、風の通り道は波立ち上空の色を映してブルーに染まる。210120a.jpg

ブルーとオレンジに染まった沼に射し込む朝日、地平線から出れば眩しい日の出。210120b.jpg


『今は何も出来ない』 (2021.1.20)
昨日午後の妻との電話、トイレで泣いているから時間が掛かると言われ15分後に電話。「もしもし」「は~い」「どこにいるの、自分の家?」「そう」「羨ましい。私も行きたい。何もかもやり方が分からなくなった。自信のあったことが出来なくなって、自信がなくなって泣いていた。何をやるのか、何をどうするか、何をやらなくてはならないか言えないから泣けてきた。どこが分からないかと言われても分からない。自分自身を何処か隅の方に追いやっている感じがする。分からないことを認めるのは辛いこと。自分は出来ると大いばりな態度でいたのに、今は何も出来ない」「悩んだって出来ないことは出来ない。分からないことを悲しんだって分かるわけじゃない」「分からないことをそのままで置きたくない」「それは若いときのこと。若いとき2mの溝を難なく跳び越えていた。その内1mの溝を怖々跳び越えるようになり、やがて50㎝の溝の前で立ち止まっている自分に気付いて驚く。そんなものだ。年のせいだ」「分からないことが一度に増えた」「だんだん増えたが気がつかなかっただけ。悩まなくてもいい。ああ、出来なくなったかと思うだけでいい」「そういうことと思うが、自分じゃそんなはずがないと思う。誰にも負けないつもりで生きてきたのに出来なくなったと認めるのは辛い。自分を突き詰めて考えたら泣くことで自分の姿を現実に合わせているのかもしれない。私みたいに追い詰められるのは人生ではいいことかもしれない。これから先を生きて行くには自分が人より出来ると思っていたことを反省しなくては。大いばりでいた性格がぺしゃんこになった」「何で出来なくなるかいくら考えても答えは出ない。歳を取っただけだ。これも出来なくなったか、あははでいい」「分かった。ありがとう。お父さんが横で話をしてくれると楽になる」「毎日電話する」「毎日笑顔で電話できるようにしたい」「時間だ。CD鳴らして」「・・・鳴ったから電話返してくる・・・電話終わりました」210120c.jpg
(無心に何かを啄んでいたスズメ、うっかり驚かせてしまい食べるのをやめた2羽。)

斜面林の葉が落ちて透けて見える沼の夜明け

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.19)
(アルツハイマーになった妻)

斜面林の葉が落ちて透けて見える沼の夜明け。210119.jpg

明るい地平線、波立って 青く暗い沼。少し明るくなってやっと撮れた今朝の沼。210119a.jpg

地平線の雲から出れば眩しすぎる日の出。210119b.jpg


『至れり尽くせりだね』 (2021.1.19)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「どこにいる?」「Aさんの家から坂を登った所」「二人で建てた家?」「そう」「会社に勤めていた頃も同じ家?」「そう」「みんなが住む大きい家?」「それは横浜の片倉台団地だよ。我孫子に転勤して家を建てた」「坂の上の高台?」「そう」「一人でいるの?」「一人でいる」「一人だと自由だし楽しい?」「あんたがいないから楽しくない」「私も一緒に住んで、私が食事や洗濯もやりたいが私はもう80くらい。私のいる建物は何?」「グループホーム寿、介護施設」「私だけでなく、あなたも一緒に住んだら?」「私には入居資格がない」「だったら毎日遊びに来ればいい」「最初の頃は毎日面会に行ったが、コロナが流行って面会が禁止された」「じゃあ私が家に戻ればいい」「そこにいれば管理された食事が出るし、洗濯、掃除、入浴、体操、検温などの健康管理をしてくれ、毎月訪問診療のお医者さんが来て診察してくれる」「至れり尽くせりだね」「あなたは一人で食事を作るの、かわいそう。私が造ってやりたい」「あんたは食事の用意が嫌になって、昼食は私が担当した。その内、朝起きられなくて朝食も私が用意した。病気がちになってから全部私がやった。だんだんに増えたので慣れた」「私が病気だから?」「目眩、吐き気、頭がガンガンして辛かった」「原因は?」「アルツハイマーの薬を背中に貼っいて、体質が変わり副作用が出たのかも。それに膵炎で二度入院した」「治った?」「グループホーム寿に入って訪問診療の先生に診てもらい、目眩、吐き気、頭がガンガンは治って、この一年膵炎も起きていない。元気になった」「そういう経験をしたから、ここにいて別々に住むようになったのはよかった」「コロナが収まったらたまに家に来て、子どもたちも呼んで昼間を過ごすことも出来る」「夜は具合が悪くなると困るからここに戻る。嬉しいな、そうできると」「時間だ、CD鳴らして」「お父さん頑張ってね、私は楽しく生きられる。・・・鳴ったから電話返してくる」210119c.jpg
(風が強いからメガネをガードメガネに替えて出掛けた撮影。風景を撮るならファインダーの視度調整で見えるが、鳥が鳴いても裸眼の視力0.15では見付けられない。諦めて自宅近くまで帰れば目の前を横切ったハクセキレイ。近づいて来て撮らせてくれてまた飛び去った)