地平線をオレンジ色に染めた快晴の夜明け

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.31)
(アルツハイマーになった妻)

地平線をオレンジ色に染めた快晴の夜明け。210131.jpg

風の通り道は波立って、上空の青空を映しブルーの模様。210131a.jpg

空と沼を黄金色に染め雲から出れば眩しい日の出。210131b.jpg


『思い出の場所はどこ?』 (2021.1.31)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「今どこにいる? こっちから左に曲がって坂を登った所だね。行きたいなぁ。涙が出ちゃう。私の思い出の場所はそんない多くは残っていない」「思い出の場所はどこ?」「やっぱりそこが一番。間もなく人生が終わりになるけど、どうなるか分からない内に終わるのかなぁ。一人でいるから寂しい、死んだ方がいいと思うくらいだ。思い出そうとすると、出てきた景色は実家のお墓にお父さんと行ったこと。次は、電車に乗って我孫子に行ったこと。最後のお別れの時は家の前に行って、みんなで並んで写真を撮る。そこを北に真っ直ぐ行くとバス通りがある。その辺の思い出が一番多く残っている」「最後のお別れでなくても、コロナが収まれば二人で建てた家に行ける。外出届を出し、私が迎えに行って家に来る。子どもたちも呼んで、話をしたり食事をして、夕方にはそれぞれの所に帰る。そういう会をやろう」「早くやってと言ってもコロナがあるとダメね。家なら歩いて行ける。私はお別れする覚悟が出来たよ。病院に入ると自由がきかないからからなぁ。新横浜から団地に行く景色が出てきて、東のお観音様へ行く」「団地は横浜の片倉台団地、観音堂は岩滑だよ」「私は直ぐにスッと行けるから、アハハ。部屋にある鏡台は岩滑の母がくれた。鏡台は私のいのち、毎朝鏡の前でおはようって言ってる。母は師範学校を出て島田の奧の方で先生をやった。父は小学校の校長だった。父の姉妹も私の姉三人とも女学校に行き、娘は女学校に行かせることしか考えていなかった。私が掛西高に行きたいと言ったら父は反対、母が賛成した。最後に父は四女だから好きにしろと許してくれた。私から後の妹たちは女子高でなく共学の掛西高に行くようになった。入学してから先生に、共学でも女子が少なすぎる。もっと増やしてと言ったことがあった」「掛西のことをよく憶えているね。時間だ、CD鳴らしたら電話機返してきて」「・・・鳴ったから返してくるよ」210131c.jpg
(雲の上まで陽が昇り、水面に映った眩しすぎる太陽。)

風に波立つ沼は暗く、上空は雲一つない快晴

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.30)
(アルツハイマーになった妻)

風に波立つ沼は暗く、上空は雲一つない快晴。対岸の地平線沿いに旋回する成田着便の灯が四機ほど。210130.jpg

日の出とともにセンダンの木の飛来したツグミ数羽、ヒヨドリが食べ残した細い枝先の実を啄む。210130a.jpg

快晴の空を染めて日の出、波立つ沼は暗いブルー。210130b.jpg


『死ぬ人は悲しまない』 (2021.1.30)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「仕事はお休み?」「家にいるよ」「仕事はもうやめたのね」「20年も前に」「それじゃ80?」「82」「私もずっと後をついて来ている」「あんたは80」「坂の上の家辺りの当番のことがうまくいかないと電話があった」「あんたの部屋には電話はないよ」「じゃぁ夢か。夢だね。嫌だよう、早く退職してこれは終わりにしたい」「何を終わりにする?」「もうOBだから電話しないでって言ったら?」「夢なら勝手に見るから止めようがない」「そうか、忙しかったのは空想の中か。夢の中で電話しても実際は誰の所にも掛からないね。夢の中で坂の上の方へ行ってお父さんに会って、お父さんから電話があるから早く帰らなきゃと言った。トンチンカンでおかしいね。あの世へ行く寸前だからかな」「誰だって夢の中ではトンチンカンことばかりだ」「惚けたらもう人間じゃない?」「人間だよ。生きてるから」「夢の話しをするのは笑い話だね」「若い頃、私が夢で見た話をしたら、あんたは夢を見たことがないと言っていた」「そのこと憶えてる」「それなのにこの頃はよく夢を見るね」「トンチンカンなことばかり言う惚けになったらもう死んだっていい」「嫌だよ。死んだら話が出来なくなる」「死んだら宇宙の中で話しをするか、知ってる人の所に飛んでって話しをする。先に死ぬから後から来てねと言ってもおかしくない歳になった。トンチンカンなことを言うのは死にかかっているから。そういう人がいっぱいいる。私なんか存分生きてもういいと言いながらトンチンカンなことを言って生きてる。夢の中で誰かと話したり出歩くのは、実際には出歩けないから。一方の相手が死んだら、悲しむ人はまだ生きている。死ぬ人は悲しまない。それは自分のために自然にそうなって、一人だけで死んで行く。いまは夢を見るが、死んだらずっと眠って夢は見ない」「ずいぶん長い話しで時間になった。CD鳴らして電話機を返してきて」「・・・鳴ったから返してくる」210130c.jpg
(妻の散歩コースだった道を遠回り、前方にまだ残っていたまん丸な月。)

雲から覗いた日の出は遠くの薄雲の向こうに

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.29)
(アルツハイマーになった妻)

足早に遠ざかっていった厚い雲。雲から覗いた日の出は遠くの薄雲の向こうに。210129.jpg

登る程に眩しさを増す太陽。遠くの薄雲、近くの流れる雲を染めて。210129a.jpg

回り道しての帰り道、斜面林の向こうに眩しい太陽。210129b.jpg


『あれ、朝じゃない?』 (2021.1.29)
昨日午後の妻との電話、「もしもし、おはようございます。あれ、朝じゃない?」「どうしたの、もう午後だよ」「眠っていた。まだ眠い」「お昼食べた?」「ざわざわするところで食べた。食べた自覚はない」「Oさんが電話だって起こしてくれたよ」「昨日は大事なことをやった」「何を?」「何だったっけ、何かの競争をやった。あれ、何でいま頃まで寝てた。色んなことを忘れて、今何時かも分からない」「今日午前中は何をした?」「憶えていない。いろんなことを想像していたことは憶えている。昨日は朝からずっと何かを競争してやらされた。訳が分からない。一生懸命やったが何をやったが憶えていない」「昨日午後電話したが、お昼食べて昼寝していて、そんなに忙しそうじゃなかった。グループホーム寿は規則正しい生活だし、一日中競争しているようなことはない。中にいる人も個人差が大きすぎて競争はしないと思うけど」「昔あった色々なこと、もうないのかなぁ。昔から継続してやってきた競争。私は選手になって、昔から神社の参道などで伝統的にやっていたことをやるのにうなされていた」「夢の中でうなされていたのかな」「夢の中のことをああだこうだ言ったってしようがない。私の頭の中で作ったんだろうね」「何かやらなきゃと思っていて、昔見たり聞いたりしたことを思い出したのかな」「私は夢の中で一生懸命やったのにね」「子どもの頃に漢字の書き取りや算数の計算を競争でやった」「やった、やった」「そういうことがごちゃ混ぜになって夢の中で競争したのかもね」「夢で見たことを後で言うのは難しいけど、毎年神社で競争があって、今年は頑張るぞと参加して、一生懸命だった。それが夢だったとは残念だった」「今はコロナで外出禁止だから、神社には行っていない。やっぱり夢だったね」「今はまだベッドにいるけど、昨夜からそんなに長く眠ったのかなぁ」「昼ご飯食べ、部屋に戻ってちょっと眠っただけだよ。時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った。電話機返してくる」210129c.jpg
(昨日までは気が付かなかった梅の花。ふと思い出した去年の今頃、グループホーム寿に入居して間もない妻を連れて散歩したこと。子の神大黒天への道、足を止め背伸びして覗き込んだ塀の向こうの梅の花。)

上空から黒い雲が流れ去り広がり始めた青空

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.28)
(アルツハイマーになった妻)

上空から黒い雲が流れ去り広がり始めた青空。210128.jpg

ヒヨドリが立ち去るのを待って飛んできたツグミ。食べ易い場所は食べ尽くし、だんだん枝先で啄むようになった鳥たち。210128a.jpg

日の出前の空を映して染まる沼、風に向かって助走し飛び立ったコブハクチョウ。210128b.jpg


『何だかわからない』 (2021.1.28)
昨日午後の妻との電話、「今村さん、ご主人から電話ですよ」「・・・」「今村さん、目を覚まして。これ持って」「何だかわからない」「ご主人から電話、もしもしって言って」とOさん。「・・・もしもし」「は~い」「いま震えてる。昼寝していた。熱があるかどうかは分からない。今日は学校がある?」「何で学校?」「何が何だか分からない。寒い、寒い。震えは止まった。お昼は食べた。今何時?」「1時12分」「眠ったんだ。寒くて震えていたが、熱はない」「今日は寒いよ」「あなたはどこにいる?」「家にいる」「家ってどこ?」「高野山」「東京の方?」「我孫子、あんたと40年近く住んだところ」「あ~あ、寒い寒い」「何か着なければ」「寝ているからいい」「それじゃ目が覚めない。起きなきゃ」「風邪を引いた? 熱はない。何で寒い?」「エアコンは?」「動いている」「窓は?」「閉まってる。今日は何曜日?」「水曜日」「じゃぁ学校があるじゃない」「もう学校は関係ないよ」「あれ、お父さん?」「は~い」「寒い、布団から出て寝てたのかな。布団の中で足を動かしている」「何を着ている?」「起きていたときそのまんま」「昼食のあとそのまんま寝たんだね」「熱はない。寒いだけ。何も掛けずに眠っていたの?」「知らないよ、見ていないから」「半分だけ布団を掛けていたのかなぁ。外は陽が当たってる。手賀沼の方には半分雲があって半分晴れている。今は静岡にいるの?」「家、手賀沼の方から坂を登った所」「あなたの家はどこ? 手賀沼を渡った向こう側?」「渡った先は柏、私の家はこちら側。Aさんの家から坂を登った所」「我孫子か、直ぐ近くじゃないの」「寝ていると目が覚めない。起きなきゃ」「ベッドに腰掛けている」「お父さんは自由でいいね、こんなばかっ面と話すのでは申し訳ない」「あのね」「ハイよ」「返事だけは目が覚めてる。CD鳴らして」「ランプが点いてる」「CD押して、三角印を押す」「鳴った。~春を愛する人は・・・~。廊下を歩いて歌ってる。・・・主人です。電話終わりました」210128c.jpg
(上空を流れる雲が輝き、やがて地平線の雲から日の出。)

雲が流れ明るくなってきた空と沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.27)
(アルツハイマーになった妻)

雲が流れ明るくなってきた空と沼、もう邪魔になった傘をベンチに置く。210127.jpg

薄霧に霞み始めたネコの木や対岸のフィッシングセンター。210127a.jpg

センダンの実を啄んでいたのを撮ろうとしたら飛び立って、公園入口の木の枝に止まったツグミ。撮り終えて帰ろうとしたら傘をベンチに置き忘れていたことを思い出す。210127b.jpg



『私の頭の中は自由』 (2021.1.27)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お久しぶり」「昨日は電話した。お茶の話しをした」「私、そんなこと言った?」「さんきゅう会、こもれび、お茶、コーラスなどを話した」「私はやるときは夢中になるが、もうお仕舞いと思ったらぽいと捨てる方だ。いつまでも続いているように見えても、自分の都合のいいように曲げちゃうみたい。自分勝手は治らなかった」「こもれびもしばらく悩んで活動をやめた。後で分かったが、あんたはこっそり物忘れや認知症の本を買って読んでいた」「その後一人になって、私の頭に浮かぶのは家の近くの神社や、子どもを入れた小学校や中学校、曲がると駅、曲がらないで真っ直ぐ行くと景色が消える。色々やったが放り出して辛い気持ちはある。それがどの景色と重なるか分からない」「今、あちこっち出歩くのは空想か夢、あんたのいるグループホーム寿は外出できないから」「グループホーム寿にいるという発想はない。近隣センターこもれびの発想もない。列車から降りる景色はどこだか分からない。バス通りから坂を登ると個々の家が集まった建物がいっぱいある」「片倉台団地だ」「そこは手賀沼の方?」「横浜。隣のMさんは私と同じ会社、奥さんはカナダ留学から戻った人」「仲よしだった」「PTAでYさんと活動した」「その人PTA会長。懐かしいけど昔のこと、どうしているか分からない。お父さんどこにいる?」「あんたと二人で建てた家」「坂を登った所。そこは平で、家の前にバスが来た。いつも幼稚園のバス来た。それとは別のバスに乗った」「デイサービスの送迎バス?」「そう。団地の坂を下るとバス通り、駅に行った」「今度は横浜か」「団地の先の高台に二人の家がある」「二人の家は我孫子」「アハハ、私は頭の中は好きなように動ける。AとLをブランコで遊ばせた。本当のことでも嘘のことでもいい。私の頭の中では自由、勝手にやらせてもらう。アハハ」「時間だ。CD鳴らして」「楽しかった。電話返してくる」と歌いながら部屋を出て行く。210127c.jpg
(食べ物が減ってしまったのか、電線に止まって庭を覗き込むヒヨドリ。わが家のサルスベリの実はうまくないのかまだ残っている。)

地平線の空は赤紫色、風に波立つ沼はブルー

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.26)
(アルツハイマーになった妻)

地平線の空は赤紫色、風に波立つ沼はブルー。210126.jpg

岸辺を地平線の空の色に染めた日の出前、いつものように集まってきたカルガモたち。210126a.jpg

地平線の雲の中から抜け出てきた日の出。210126b.jpg


『私はまだ勤めている』 (2021.1.26)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お昼の後片付けをした。私はぼやっとしてるけど、みんなもぼやっとして、うろうろしている。何か言われるとお辞儀をするが何をするのか分かっていない。お父さん仕事終わった?」「会社は20年前に退職した」「20年も前か。私はまだ勤めている」「どこにも勤めていないよ」「私はここで何をしている?」「そこはグループホーム寿、介護施設」「私が介護してもらってるのなら、なぜ後片付けなどしている?」「出来ることは自分でやる、それはリハビリの一つ」「前には何をしていた?」「我孫子に来てからは勤め仕事はなく、ボランティアと趣味に一生懸命だった」「何をやった?」「さんきゅう会、近隣センターこもれび設立運動では土地探し、施設づくりの調査、出来てからは運営に係わった。趣味では華道、茶道、コーラス、その他いっぱい」「言われれば思い出す」「特に頑張ったのは近隣センターこもれびの活動、お茶とコーラスだった」「さんきゅう会は天王台に事務所を借りた。こもれびは市に建ててもらった。お茶は身につくもの、やっても邪魔にはならないと思った」「詳しくは知らないが、お茶は近所の先生の所に通った。近所のYさんと家元のお茶会に参加したり、神田明神辺りに幹部の先生の指導を受けに通った。その会場が使えなくなり流山の友人の茶室を借りて指導を受けていた」「好きだったから一所懸命だった。私は出歩くのが好きだったし、色んな所に行った記憶がある。父の末の妹で、浜松のおばさんがお茶の先生をしていて、何度かお茶会に行った。それを見て自分もやりたいと思った。だからお茶は頑張った」「コーラスも熱心だったね」「歌は好きだった。中学の時に高天神に登って歌を歌ったのは嬉しかった。写真を見なくても頭の中に残っている」「いっぱい思い出したね。時間になったからCD鳴らして」「今日の話は楽しかった。お父さんと話すと気が休まる。鳴ってるから電話返してくる」と歌いながら歩く足音。210126c.jpg
(ほうれん草畑で何かを啄んでいたヒヨドリ。犬の散歩の人が通りかかれば電線に避難、通り過ぎるのを待つ。)

上空は青空でも地平線の雲が高く暗い沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.25)
(アルツハイマーになった妻)

上空は青空でも地平線の雲が高く暗い沼。210125.jpg

雲の上にやっと出てきた遅い日の出。210125a.jpg

雲から出たら出た途に端眩し過ぎる太陽、斜面林越しでもやっぱり眩しい遅い日の出。210125b.jpg

『歌を聴いていた』 (2021.1.25)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「歌を聴いていた。歌で思い出す人は生きているか死んだか分からない。お父さんは近くにいるから、最近死んだ私の姉妹や周りで戦死した人のことを聞きたい」「戦死した人って、日本が戦争をしたのは75年以上前、あんたの実家でその頃戦死したのは東京外語に行ったおじさんだけ。子どもの頃、同級生や近所に父親を戦争で亡くした子が何人もいた。最近戦死した人はいない」「そういうことが頭に残っていて、いつも引っかかる」「あんたは戦争で捕まえられて収容されていると思ったり、私が捕まると心配している。子ども時代の戦争、私が天安門事件に遭遇したこと、最近のコロナで外出できないことがごちゃ混ぜになっているようだ」「そういうことがまぜこぜになっている」「あんたのお母さんの妹が子どもを連れて満州から逃げ帰ったこと、おじさんがシベリヤに抑留され何年も帰ってこなかったことを何度かあんたから聞いた。それもあんたが戦争で逃げ回る妄想と関係ありそうだね」「お父さん、いいところに気がついてくれた。私の頭を切り換えなきゃ。お父さんはそういう夢を見ないの?」「見るよ。夜中に空襲で防空壕に逃げたこと。昼間牧ノ原の航空隊が爆撃されるのを防空壕の裏山で見ていたら艦載機が飛んできて慌てて隠れたこと。操縦士が見えるくらい近くを飛んだ。東京空襲の帰りにB29が爆弾を棄てて、破片で傷ついた赤ん坊を抱いて医者に向かう母親に、近所の人が頭がないからもう死んでいると言った声を聞いた。それらが混ざり合って、時々逃げ回る夢を見る。目が覚めて夢だったとほっとする」「私は夢を見て目が覚めてもまだ逃げようと布団に潜り込む。夢か本当のことか分からないから怖い。お父さんに言うと現実のことか夢かを言ってくれて気が楽になる。忘れたら何度でも言ってね」「毎日電話するから大丈夫。時間になった、CD鳴らして」「・・・鳴った」「また明日電話する」「嬉しいな。走って電話返してくる」210125c.jpg
(ヒヨドリと入れ替わりに飛んできたツグミ、センダンの実を啄んだら市民農園跡へ下っていった。)

傘を差すか差すまいか迷うほどの小雨

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.24)
(アルツハイマーになった妻)

傘を差すか差すまいか迷うほどの小雨、対岸の灯が目立つ暗い朝。210124.jpg

広場に出れば街灯の下、雨に濡れ艶やかに光って見えたマユミの木。210124a.jpg

明るくなった沼を撮ろうと戻ってきたら、高台の向こうに未だ暗い沼は北風に波立つ。210124b.jpg


『いつか行きたい』 (2021.1.24)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「手紙が来た。暗くて読めない」「電気を点けて」「明るくなった。Aさんから、誕生日おめでとうって書いてある」「大分前のだね」「寒中見舞いがあった」「それは最近のもの」「グループホーム寿に入って一年経ったと書いてある。部屋の外へ出るのはご飯を食べに行くのと呼ばれたときだけ。手紙を見たら鏡台に置いておく。外へ出て右に曲がると道の向こう側に市役所、その先に手賀沼の橋が見える。左に行って坂を登ると二人で建てた家、いつか行きたい。一人で行って道に迷うと困るが、道順はちゃんと言える。頭の中でここから歩いている。ここからは手賀沼が見えて、市役所の先を左に行くと坂を登って家に行ける。自分で地図を書けると思う。お父さんは自分の家に住んでいる?」「そう」「私はここを抜け出すことは出来ない。ここでは身の安全を守ってくれている」「ここから家への道は分かる。坂を登ったら二人で建てた家。その先には下の子を入れた小学校、右に行くと上の子を入れた中学校。もっと行くと駅。自分の頭の中で歩いて行く。お父さんは会いたくないと言った」「そうじゃなく、コロナが流行っていて面会できなくなったと言った」「いつ頃ご破算になる?」「コロナはいつ終わるか分からない」「この部屋は広いし困ることはない。自分の家じゃないのが最高に辛い」「自分の家だと思っていい。食事、掃除、洗濯、入浴、体操など面倒を見てくれるし、お医者さんが訪問診療に来てくれる」「何で?」「私があんたの介護をできなくなって、グループホーム寿に介護を頼んだから」「私は罪を犯して捕まったと思った。何でお父さんは捕まらずに家にいるのかと思った。訳が分からない」「悪いことはしてないし捕まったんじゃない。お願いし介護してもらっている。コロナが収まったら家を見に来ることも出来る。時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴ったから電話返してくる。私はすっかりバカになった」と泣きながら歩く足音。210124c.jpg
(目が光りもう目覚めたように見えたネコの木。ぼんやりと小雨に煙る曙調整水門の灯り。)

まだ窓の明かりが少ない手賀の杜住宅地

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.23)
(アルツハイマーになった妻)

曇天の下の暗い沼、まだ窓の明かりが少ない手賀の杜住宅地。210123.jpg

のっぺりと沼に覆い被さる雲、地上の灯に染まって黄色い対岸の空。210123a.jpg

4羽揃ったら移動始めたコブハクチョウ兄弟、目指すは岡発戸新田の釣堀前辺り。210123b.jpg


『頭の中がばらばら』 (2021.1.23)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「こんにちは。今眠っていた。頭の中がばらばら。私は昨夜当番だった。昨日は私の所の、・・・眠っちゃったから分からない。忘れた。あぁあ、眠ったから何もまとまりがない。お父さんどこにいる?」「家にいる」「幸せだね。私の家はない」「あるよ、今私の住んでる家。二人で建てた家じゃないの」「名義はお父さんでしょ」「家はあんたと私の二人の名義だよ」「何で?」「建てたとき二人の名義にしたいってあんたが言ったから」「どうでもいいことをバカな私ね。私が先に死んだら家はどうなるの?」「あんたの持ち分の半分は私、残りを子ども二人で相続する」「公平に分けるのはいいことだね。何でもめる人がいるの?」「片親が住んでいる家なのに、早くお金を欲しいから売って相続分のお金をくれって子どもが言ったとき親は住む家が無くなっちゃう」「じゃあ、私が先に死んだら家を売ってお父さんはどこに住むの?」「AもLも、二人ともそんなことは言わないから大丈夫。私だっていずれ何処かの施設に入ることになるよね。あんたが今心配しなくても大丈夫。この話はもうやめよう」「そうね。いい天気、午前中は忙しく走り回った」「どこを?」「私の頭の中。アハハ。目が覚めてびっくりだ」「昨夜当番で忙しかったのも頭の中?」「それでいいじゃん。夜が明けて朝になったら色んなことを忘れちゃう。夢は人様々、夢の中にお父さんがいないからお父さんにも分からない。私はいつもお父さんと一緒に暮らすのと、別々に暮らすことのいいこと悪いことを考えている」「私たちの場合、私はあんたの介護ができなくなって、あんたはグループホーム寿に入って介護してもらっている。一緒にいても私にはあんたの介護を出来ないから、別々を選んだ」「そうか、そこを直ぐ忘れちゃう。私が死んだら二人の家はどうするの?」「その話はやめたじゃないの」「だけどまだ頭の中でぐるぐるしている」「時間だ。CD鳴らして」「・・・鳴った。電話機返してくる」210123c.jpg
(ケヤキの下を歩いてきた散歩の人。暗い曇天、後にも先にもただ一人だけ。)

暗いオレンジ色に染まった地平線沿いの雲間

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.22)
(アルツハイマーになった妻)

暗いオレンジ色に染まった地平線沿いの雲間。210122.jpg

明るくなり始めた沼、霧が出て浮き上がって見えるネコの木。210122a.jpg

空と沼を赤く染め、対岸の雲から登る日の出。210122b.jpg


『私はどこにいるの?』 (2021.1.22)
昨日午後の妻との電話、泣き声で「もしもし」「は~い」「今どこにいる?」「家、直ぐ近く」「直ぐ近くって私はどこにいるの?」「グループホーム寿」「分からない」「介護施設にいる。一昨年病気がちになって、私があんたの介護を出来なくなった。あんたはグループホーム寿に入って食事、洗濯、掃除、入浴、体操などの生活の面倒を見てもらい、訪問診療の先生が来て診察してくれている」「今私が住んでいるのは手賀沼の近く、・・・分からない」「昼寝してた?」「寝ていた」「まだ目が覚めていないね」「窓の外に駐車場が見える」「駐車場の右の道を真っ直ぐ行って、広い道に出たら右に行くと市役所入り口、その先の信号を左に行って、Aさんの家の前から坂を登る」「登ったら私たちの家がある。はっきり場所と道路の位置関係が分かって泣けてきた。窓の外には駐車場、真っ直ぐ行くと広い道、手賀沼の北側の道を東に行くと神社がある。神社の手前の坂を登ると私たちの家。早く治って外を歩きたい」「目が覚めてきたね」「駐車場の横を通って歩いことがある。私はいつ外へ出られるの?」「今はコロナが流行っていて出られない」「ああそうだ、ラジオが言っていた。お父さんが迎えに来て家に帰れないの?」「そこにいて、コロナが収まったら日中に外出して家に戻り、夕方にグループホーム寿に戻ることは出来るようになる」「ずっとはダメ?」「ずっと家に帰るとあんたの介護を私がやらなくてはならない。それが出来なくなったからあんたはグループホーム寿に入った」「お父さんも歳だから無理だね」「あんたはそこに入ってから、目眩、吐き気、頭がガンガンの苦しみが治って、膵炎も再発していない。そこで生活の面倒は見てくれるからずっといていい」「私だって治りたい。頭の中で色んなことが繋がらない。いつの日か繋がると嬉しい」「毎日電話する」「お父さんの声を聞いて、話しからお父さんだと想像出来る話になると嬉しい」「時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った。電話機返してくる」210122c.jpg
(仄暗い斜面林の中、センダンの実を啄むツグミ。)

オレンジ色に染まった地平線の雲の隙間

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.21)
(アルツハイマーになった妻)

オレンジ色に染まった地平線の雲の隙間。210121.jpg

日の出前の地平線の色を映しオレンジ色の入り江、風が吹き込んで広がる上空の色。210121a.jpg

空と沼をオレンジに染め地平線の雲から日の出。210121b.jpg


『私は70と幾つ?』 (2021.1.21)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お昼休み中。お昼食べた?」「いま食べ終わった」「遅いね」「JAとりで総合医療センターに行ってきた」「どこが悪い?」「一昨年、胃の入り口にポリープが見つかって経過観察中。半年に一回の検査を4月に予約してきた」「いいことだね。検査することで自分でも気をつける。念には念を入れるのね」「今日の調子はどう?」「昼寝した。惚けだけで他に悪いことはない。自覚しようがないよ」「お昼は何を食べた?」「何だったかな、部屋で一人で食べた」「いつもみんなと一緒でしょう」「知らない。私はのんきだから、食べた後で、私食べましたか、まだお腹がすいていますと言ったりして、アハハ。こうして話しをするのは楽しいね。天気がよくていい気分。お父さん、この頃のご機嫌はどう、今度家に帰るのはいつ?」「ずっと家にいるよ」「もう会社の仕事はやめた?」「20年前にやめた」「20年前と言ったら、今は80?」「82だ」「私は70と幾つ?」「少し前に80になった」「同じ歳?」「私は82、あんたは80。歳の話しなんかするから眠くなった」「お父さんと話すと歳のことくらいしかないね。あはは。いつ帰るの?」「誰が?」「お父さんが家に」「仕事をやめてからずっと家にいる」「私も一緒にいた?」「一昨年までずっと一緒。病気がちになって、あんたを病院に連れて行くことが多くなって、去年からグループホーム寿に入って今は元気」「私は病気だったんだ。病気になったことなど忘れていた。自分では病気をしたつもりはないが、私の口がうるさいのは慎まないと罰が当たるな。今どこに住んでいる? 坂の上?」「そう」「私は今どこにいる?」「グループホーム寿」「あっ、そうだ。ここにいるね」「ここで食事、洗濯、掃除、入浴、体操など面倒見てもらってる。訪問診療の先生も来てくれる」「それなのに図々しことを言って恥ずかしい。家から近くでよかった」「時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った。バンザイ。・・・夫との電話終わりました」210121c.jpg
(前方の住宅の屋根に動いた黒っぽい鳥、近寄って見上げて撮ればイソヒヨドリ。)

地平線の空の色を映しオレンジ色に染まった沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.20)
(アルツハイマーになった妻)

地平線の空の色を映しオレンジ色に染まった沼。210120.jpg

オレンジ色の沼を風が渡れば、風の通り道は波立ち上空の色を映してブルーに染まる。210120a.jpg

ブルーとオレンジに染まった沼に射し込む朝日、地平線から出れば眩しい日の出。210120b.jpg


『今は何も出来ない』 (2021.1.20)
昨日午後の妻との電話、トイレで泣いているから時間が掛かると言われ15分後に電話。「もしもし」「は~い」「どこにいるの、自分の家?」「そう」「羨ましい。私も行きたい。何もかもやり方が分からなくなった。自信のあったことが出来なくなって、自信がなくなって泣いていた。何をやるのか、何をどうするか、何をやらなくてはならないか言えないから泣けてきた。どこが分からないかと言われても分からない。自分自身を何処か隅の方に追いやっている感じがする。分からないことを認めるのは辛いこと。自分は出来ると大いばりな態度でいたのに、今は何も出来ない」「悩んだって出来ないことは出来ない。分からないことを悲しんだって分かるわけじゃない」「分からないことをそのままで置きたくない」「それは若いときのこと。若いとき2mの溝を難なく跳び越えていた。その内1mの溝を怖々跳び越えるようになり、やがて50㎝の溝の前で立ち止まっている自分に気付いて驚く。そんなものだ。年のせいだ」「分からないことが一度に増えた」「だんだん増えたが気がつかなかっただけ。悩まなくてもいい。ああ、出来なくなったかと思うだけでいい」「そういうことと思うが、自分じゃそんなはずがないと思う。誰にも負けないつもりで生きてきたのに出来なくなったと認めるのは辛い。自分を突き詰めて考えたら泣くことで自分の姿を現実に合わせているのかもしれない。私みたいに追い詰められるのは人生ではいいことかもしれない。これから先を生きて行くには自分が人より出来ると思っていたことを反省しなくては。大いばりでいた性格がぺしゃんこになった」「何で出来なくなるかいくら考えても答えは出ない。歳を取っただけだ。これも出来なくなったか、あははでいい」「分かった。ありがとう。お父さんが横で話をしてくれると楽になる」「毎日電話する」「毎日笑顔で電話できるようにしたい」「時間だ。CD鳴らして」「・・・鳴ったから電話返してくる・・・電話終わりました」210120c.jpg
(無心に何かを啄んでいたスズメ、うっかり驚かせてしまい食べるのをやめた2羽。)

斜面林の葉が落ちて透けて見える沼の夜明け

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.19)
(アルツハイマーになった妻)

斜面林の葉が落ちて透けて見える沼の夜明け。210119.jpg

明るい地平線、波立って 青く暗い沼。少し明るくなってやっと撮れた今朝の沼。210119a.jpg

地平線の雲から出れば眩しすぎる日の出。210119b.jpg


『至れり尽くせりだね』 (2021.1.19)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「どこにいる?」「Aさんの家から坂を登った所」「二人で建てた家?」「そう」「会社に勤めていた頃も同じ家?」「そう」「みんなが住む大きい家?」「それは横浜の片倉台団地だよ。我孫子に転勤して家を建てた」「坂の上の高台?」「そう」「一人でいるの?」「一人でいる」「一人だと自由だし楽しい?」「あんたがいないから楽しくない」「私も一緒に住んで、私が食事や洗濯もやりたいが私はもう80くらい。私のいる建物は何?」「グループホーム寿、介護施設」「私だけでなく、あなたも一緒に住んだら?」「私には入居資格がない」「だったら毎日遊びに来ればいい」「最初の頃は毎日面会に行ったが、コロナが流行って面会が禁止された」「じゃあ私が家に戻ればいい」「そこにいれば管理された食事が出るし、洗濯、掃除、入浴、体操、検温などの健康管理をしてくれ、毎月訪問診療のお医者さんが来て診察してくれる」「至れり尽くせりだね」「あなたは一人で食事を作るの、かわいそう。私が造ってやりたい」「あんたは食事の用意が嫌になって、昼食は私が担当した。その内、朝起きられなくて朝食も私が用意した。病気がちになってから全部私がやった。だんだんに増えたので慣れた」「私が病気だから?」「目眩、吐き気、頭がガンガンして辛かった」「原因は?」「アルツハイマーの薬を背中に貼っいて、体質が変わり副作用が出たのかも。それに膵炎で二度入院した」「治った?」「グループホーム寿に入って訪問診療の先生に診てもらい、目眩、吐き気、頭がガンガンは治って、この一年膵炎も起きていない。元気になった」「そういう経験をしたから、ここにいて別々に住むようになったのはよかった」「コロナが収まったらたまに家に来て、子どもたちも呼んで昼間を過ごすことも出来る」「夜は具合が悪くなると困るからここに戻る。嬉しいな、そうできると」「時間だ、CD鳴らして」「お父さん頑張ってね、私は楽しく生きられる。・・・鳴ったから電話返してくる」210119c.jpg
(風が強いからメガネをガードメガネに替えて出掛けた撮影。風景を撮るならファインダーの視度調整で見えるが、鳥が鳴いても裸眼の視力0.15では見付けられない。諦めて自宅近くまで帰れば目の前を横切ったハクセキレイ。近づいて来て撮らせてくれてまた飛び去った)

黄色い雲と黄色い沼、上空の薄雲が透けて青空

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.18)
(アルツハイマーになった妻)

黄色い雲と黄色い沼、上空の薄雲が透けて青空。210118.jpg

凍てつくような水生植物園跡に立つケヤキの木、葉が落ちて寒々と。210118a.jpg

日の出の時刻が近づく程に雲が厚くなる地平線。散歩の人だろうネコの木の向こう、ビオトープの脇を歩く人影。210118b.jpg


『頭がトンチンカン』 (2021.1.18)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「頭がトンチンカン。ここの場所は分かる。市役所から坂を登ったところ。なんで私はここにいるの?」「そこはグループホーム寿、そこにいると食事、洗濯、入浴、体操など面倒を見てくれ、訪問診療の先生が来て診察もしてくれる。あんたが家にいたらそこで面倒見てくれていることは全部私がやらなくてはならない。私が介護をできなくなって、私の代わりにグループホーム寿で面倒を見てもらっている」「私は病気になった?」「一昨年は、目眩、吐き気がして頭がガンガン、辛くて何度も病院に連れて行った。膵炎になって二度も入院した」「お父さんには苦労掛けたね。ごめんね」「誰も悪くない。病気だから仕方ない」「自分の家に一人でいるの?」「一人でいる」「子どもは?」「二人」「一緒じゃないの?」「二人とも家庭を持って、Aは八王子、Lは横浜にいる」「お父さんと二人で造った高台の家に一人でいるの?」「そう」「子どもは来ないの?」「数日前Aが来た。目の手術を受け、私が一日だけ全盲状態になるので面倒見てくれた」「目はどうしたの?」「右目は眼底出血、左は白内障」「回復した?」「左目は回復した」「私はここへ来た時のことが分からない」「膵炎で入院中に色んなことを忘れて、自分の居場所も理解できない退院直後にここに入った」「少しはよくなった?」「目眩、吐き気、頭がガンガンは治ったし、膵炎も再発していない。元気になった」「直ぐに忘れ、昨日のことも分からない」「過去のことはやり直せない。昨日のことは過去のこと。忘れたっていい。今日はちゃんと話が出来ている」「明日は忘れてる」「明日になれば過去のこと。毎日毎日新しい今がある。毎日電話するから、毎日の今を楽しく話ししよう」「お父さんが言う場所が分からなかったら、私の頭に浮かんだ景色をそこだと思えばいいんだ」「天気が悪い日は悲観的になる。天気がよくなれば治る。時間だ。CD鳴らして」「・・・鳴ったから電話返してくる。・・・電話終わりました」210118c.jpg
(今朝もまた日の出は見られない寒々とした朝。天気が悪いと悲観的な妄想の中をさまよう妻、今日は抜け出していて欲しい。)

自宅から桃山公園へ向かう約4分の道

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.17)
(アルツハイマーになった妻)

今朝もまた曇天かと、自宅から桃山公園へ向かう徒歩4分の道。210117.jpg

地上の灯りに照らされた雲、沼を照らして明るい水面。210117a.jpg

ラジオ体操の時間になって、上空を流れる雲に広がり始めた隙間。210117b.jpg


『何で会ってはダメ?』 (2021.1.17)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「電話が来ると言われたがなかなか来なかった」「電話したらあんたはトイレ中で5分後に掛けた」「知らなかった。元気?」「元気」「お父さんは直ぐ近くにいるね、何で会ってはダメ?」「コロナの流行が増えて政府が非常事態宣言を出したから」「外の人が来たらここの中のみんなに広がるから?」「そう。あんたたちを守るため」「政府が悪いの? いずれこの病気は収まるの?」「ワクチンが出回ってみんなが接種したら収まるだろう」「この病気は中国から来た?」「最初は中国、今は世界中に広がっている」「他所の国まで広めて、移された国は経済だってダメになる。中国人が動き回って移したんでしょ。中国は自分勝手な国だから困るね」「最近になって外国から日本への入国を止めた」「止めたって日本に病気がいっぱい広がってる。どうすればいいかみんなが知ってるの?」「手を洗って、マスクを掛けて、外出を控えて、近い距離で人に会わないこと、食事しながら会話すると移るから会食をしないことなど呼びかけている」「守らない人がいるんでしょ」「若い人には感染しても自分は軽く済むと出歩く人がいる。そういう人が家族に移して、年寄りまで感染するし、出歩いて会った人に移してどんどん広がる」「困ったね」「あんたはグループホーム寿に入っているから外の人に会わせないように守られている」「もし入ってきたらみんなに移っちゃう。それでここの先生たちはマスクをしている。手を洗いなさいって言う。ご飯も造ってくれる。体操も家の中でやる」「そう、そうやって守ってくれている」「お父さんは注意を守ってる?」「一人で住んでいるし出来るだけ外出しない。手洗いもマスクも守ってる」「気をつけてね。子どもたちは?」「二人とも元気」「二人いたのか、どこに住んでる?」「Aは八王子、Lは横浜」「お父さんは?」「直ぐ近く。二人で住んでいた家。時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った。・・・」、誰かとの話し声がして電話は切れた。210117c.jpg
(昨日雲間に一瞬の日の出があった頃、遠くの雲は厚いのか、見詰めた先に日の出の気配は全くないまま。)

日の出は見られそうになかった空模様

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.16)
(アルツハイマーになった妻)

5分もすれば日の出の時刻なのに、日の出は見られそうになかった空模様。友だちと話し込んでいなかったら帰宅していただろう。210116.jpg

対岸の岸から出てきたオオハクチョウ、飛び立つのを撮ろうとしているのか自転車道脇の展望台に三脚を立てている人。210116a.jpg

「あっ!」っと指さした友、雲の隙間に登り始めた太陽。ユリカモメだろう日の出を横切って飛ぶ。間もなく隙間を通り過ぎて厚い雲に隠れた瞬時の日の出。210116b.jpg


『お久しぶり』 (2021.1.16)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お久しぶり」「そう?」「ずっと会っていない。私の姉妹に会うこともないがなぜ?」「歳を取ったから」「あなたは幾つ」「82歳。あんたは?」「知らない」「私より二つ若い」「80か79?」「80」「そんなに年取ったとは思わない。あなたは誰と結婚して私が生まれた?」「2歳しか違わないのに親であるはずがない」「そうだね」「あんたは私の奥さん」「あなたと私は夫婦? 会ったことがある?」「会わなきゃ結婚してるはずがない」「辻褄が合わなくてびっくりしている。私は誰の子?」「中島幹とさか江の子」「あんたの姉妹は、Saと」「Sa姉ちゃん、Sa、Su、No、公子、H、M、Na、私の姉妹だ」「歳の順に姉妹の名前を言えたじゃない」「あなたと小さい頃から会っていた?」「会ったのはS先生の家。先生に呼ばれて行ったらあんたがいた。見合いだった」「昔はそうして結婚相手を引き合わせたんだ」「S先生は二人が教わった高校の化学の先生」「私は掛川西高を誇らしげに思っていた。私より上の姉妹はみんな女学校に行った。私はどこの学校に行った?」「掛川西高から静大に行った。卒業して佐倉小に勤めていたときにS先生の家で私と会った」「今はあなたと夫婦?」「そう」「世の中広いようで狭いね。私は直ぐ忘れるから辛い」「今日の今、昨日のことはもう過去のこと。忘れたっていい」「昨日のことはやり直せないものね」「こうやって話をするとちゃんと会話が出来る。話したことは明日にはもう過去のこと。明日忘れていてもいい」「忘れたくないことまで忘れたら辛い」「また同じことを話したらいい」「人生の思い出の人が近くにいるのは嬉しい。近くと言っても距離じゃない。そういう人がいるのは最高のプレゼント」「表面的に忘れても、Saと聞いて自分の姉妹全部の名前を思い出した。頭の中にはあるんだ」「話を聞いて嬉しいが、半分疑問だ。忘れるから何度も言ってね」「分かった。時間だ。CD鳴らして」「・・・鳴ったから電話返してくる」210116c.jpg
(雲に隠れて、また出た太陽。水面に光の帯を映すのを忘れて、もう一度出てきたかのように。)

地上の灯りに染まり黄色い雲、沼に映り黄色い沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.15)
(アルツハイマーになった妻)

地上の灯りに染まり黄色い雲、沼に映り黄色い沼。210115.jpg

いつまでも暗い曇天の朝、対岸の街灯が水面に映り長く光の尾を曳く。210115a.jpg

広場に出ればまだ集まっていないラジオ体操の人たち、街灯の下にマユミの木が鮮やか。210115b.jpg


『直ぐ近くだよね』 (2021.1.15)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「直ぐ近くだよね。坂の上の家?」「そう」「近くにいても遠いのね。しばらく会っていなくて顔を見ていない」「この前の日曜日に面会で会ったばかり。あんたは窓の内側、私は駐車場」「忘れた、そう言われれば会ったかな」「忘れたっていい、毎日電話してるから」「昨日電話したかは分からないが、そんな気もする」「毎日電話しているから次の日には忘れてもいい。次の日は次の日の話が出来る」「思い出がどんどん消え残らないのは辛い」「いいじゃない、日々新たで」「毎日電話してると夫婦だったなと思うし、まだ生きているなと思う」「お父さんの家へ下から坂を上る道も家も分かる。いきなりそこへ行ってここが家と言われたら分からない。お父さんとの生活の記憶が幾つかは残っている。お父さんとの生活が楽しかったと思い出すと泣けてくる。思い出せないと悔しくて泣けてくる」「こうやって話すとちゃんと会話できる。時間が経ったら忘れるのがあんたの病気。過去のことは忘れたっていい。毎日その日の今があって、その日の今ちゃんと話が出来て、楽しければいの。明日になったら明日の今があるから」「話していて顔がなかなか浮かばない。お父さんの顔が浮かんで、これがお父さんの顔だと思うが、本当は父さんじゃないかもしれない」「昨日目の手術をして全盲状態だったが、今日は眼帯を外して目が見える。Aが来てよく面倒見てくれた。ここにいるから代わる」。妻がAに話したことは、いい子に育ってAを産んで本当によかった。声を聞くと直ぐAだと分かるけど顔が出てこない。母親の中には子どもの声が残っている。いつまで経っても親子は親子だと。Aがコロナが収まったら会いに行くと言ったら、コロナのことはやっぱり本当のことかと言った。最後に、私がいなくなってもお父さんを見てねと言っていたと。私と代わったら、「元気でいてね、でないと私が会うことが出来なくなる」「もうCD鳴らして」「・・・鳴ったから返してくる」210115c.jpg
(待っても日の出はなさそうな曇天、早々に家路へ。)

全盲体験が終わって、撮ってあった写真を見る

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.14)
(アルツハイマーになった妻)

全盲体験が終わって、撮ってあった写真を見る。手術後に何も見えず疲れ切ってぼんやりしていた私、目の不自由な人がいかに大変か身にしみて分かった日。210114.jpg


『嬉しくて泣いてる』 (2021.1.14)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「眠っていたら、ご主人から電話だって起こされた。どこにいる?」「家にいる。眼科クリニックから帰ってきて、電話するのが遅くなってごめん」「眼科ってどうしたの?」「左目の白内障の手術をしてきた。右目は眼底出血で見えないから、左目の手術をして明日まで両眼とも見えない。Aが来てくれて面倒見てくれている」「えっ、見えなくなった方はいつから」「21年前に眼底出血で、目の真ん中が見えなくなっていたが、最近また眼底出血して、残っていた見える部分も見えなくなった」「見えなくなったら大変じゃない」「今日手術した左目がよく見えれば問題ない、右が見えないのはもう慣れっこ」「いつまで両方見えない?」「明日眼帯が外れるまで」「その間どうする?」「Aが来て手を引いて病院に行ったり、家での生活の面倒を見てくれる」「私が手を引いてやりたいが、私にできないのは悲しいよ。いい娘がいてよかったね」「Aと代わって話す?」「今日はあなたの手術のこと、Aのこと忘れていると困るからいいよ」「Aは明日私の眼帯がとれたら帰るから今日話をしておいた方がいいよ」「じゃぁちょっとだけ」とAと代わる。話し終わったAから聞いたところによれば、声を聞いて直ぐ自分の娘のAだと分かり嬉しそうに話した。孫娘の話は小さいときのことしか思い出せなかったが孫娘の名前に馴染みのある名前だと言ったと。私に代わると、「お父さんはいい娘がいてよかったね。しっかりしていて頼りになる。いい子に育ってくれたね」「あんたがいい娘に育ててくれたよ」「私が?」「そう」「こんなになっていて何もしてやれなかった」「それは最近のこと。あんたが若い頃は活発で、行動的、二人の娘を可愛がって育て、二人ともいい子に育った。あんたが育てたんだよ」「そう言ってくれると嬉しい」「泣いてるの?」「嬉しくて泣いてる。涙が止まったら電話機返しに行く」「じゃあCD鳴らして」「・・・鳴ったから返してくる。・・・電話終わりました」210114c.jpg
(白内障手術が終わって帰宅しどっと疲れが出る。信州の冷凍おやきを食べて元気が出て気を取り直して妻に電話する。」

対岸に薄霧、くっきりとネコの木のシルエット

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.13)
(アルツハイマーになった妻)

対岸に薄霧、くっきりとネコの木のシルエット。210113.jpg

日の出直前の沼にコブハクチョウ、兄弟四羽別々に一夜を過ごしたのか少し離れて岸から出て来る。210113a.jpg

空と沼を染め地平線の雲の中に日の出。210113b.jpg


『私の旦那さん』 (2021.1.13)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「私の旦那さん、こんにちは。いま次のをくれた」「何を?」「一枚目は2020年12月、次は令和3年1月から3月、何て言えばいいか分からない」「カレンダーだね、よく見て次の電話の時に詳しく教えてね。明日から三日間、眼科へ目の手術を受けに行く」「どこで?」「我孫子の駅前」「右目は眼底出血して見えないからレーザ-を打つ。左は白内障の手術をする。今日はあんたの友だちのAさんが車で送ってくれる」「Aさんにはいっぱいお世話になるね。私には状況か分からないから私の出る幕はない。何もしてあげられないのは辛い」「心配しないで。娘のAが来て一緒に説明を聞いてくれ、三日間生活の面倒見てくれる」「最近の医学は進歩したから、難しいことだって出来る」「白内障の手術だからリスクは少ない」「AやLの時代はもっと科学や医学が進んでいい時代に生きるよね。コロナがあっても、目が具合悪くなっても電話なら話が出来るしね。大丈夫だよね」「あんたは元気でいてくれないと話が出来なくて困る」「私の目はよく見えるが手が掛かる。お父さんは82、私は80、よく生きてきたよ。その内寿命で死ねけど。お父さんには助けられているから手術の時には手を握っていてやりたいが、ここから外に出られない。頭の中の想像ではどこへでも歩いて行けちゃうのに。こんな大変なときでも電話くれてありがとう。手術がうまくいくよう願っている。手術、頑張ってね」「頑張るのは私じゃなくてお医者さんだよ」「あはは、そうだね。ふざけた話しの方が気が楽になるね。病院は掛川?」「我孫子だ」「道は海へ行く道、母の実家へ行く方?」「それは掛川の横須賀だよ」「困ったちゃんだね。トンチンカンになってごめんね」「気にしない気にしない」「忘れても会話は成立するものね。すぐ前にお父さんの顔を見なくても、声を聞けば心の中で顔を見るから」「時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った。電話返してくる。・・・電話終わりました」210113c.jpg
(ネコの木の向こうに大きく眩しい日の出。明日まで全盲状態、眼帯が外れたら再開します。)

ぽつぽつと雨、地上の灯りに照らされ黄色い雲

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.12)
(アルツハイマーになった妻)

ぽつぽつと雨、地上の灯りに照らされ黄色い雲。210112.jpg

傘を取りに自宅に戻り、桃山公園に戻ろうとすると雨は止む。210112a.jpg

南西から南に張り出してくる明るい雲間。210112b.jpg

『昼寝していた』 (2021.1.12)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「昼寝していた。お父さんから何か来るかと思って鏡の前でうつらうつらしていた」「目が覚めた?」「目はいつでも覚める」「昨日歯磨き粉と化粧品を持って行ってSさんに渡した」「Sさんって言われても私は知らない」「あんたが使っているものが足りなくなりそうだと連絡してくれるから、私が買ってきて届ける。無くなると預けたものを出してくれる」「そんなことは知らなかった。何処かから出て来ると思った。アハハ」「化粧品は、先日電話したとき足りなくなるとあんたが言っていた」「そんなこと忘れた。歳を取れば忘れるようになる。私は幾つになった」「80」「もう80か。いい加減になっても仕方がない歳ね。ここにいると確実に色んなことをやってくれるから助かるよ。雨は降っていないが天気が悪くなってきた。お父さんの家とここは直ぐ近くだから同じだね。今日はベッドに入らず、鏡台の前に腰掛けて居眠りしていた。ベッドに入ると本当に眠っちゃうから。ベッドは朝起きたときのままま布団をたたんでない。お父さんはもう仕事はないね」「給料もらう仕事はない」「山の上の家で何してる?」「朝早く手賀沼の写真を撮って、帰って雨戸を開けてから朝食の仕度。日によってゴミを出したり、洗濯したり、埃が目立つようになったら掃除もする。写真をパソコンに入れてブログやFacebookを書く。お昼食べたら毎日あんたに電話する」「電話で話しても明日は忘れちゃう」「過去のことは忘れたっていい。こうやって電話で話しているときのような今を大切に楽しくすればいい。明日になれば過去だから忘れたっていい。毎日毎日の今を大事にすればいいんだ」「お父さんに聞いたような気がして、誰かに話した」「コロナの大流行で面会は中止になった」「いつまで」「一ヶ月と言ってるが実際はもっと長くなるだろう。毎日電話で話そうね。時間になった。CD鳴らして」「電話機はどこに返す?」「事務所に返して」「・・・鳴った・・・電話終わりました」210112c.jpg
(左目白内障手術を明日に控え、手術の説明と診察を受け、右目眼底出血にレーザーを打つ日。日の出はなさそうな曇天の沼、早々に帰宅した朝。)

地平線に横たわる雲、上空は快晴の夜明け前

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.11)
(アルツハイマーになった妻)

快晴の空に月、風に波立つ沼はブルー。210111.jpg

寒々と波立つ水面を低く飛ぶカワウ2羽。210111a.jpg

上空の薄雲を染めて地平線から日の出。210111b.jpg


『牢屋の中みたい』 (2021.1.11)
昨日の妻との面会。玄関前で面会票を記入、Sさんから介護計画書のコピー受領、計画書に承認のサイン。補充用に歯磨き粉と化粧品を渡す。緊急事態宣言発動に伴い日曜日の面会は当分中止、今回の面接は窓を閉め会話は電話で会話、写真を撮る時だけガラス窓を開けてもらう。「来てくれてありがとう。近くても家はどっちか分からない。ここの住所は?」「寿」「家は?」「高野山」「誰と住んでる」「一人で」「一人じゃ寂しいね。私はここへ来て何年?」「ちょうど一年」「ここには悪い人はいないが、みんなで一緒にご飯を食べても自分の部屋に入ってしまいみんなと話せない。私はおしゃべりだから話しをする相手がいないと寂しい。牢屋の中みたい」「私があんたの介護を十分にできないから、私の代わりにここで介護の専門家のお世話になっている」「そうだったね」「コロナの流行が拡大して、東京と周辺の県に非常事態宣言が出された。日曜日の面会はしばらく中止になる」「いつまで?」「非常事態宣言は1ヶ月と言うがもっと長引くと思う。今まで通り毎日電話する。」「前には部屋で面会した」「去年の1月、2月は毎日部屋で面会した。コロナの流行で中止になっている」「ダメなものはダメだものね」「しがさっての13日に目の手術をする。右目は眼底出血で見えなくなって、左目は白内障が進んだので左目の白内障の手術を受ける。一日だけ全盲のような状態になるのでAが来てくれる」「いい子どもたちでよかったね。私も惚けてきたがこの病気は直らない。昔の年寄りは家で寝たきりになり、みんなに見送られて人生を終わった。その内、私も終わりが来る」「それにはまだ間がある。過去は忘れたっていい。今ある一日一日を大事に、楽しく生きればいい」「お父さんの話しはしっかり頭に入れた。お父さんも病気しないで、帰りには自動車事故がないように、私より先にいなくならないでね」「寒いから終わりにする。電話切るよ」。私の車が動き出しても窓ガラスの向こうで手を振っていた妻。210111c.jpg210111d.jpg210111e.jpg

地平線の雲の向こうから登る日の出

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.10)
(アルツハイマーになった妻)

地平線に横たわる雲、上空は快晴の夜明け前。210110.jpg

夜明けの光と空と風が織りなす水面の模様。210110a.jpg

地平線の雲の向こうから登る日の出、出た途端眩しすぎる太陽。210110b.jpg

『今日は月曜日?』 (2021.1.10)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お父さんだ、嬉しい。今日は月曜日?」「土曜日」「カレンダーを見て」「嬉しいな、お父さんと話しできるのは。月曜日は縦の線の二番目だよ。1月は上手に塗って貼ってある。自分でもよく出来たと思う。1と11は赤く染めてある」「1は元旦、11日は成人式」「月曜日だけど休みだから赤で塗った。上半分は絵、下は字。手前は富士山だが日の出の場所から静岡県側から見た絵だ。自分でもよく出来たと思う。真ん中に富士山、左の下の方が太陽。平らなところは緑に塗った。作品は誰かが来て貼ってくれた」「よく出来てよかったね」「こういうことをやっている間はご機嫌がいい。お父さんはもう仕事はないね」「ない。20年前にやめた」「じゃあ20年一人で住んでるの?」「あんたがグループホーム寿に入った去年から一人で住んでいる」「AとLは? 娘二人の名前をスッと言えたよ」「二人とも結婚して自分の家にいる」「どこ?」「Aは八王子、Lは横浜」「何だか聞いたことがある。私は学校に勤めた? 岩滑から海の方に行った学校」「佐倉小」「最初に勤めたから憶えている」「東京では立会小に勤めた」「立会小って聞くと頭の中で響きがいい」「大井町」「海の近くだった」「横浜では産休の先生の代わりに中丸小と羽沢小に勤めた」「全然思い出せない」「私は横浜というと利根川近くの景色になる」「利根川は我孫子だ」「写真を見たら頭の中を整理できるかもしれない。自分の頭に浮かぶことは分かるが、人の話を聞いても思い出せない。佐倉小だけは頭の中に色がある。岩滑の裏山のお墓は中島家代々の墓、私は入れない」「私たち二人は一関の樹木葬墓地に行く」「お父さんと見に行った。何となく場所だけは憶えている」「宗教を拒否するのではなく、自然に帰るのだから坊さん・神主さん・牧師さんなどを煩わせず終わることにしている」「それでよかった。お父さんと同じ所に行くだけでいい」「時間だ。CD鳴らして」「・・・鳴ったから電話機返してくる」210110c.jpg

(ヒヨドリが来ても逃げようとしないスズメたち、ヒヨドリも追おうせず互いに無視して日向ぼっこ。)

晴天の空を映し青白く凍り始めた沼

晴天の空を映し青白く凍り始めた沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.9)
(アルツハイマーになった妻)

晴天の空を映し青白く凍り始めた沼。210109.jpg

対岸寄りの濃いブルーはまだ凍っていない風の通り道、こちら側から対岸に広がる凍った水面。210109a.jpg

日の出前の光にネコの木はくっきりとシルエット210109b.jpg


『商品を買う日』 (2021.1.9)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「午後からはお茶の道具を交換する日」「お茶をやるの?」「商品を買う日。誰かが来て売るから注文する」「何を注文するの?」「えーとねぇ、何だったっけ」「もしかして夢かな」「夢かなあ。足りないものを注文する」「足りないものは職員さんから連絡があって私は用意して届けているよ。今度の面会の時は歯磨き粉のチューブを届ける」「今までも注文を取る人が来て注文していた。足りないものの注文メモを書いた。DHCのマイルドローションⅡ、オリーブバージンオイル、モイスチュアクリアリキッドファンデーションが残り少なくなった」「それなら前回通販で買うとき余分に買っておいたのがあるから持って行く」「それなら私は楽になる」「今までそこにいてあんたが注文して買ったことはない。私に請求が来ていないから」「そうかなぁ。注文したら柏の丸井にある店に受け取りに行った」「グループホーム寿にいるから、今は外出禁止。だから受け取りに行けないはずよ」「そうだね。でも行ったよな」「何年も前は柏の店に買いに行っていた。そのことを思い出したのね。最近はずっと私が通販で買っているよ」「どうやって注文するの?」「インターネットで、あんたの会員番号を使って注文すると自宅に送ってくる」「それは私には出来ない」「必要なものがあたら職員さんに言えば、私に連絡がある。私が買ってきてグループホーム寿へ届けるよ」「化粧品が無くなると顔が突っぱる」「大丈夫。今回あんたが欲しいものは買ってある」「中学の近くの店でも買った」「散歩の時にこっそり買ってきて使ったら四谷怪談のお岩さんみたいな顔になって皮膚科に連れて行ったね。だから最近はずっと私が通販で買ってあげていた。欲しいものがあったら職員さんに言えばいい。職員さんが私に連絡してくれる」「私が自分で注文するのは夢だったのか。そんなこと、もう私には出来ないものね」「時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴った。・・・電話終わりました」210109c.jpg
(雲から出た日の出は眩しく、凍った水面にオレンジの橋渡し。)

地平線の雲は高く、風が吹き抜け波立つ沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.8)
(アルツハイマーになった妻)

地平線の雲は高く、風が吹き抜け波立つ沼。210108.jpg

上空を流れる薄雲が染まった日の出直前。210108a.jpg

雲の上に登れば眩しすぎる日の出、水面に映って光の橋渡し。210108b.jpg


『昨日塗り絵を塗った』 (2021.1.8)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「眠くてベッドに転がり込んだ」「眠った?」「分からない。電話持ってきてくれて目が覚めた。何かご用」「いつものように電話した」「いつもって、いつも直ぐ忘れる」「忘れたらいつも新鮮でいいね」「ご飯食べたら眠くなって直ぐ寝ちゃう。病気かな」「夜は眠れる?」「眠れる。私、何を言ってるか分からない。やっと目が覚めた。何でご飯の度に眠くなる。何処か悪いのかな、頭が悪いんだ。夜の布団を掛けて寝てるから眠くなる?」「気にしなくていい」「冗談言って笑ってるから心配ない。お父さんは元気?」「元気」「眠いとき何かあったら私は分かってやれるだろうか。今はダメ。はっきりしたときは何でも言えるが、いまは言うことが出てこない。ダメだね。昨日塗り絵を塗った。上手に出来たので貼っておいた。1月だから新年の太陽も富士山もきれいに塗った」「それカレンダーでしょ」「あっ、下に字がいっぱい、カレンダーだ。1日と11日は赤く塗った」「11日は成人の日」「他の日は黄色に塗った」「17日の日曜日は面会に行く」「日曜日で暇だから来るの?」「面会は日曜日しか出来ないから」「そうか。お父さんは私と建てた家に住んでる?」「そう」「先の方へ行って小学校に小さい子を入れた。小学校の裏門から入って表門を出て右に行くと中学の方へ行く広い道、中3の上の子を中学に連れて行った」「何日か前は小学校から中学へ行く道を思い出せなかったが、今日は思い出したね。時間になった」「あなたの子どもは幾つになった?」「50前後。あんたが小学校と中学校に連れて行った二人の子はあんたと私の二人の子」「そうか、私たち二人の子か。二人は家にいる?」「二人とも結婚してAは八王子、Lは横浜に住んでいる」「そういうことを聞いても顔が浮かばない。AとLは身近な名前。いい子に育てたね」「あんたがいい子に育てた。時間になった。続きは明日ね」「明日は忘れてる」「CD鳴らして」「・・・鳴った。電話機を返してくる」210108c.jpg
白菜畑にいたムクドリ、レンズを向けたら驚かせ庭木の繁みに飛び込んだ。しばらく待てば出てきた一羽。)

ぼんやりと明るくなるのを待った高台

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.7)
(アルツハイマーになった妻)

ぼんやりと明るくなるのを待った高台、隣に三脚を立てた人もいたが日の出はなさそうな空模様。210107.jpg

愛宕大権現の裏に見える保育園の窓、正月の文化に触れられるよう墨で半紙にお絵かきをしたユニークな作品。210107a.jpg

沼を渡ってネコの木の耳にとまったカラス二羽、ほぼ毎日来てとまるお気に入りののっぽな木。210107b.jpg


『私は岩滑の子ども?』 (2021.1.7)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「元気?」「元気」「いいわね。私は元気だけど何をやるのか訳が分からない。自分ではそれでもいいとしている。私は慌ててはいない、出来なければ出来ないと言えばいい。いざという時になると元来の突っ張りの気持ちが出そうだが、それはやめようと思っている。誰にも100%はないもの、出来ないものがあってもいい。外を見ると雨が降りそう」「午後は雨の予報」「私は予報士になれる」「天気が悪くなると落ち込むからもう予報士だ」「80だもの、仕方がない。嫌になるね。お父さんは幾つ?」「82」「二つ年上だね。歳を取りたくなくても全員歳を取るよね、若返る人はいない。雲は厚いけど直ぐに降りそうではない。あっ、飛行機が飛んでくる。窓から南の方に青空が見える」「こっちは前の家が邪魔で見えない」「直ぐ近くなのに私たちは別々にいる」「あんたがいるのはグループホーム寿という介護施設。ご飯、洗濯、掃除、入浴、体操など職員さんが面倒を見てくれるし、訪問診療の先生が来て診察してくれるし、歯医者さんも来てくれる」「なんで私はここにいる?」「私に出来なくなった介護を代わりにここでやってもらうため」「戦争は終わった?」「太平洋戦争なら75年前に終わった」「戦争だから動いちゃいけないって言われない?」「日本はずっと戦争をしていない」「戦争が終わったとき私はどこにいた?」「岩滑」「私は岩滑の子ども?」「そう、長女がSa」「Sa姉さんなら分かる。Sa、Su、No、公子、H、M、Na。暗記している。私に見える岩滑の景色は昔のまま。屋敷に入ると右にトイレがあった。左に昔は蔵があったが二階建ての脇屋に建て替えた。一階は物置と古文書の書庫、二階二間が子どもたちが来たとき泊まる部屋。東の蔵は昔から大事なものを入れて、二階に上がるには梯子を掛けた。裏山にはお墓、近所の道は古い地図しか分からない」「よく憶えているね。時間になった、CD鳴らして」「・・・鳴った。電話機返してくる・・・電話終わりました」210107c.jpg
(桃山公園からの帰り道、今朝出会った鳥はムクドリ一羽だけ。姿を見せなかったヒヨドリたち。)

やっと明るくなってきた曇天の沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.6)
(アルツハイマーになった妻)

ラジオ体操が始まって、やっと明るくなってきた曇天の沼。210106.jpg

一人だったら日の出はないとサッサと帰っただろうが、友と話し込んでいる内に雲の隙間が色付く。210106a.jpg

やがて雲の隙間が眩しく輝き、雲の隙間の薄雲の中を昇る太陽。210106b.jpg

『あなたは私の何?』 (2021.1.6)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「お父さんの声、嬉しい。くたびれてる」「いつもくたびれているね」「私の力の及ばないところまで頑張っているから。よく言えば頑張りすぎ、悪く言えばバカ。厳しすぎた自分を許さなくちゃ」「お昼食べた?」「ちょっと前に」「私はいつ食べた?」「知らない」「同じ頃に食べたんだ。子どもに食事を与えるときは注意しなきゃ、えこひいきだと申告される」「昔の教師の頃の給食?」「今のことと昔のことがごちゃ混ぜだ」「仕事はいつやめた」「20年程前」「何してた?」「技術者」「私はどんな教師だった?」「いい先生だと言われた」「なんで私がここでへばってるの?」「くたびれたはあんたの口癖」「外の人には言わないよ。家族にだけは甘えて言うの。あーあ、くたびれた。アハハ。私は何をしてる?」「仕事はない。私も年金生活者」「そう、よかった同じで。お父さんは毎日何する?」「あんたに電話して、日曜日には面会に来る」「住所は?」「直ぐ近くの高野山」「そこは私の実家?」「あんたと一緒に建てた家」「岩滑に家を建てるのかと思った。掛川は私の故郷」「岩滑はあんたの実家。高野山に二人で建てた家に住んでいる」「二人が建てた家でも、それぞれが別の所に住んでいるのね」「一昨年までは一緒に住んでいたが、あんたが病気がち、私はあんたの介護を十分に出来なかった。私の代わりにグループホーム寿であんたの介護をしてもらうためにあんたはそこに入った」「お父さんも一緒に住めばいい」「私には入所の資格がない」「家に遊びに行って会いたい」「いまコロナが流行っている。伝染が収まったら家に来て一緒に話をしよう」「夜は別々なところへ帰るのね」「そう。グループホーム寿にいれば身の回りの介護や、訪問診療に先生も来てくれる」「私は良いところにいるんだ。あなたは私の何?」「夫だよ」「直ぐ忘れちゃう」「時間になった。CD鳴らして」「ランプが点かない。コードを挿した・・・鳴った」「電話機返してきて」「返してくる・・・」210106c.jpg
(遊歩道を歩いてきた散歩の人、パッと木の天辺に逃げたスズメ四羽。散歩の人が通り過ぎたらまた降りていった四羽。)

水面に映って伸びる対岸の灯

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.5)
(アルツハイマーになった妻)

曇天の下の暗い沼、水面に映って伸びる対岸の灯。210105.jpg

ラジオ体操が始まってやっと明るくなってきた沼、遠くの日の出が微かに染めた地平線の空。210105a.jpg

沼を見下ろす愛宕大権現の碑。まだ杉林だった頃、地主さんが語った碑の由来「ずっとここにあった家神様、以前自宅の庭に移設したらよくないことが続いたのでまたここに戻した。そしたら全てうまくいくようになった」と。210105b.jpg


『今日は帰る日』 (2021.1.5)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「こんにちは。くたびれた。今日は帰る日。言われてはいないが、帰る人の部屋が片付いているか見回りに来るから持ち帰るものとそうでないものを整理している。昨年もやったような気がする」「また同じ勘違いかな。あんたはこの前も帰るのが近づいたと言ったが、帰らなくていい。ここはグループホーム寿、介護してもらうためにここにいる。いつまでいてもいい」「今日一日だから私は焦っていたが、私は思い込んでいるの?」「どこへ帰るの?」「家」「去年1月、ここに入る前は二人で一緒に住んでいた」「私の体調が悪かった?」「そう。私があんたの介護をやりきれなくなって、代わりに介護してもらうためにここに入った。だから家に帰っても私には介護しきれない」「あなたはどこに住んでいる?」「窓から見える駐車場の左の道を進むと広い道、右に曲がって坂を下ると市役所の入口」「市役所ってどこ?」「手賀沼の手前」「頭の中がごちゃ混ぜで分からない。家の裏は観音様?」「それはあんたが生まれ育った岩滑の家、掛川市だ。あんたがいるところも私が住んでいる家も我孫子市」「岩滑に帰って住むのかと思った。家の前に田んぼが見える」「岩滑の昔の風景だね」「私の頭の中から故郷は消えない」「記憶の中の岩滑には帰れない」「私たちは段の山の上に家を建てた」「二人で建てた家は岩滑じゃなく、手賀沼から丘に登ったところ」「そうか。まだある。段から平川に出て、バスに乗って浜岡に行った。そこで何かを埋めた」「何を」「思い出を埋めた」「私の父母の家を処分し、家具などの不用品を処理場に持っていったときのことかな」「そういうことを何となく憶えている。そこから先は分からない」「グループホーム寿と私の住んでる家は直ぐ近く」「今日は方向が逆になって道が分からない。私を連れて一緒に歩いて。そうすれば思い出せる」「コロナが収まったら歩こうね。時間になった、CD鳴らして」「・・・鳴ったから電話を事務所へ返してくる」210105c.jpg
(いつものようにマユミの木を潜って帰ろうとしたら、通せんぼするように見えた向こう側の木。潜って抜けるのをやめて小径を戻った朝。)

いつまでも暗い沼、寒々と沼上空に伸びる雲

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.4)
(アルツハイマーになった妻)

いつまでも暗い沼、寒々と沼上空に伸びる雲。210104.jpg

遠くの日の出が染めた瞬時の朝焼け。210104a.jpg

日の出はなく、上空には幾筋もの雲の列。210104b.jpg


『私はネコになっていた』 (2021.1.4)
昨日の妻との面会。玄関前で面会票を記入、駐車場で待つと職員さんと一緒に来た妻は私を見た途端泣き出す。「どうして泣くの」「会えないかと思っていたのに会えて嬉しい」「面会日だからいつもの通り会いに来た」「野良猫に追われて大変だった。もう人間の社会に戻れないと思った」「今年初めてだから新年の挨拶をしようか」「駐車場の日当たりのいいところでネコに餌をやりに来た人がいたがネコが来ない。どうして来ないのと言ったら私が人間だから。話が出来るようになったら私はネコになっていた。野良猫軍団に追い掛けられ、一緒にいたやさしいネコと一緒に逃げた。手で西を差したので一緒にどんどん行ったら柏の神社だった。友だちを連れた来たのかとおじさんが言って、車に乗せておじさんの家に行きおまんま食べろとご飯をくれた。部屋に戻ってやさしいネコと一緒にいた」「ネコになった夢?」「分からない。人間だと追い掛けられるが、ネコなら可愛がってもらえる。ネコの言葉をしゃべれるようになって、もう人間の言葉はしゃべれないと思った。お父さんが来てくれて嬉しかった。人間の言葉をしゃべれるし分かる。嬉しいから泣けてきた。お父さんが小説に書いたら面白い小説が書けるよ。私はいつネコになった?」「知らない。昨夜の夢かな」「もっと前からネコになった。5歳くらいかな」「昨日電話したときはネコじゃない、もう80のおばあさんだった」「お父さんが住んでる家に行った。お父さんは車で何処かへ出て行った。私が道を渡るとき、自動車に気をつけろとお父さんの声が聞こえた。お父さん言った?」「言ってない」「人間の言葉が分かるししゃべれる。もう人間に戻れるかな」「夢だから覚めれば戻るよ。寒くない?」「ちょっと寒い」「もう終わりにしようか。明日は電話する」「来てくれてありがとう。寒いから気をつけて帰ってね」「自分で部屋に戻れる? 職員さんは?」、職員さんを探しに行って戻ってきた妻、手を振って見送ってくれ、窓が閉まるとまた泣き顔。210104c.jpg210104d.jpg210104e.jpg

風に波立ち上空を映して白く明るい水面

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.3)
(アルツハイマーになった妻)

地平線の雲は高く暗い沼、風に波立ち上空を映して白く明るい水面。210103.jpg

遅い日の出が雲から出れば白内障の目には眩しすぎ、カメラ任せに撮った日の出。210103a.jpg

薄霧と朝日の中にネコの木。昔、森かずおさんとここで一緒に撮った仲間三人が出会い、ネコの木を撮りながら森さんの思い出話が弾んだ。210103b.jpg


『片付けをしていた』 (2021.1.3)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「公子です。片付けをしていた。持ち帰るものと、置いていくものを分けていた」「どこへ帰るの?」「お父さんが言った」「言っていない。あんたはグループホーム寿にいつまでいてもいいと言った」「出て行く頃だと思った」「グループホーム寿にいれば食事、洗濯、入浴、体操などの面倒を見てくれる」「知らない間に助けられていたの?」「そう」「公子が家に帰ると、あんたが助けられていたことを全部私がやらなくてはならない。私も全部はできないからあんたはグループホーム寿に入った」「バカだね、私が一人でやるなんてあり得ない。どうしよう。嬉しくなった。肩の荷が下りた。荷物を造って運んでもらう積もりだった。お父さんがいいところで言ってくれた。私はずっとここにいるお金がない」「心配しないで。年金があるし預金もあるからちゃんと支払っている」「お父さんは私に分かるように説明してくれても、私は強情だからまた言うかもしれない。私はどこにいる?」「グループホーム寿にいる」「段の方?」「それは岩滑、グループホーム寿は我孫子」「それどこ?」「窓から見える駐車場の左の道を進むと広い道、右に曲がって坂を下ると市役所入り口、その先の十字路を左に曲がって、Aさんの家の所から坂を登る」「私たちの家だ。直ぐ近くだ。ごめんねって言わなきゃ。でも顔が見えない」「電話で聞こえる」「そうだね。私は出て行かなきゃならないと思った。ここが自分の部屋と思わなかった。お父さんは転居するの?」「家にいる」「私たちの家は誰かに渡すのかと思った。市役所の坂を下ると岩滑の家が見えると思った」「岩滑は静岡県、ここは千葉県」「バカだね私」「箱の中にいっぱい写真がある。見たら思い出すよ」「わらくのMさんと家で並んで撮った写真、AとLの家族と一緒の写真、部屋の中に私たちの戸棚もある。幸せだったね、年が経つのは早い」「時間になった。CD鳴らして」「・・・鳴ったから返してくる。・・・電話終わりました」210103c.jpg
(目の前を横切り、ベンチの下に入って餌探しをするムクドリ。)

雲の隙間から沼にこぼれ落ちる朝の光

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.2)
(アルツハイマーになった妻)

地平線から空高くまで厚い雲。雲の隙間から沼にこぼれ落ちる朝の光。210102.jpg

雲の隙間を避けて登った太陽、雲間から吹き出す光芒。210102a.jpg

雲の向こうを更に昇った太陽、眩しいほどの光芒が暗転した沼を照らす。210102b.jpg

厚い雲の上まで登った眩しい太陽、刻々変わる光芒のドラマは終わる。210102c.jpg

『今帰る仕度をしている』 (2021.1.2)
昨日午後の妻との電話、「もしもし」「は~い」「近くにいるの?」「そう、家に」「近くでいいね。今帰る仕度をしている」「どこへ帰る?」「派遣先へ」「そこは自分の部屋?」「ベッドがある、鏡もラジオもある。部屋に戻ってきて今日で活動は終わりになる」「今日は新しい年の始まり」「カレンダーは1から始まる」「今日は1月1日、元旦」「金曜日」「カレンダーは野崎モータースのもの?」「そう」「Tさんが毎年くれて、毎年あんたが使っていたから、年末に届けておいた」「似たものが来たと思った。ここは近いのに遠いね」「明後日には私が面会に行く。あんたは広い部屋の窓の内側、私は駐車場」「つまらない。話が上と下になる」「声は届く」「明後日にはそれが私の仕事。任務が終わったら私たちの家に帰るの?」「帰らない。あんたがグループホーム寿にいれば、ご飯、洗濯、入浴、体操や訪問介護の先生の診察もしてくれる。家に帰るとあんたの面倒は全部私がやらなくてはならない。私にそれが出来なくなってあんたはそこに入った」「私たちの家は?」「私が一人で住んでいる。去年まで二人で住んでいたがあんたは病気がち、私があんたの面倒を見切れなくて、あんたはそこに入った。おかげで私は一人で何とか暮らしている」「ここは家と近いしね。私はいつ退職する?」「仕事をするためでなく介護してもらうためにそこにいる」「何の仕事をするればいい?」「仕事はないが、毎日を楽しく、元気に過ごせばいい」「誰のために?」「私と子どもたちの願い」「ずっとここにいていいの? 費用はここで働くからその見返りじゃない?」「費用は私が支払っているから心配しなくていい。決まった仕事はないが、ご飯の後片付けや掃除の出来ることは自分でやる。義務だと思って辛くなるほどやらなくていい」「それなら気楽。お父さんと一緒にいたい」「毎日電話するし、日曜日には面会に行くから我慢して」「お父さんが楽になるなら」「時間になった。CDを鳴らして」「・・・鳴った・・・電話終わりました」210102d.jpg
(僅かに残っている目こぼしの実を探すヒヨドリ、やっと見付けた赤い実一つ。)

岸近くでは鉛色の帯状に凍り始めた沼

撮影ノート『手賀沼有情』 (2021.1.1)
(アルツハイマーになった妻)

初日の出を見に来た人の声が騒々しくなってきたころ、直ぐ後ろで「マイナス3度になった」と若い人たちの話し声。オレンジとブルーに染まる水面、岸近くでは鉛色の帯状に凍り始めた沼。210101.jpg

対岸の一点が輝き、一瞬のどよめきの後の静寂。初日が登り始めたらスマホを掲げる若者のグループに背中を押される。210101a.jpg

早々に人混みから抜け出せば、スマホやタブレットを掲げる人の列。210101b.jpg

『青い空。気持ちいいね』 (2021.1.1)
昨日の妻との面会、玄関前で面会票を記入し、Oさんに「天気がよくなって落ち込みは直りましたか? 気圧が急変したり気温変化の大きいときは落ち込むようです」「そのようですね」「寒くないようにコートでも着せて来て下さい」とお願いした。駐車場へ行くとコートを着て窓辺に来た妻、ガラス窓を開けてもらい、「遠いところ来てくれてありがとう」「直ぐ近くだよ。Aさんの家の所から坂を登ったところ」「それなら近いね。誰と一緒に住んでる?」「一人だよ」「じゃあ、子どもは私一人だけ?」「私を誰だか分かる?」「顔は直ぐ分かるが、名前は・・・詮。お父さん」「お父さんじゃない、私はあんたの夫」「だって、いつもお父さんて呼んでるじゃない」「私はAとLのお父さん。二人の子どもがお父さんって呼ぶのをあんたも真似してお父さんって呼んでた。あんたのお父さんは岩滑の幹さん、お母さんはさか江さん。あんたは私の奥さん」「ごちゃごちゃして訳が分からない。私には子どもがいた?」「AとLの二人」「あなたには別に子どもがいたの?」「AとLの二人は私とあんたの子ども」「どんどん忘れて分からないことばかりだ。忘れちゃうのは病気?」「病気だから忘れるが、忘れたっていい。今のことは分かって話ししているが、時間が経つと忘れるだけ。過去のことは忘れてもいい。いつも今を大事にして楽しく過ごせばいい」「そうだね。その方が辛くない」「天気がよくなったから落ち込んだ気分も直ったね」「見てご覧よ、青い空。気持ちいいね。写真撮ったら」「写真撮ったら画面全部が青一色だね」「アハハ、そうだね」「外にいると寒そうでかわいそう。今日は大晦日?」「そう、明日は元旦。今年1月にここに来て1年たった。元気になってくれて嬉しいよ。今度は1月3日に面会に来る」「明後日?」「しがさって」「そうだね。来てね、待ってるよ。お父さん」「私はあんたの夫だよ」「ハイ旦那さま、だけど直ぐ忘れちゃう。寒いから気をつけて帰ってね」と手を振って見送ってくれた。210101c.jpg210101d.jpg